FBでの呟きのつもりが、随分長くなったので、こちらでアップを。

 

秩父宮での1日は試合→会見→囲み取材から、そそくさと家路についてPCを開いた。

 

なるべくニュースサイトを見ないように我慢した甲斐もあり、帰宅後まで結果を知ることもなく、ローマのゲームをオンデマンドで。体調面を考えてライブ中継を我慢した結果、週末最後の観戦となったゲームが、こんな素晴らしいバトルという幸福感に包まれた。

若干見渡したニュースサイトでも「イタリア大金星」というヘッドラインを見かけなかったことで、敗北は予期していたが、こんな負け方だったのは想定外!

しかし、このゲームを「数字」だけで判断することほどの不幸はない。レ・ブリュを迎え撃ったアズーリが、ここまで進化していたのは驚きだ。昨季もワラビー狩りなど成長を見せていたが、RWC優勝候補筆頭をここまで追い詰めるとは。

序盤のブレークダウンから異変は起きていた。昨秋からのテストマッチ。どんな対戦相手に対しても、フィジカルモンスターのような接点での圧倒的な強さを発揮し続けてきたブリュも、アズーリのコンタクトに1歩後退する。強烈な破壊力を持つブリュのバックロー3人のボールキャリーはトータル27回、そしてランメーターは139m。対するアズーリの3人は36回と152m。一概にこの数値が全てのパフォーマンスを物語るわけではないが、NO8ロレンッオ・カノーネ、闘将FLミケーレ・ラマロが、フランスのパワーハウス、NO8グレゴール・アルドリッド、前主将のFLシャルル・オリヴォンらとコンタクトで互角に渡り合った。

そして、もちろん昨季から驚異のスピードを見せるFBアンジェ・カプオッツォは、この日もスピードでインゴールを陥れた。〝2023年の福岡堅樹〟になる資格は十分にある。

JKジャパンともカナダ代表を率いて激闘を繰り広げてきたクロウリーHCだが、ここまでフィジカルで渡り合えるチームを造り上げたことは賞賛に値する。

 

5点ビハインドで、終了目前の敵陣ゴール前でのラインアウトという状況まで追い込んだという事実が、アズーリの力を如実に表している。金星に足りなかったのは、あと数メートルという距離だ。

 

そして、試合後の両チームのフィフティーンの表情も、この試合、2つのチームのパフォーマンスを物語っていた。ブリュもアズーリも、同じ表情を浮かべていたのだ。

勝者は5点のリードをわずか数mでかろうじて守り切った辛勝に表情を失い、敗者には6か国対抗王者を追い詰めた惜敗に、満足感を湛える者は一人もいず、勝者同様に無表情で円陣を組んだ。

 

終われば恒例の対戦相手との握手やハグも、一見どんな接戦も凡戦も変わらないように見える。だが、この日のローマでは、勝者の中に、握手を交わし、ハグをするときに敗者の背中に手を回し、軽く1回、2回と叩く者が少なくなかった。

 

些細な仕草だが、そこには敗者への底深い敬意がある。

 

すでに8月26日に、日本代表とのホームゲームが確定しているアズーリだが、ビジターにとっては相当厄介な相手になった。RWC開幕前最後の相手としては、むしろ有難いかも知れないが、厳しいゲームを経て本番を迎えることだけは間違いない。

 

 

ローマの敗者を称えたついでに、トゥイッケナムの敗者にも触れておこう。メディア的には「エディーの首を刎ねた後の初戦を落とした」と格好の餌食になる敗戦となったが、ローマ同様に敗者となったホストチームも、ポジティブなゲームだったと評価したい。もちろんその評価は、9月17日のニースでのゲームを踏まえたものだ。

 

スコットランドのエース、WTBドゥハン・ファンデルメルヴァの個人技などで、一発のロングゲイン、トライにやられたシーンは、防御でイージーなエアポケットを作る脆さもみせたが、ゲームを進めるためのベースになるFWのタイトな密集周辺でのバトルは、LO出身のスティーブンらしく重厚で地道。ラインアウトの成功率100%も、日本にはかなり厄介だ。

 

そのラインアウトを起点とした後半開始直後のトライは、7か月後のゲームを想像させるものだった。ドライビングモールに拘らず、早い展開からアングルを変えながらFWで縦を突くと、モメンタムを持ちながら2度の接点をパワーで圧倒。最後はブラインド側に待っていた突貫小僧のPRエリス・ゲンジがインゴールへ突っ込んだ。ちなみに、この日のゲンジは、BKを上回るランメーター83m、キャリーはチームトップタイの18回と、相変わらずの驚異的な数字を残す。昨秋同様、9月の対戦でも相当に苦しめられそうだ。

 

チームの基本ラインはエディー師匠からの継承だろうが、ベースとなるスタイルは、先ほども触れた重厚さのように、イングランド伝統のフレーバーを感じる。イングランドラグビーの王道を歩んできたスティーブンらしいラグビーだ。もちろん、ストロングスタイルだけじゃなく、キックからのトライもしっかりと見せてはいるが、2003年のワラビーズ以降、奇襲が大好きな師匠とは実は違った戦い方を志向しているように見えた80分間。前半37分のWTBマックス・マリンズのトライも、この日、ワークレートが光ったブラインドFLルイス・ラドラムが、右オープンでパスを受けてからコーナーへと迷わず駆け込んだストレートランが効いている。小細工なしのこの突進が、相手のカバーディフェンスの判断ミスを誘い、大外のマリンズが駆け抜けるスペースをクリエートしたのだ。

 

昨秋は196㎝のFBフレディー・スチュワードにしこたまやられたジャパンだが、スティーブンはエディーが起用してこなかった193㎝のWTBオリ―・ハッセル=コリンズも起用してきた。WTBに配したユーティリティーBKマリンズも、このゲームでハイボールへの強さ、反応の鋭さもしっかりと証明する。ジャパンが取り組むキックゲームも、よほどのキック後の処理、コンテスト、サポートをステップアップしなければ、命取りに成り兼ねない両刀の刃だ。

 

3チーム目のホスト敗者のレッドドラゴン。こちらは他の2チームとは異なり、ディシプリン、セットピース、防御と多くの敗因を積み重ねた完敗に終わったが、後半開始直後のトライシーンで見せたハンドリングなどに、パスラグビーの片鱗を見せるだけに留まった。帰って来た名将が、高齢化するコアメンバーをどう扱っていくかも含めて、その手腕が注目だ。