先週日曜日の今季ベストゲーム。勝者についての物語を優先したが、むしろ敗者の方に書くべきものがあったとも感じている。

 

「いやまぁ悔しいですけどね。ただチームが強くなる過程でね、苦しんで、悔しい思いをして、困難をしっかり乗り越えるのというのがね、強くなっていく試練だと思うんで。ただ、ちょっと前のイーグルスだったら、チャンピオンチームと善戦して喜んでいる戦士もいたと思うんです。今日、本当に全員がこの悔しさをしっかり忘れずにね…ポジティブな部分も沢山あったし、負けたけれど、自分たちの力をしっかり信じれるというか、確信できる試合でもあったと思う」

 

会見では、言葉を聞き取り、書き留めるだけではなく、出来る限り話者の表情、視線、物腰を見ている。そこに、思いが垣間見られる。試合後の会見で口を開いた横浜キヤノンイーグルス沢木敬介監督の表情からは、言葉に悔しさを滲ませながらも、晴れ晴れとした何かが読み取れる。

 

得たものと足りないものが分かりやすく示されたゲーム

 

こう表現するのは僭越だろうか。

ワイルドナイツがチームの深みを見せつけた試合だったが、同時に挑戦者が進化を明確に示した80分でもあった。

 

開幕6連勝のワイルドナイツを相手に5-7で折り返し、ノーサイド数十秒前までリードする接戦を演じた最大の理由は、互角に渡り合えたブレークダウンファイト。勝者のHO坂手淳史主将が接点での苦闘を振り返る。

 

「キヤノンさんが、僕たちに勝つためにフォーカスしてきたと思います。そこに関しては自分たちが修正していかないといけない部分です。ゲーム通して結構フィジカルでこられましたし、そこに手を焼きましたし、それがあったからこそ、きょうはアタックを上手く進められなかった」。

 

野武士が強みとするエリアのプレーだが、この日は接点でのホールディング、ノットロールアウェー、そしてノックオンで何度も笛を吹かれた。後半6分に相当深刻な怪我でピッチ去るまで驚異的なワークレートを見せたNO8アナマキ・レレイ・マフィを中心に、攻守でファーストマン、セカンドマンのヒットが強く、野武士に思うようなテンポを作らせない。

 

このエリアのことなら、彼に聞いてみたい――。そんな欲望に駆られて、ミックスゾーンに来てもらったのはFL嶋田直人。キヤノンが誇る〝ヒットマン〟は、ブレークダウンでのバトルをこう振り返る。

 

「(佐々木)隆道さん(アシスタントコーチ)としっかり取り組んできた部分がでたと思います。相手のメンバー見た時に、ブレークダウンですごいプレッシャーをかけてくるなと感じていた。そこに対してアタックでもディフェンスでも互角以上にやれていたと思うし、僕たちのほうがいいパフォーマンスをだせてたと思うので、自信になると思う」

 

チームの信条が、サンゴリアス出身の沢木監督ならではのボールを常に動かし続けるアタッキングラグビーなだけに、接点での善戦は評価できる。なんせ相手には、南アフリカの世界制覇メンバー、ルード・デヤハーに、NZ屈指のブレークダウンのスペシャリスト、ラクラン・ボーシェーと経験豊富な接点のファイターが勢揃いしている。現役時代、世界規格ではサイズに恵まれない中で、サントリー、日本代表で接点でのバトルで喰らいついてきた佐々木隆道の拘りが選手たちのプレーに宿る。京都のハードタックラーはこう続けた。

 

「ボールを動かすラグビーをやるとなると、そこ(ブレークダウン)が生命線になる。なのでアタックではしっかりクイックで出せるように、ディフェンスではスローボールにしないといいようにやられてしまう。そこに拘ってやっています」

 

一言一言に、ボールを持たずにチームに貢献する男の矜持が滲む。勝者で活躍したWTB竹山晃暉が「ブレークダウンで沢山(自分たちに)ペナルティーがあったので改善したい。考えていたよりハードで、後半切り替えようとしても出来なかった」とイーグルスの重圧を称えていた。嶋田くんとのやり取りの最後に、そのことを伝えると「相手チームにそういわれるのが嬉しいですね」とスタジアムを後にした。

 

CTB梶村祐介主将の言葉も、この日の善戦がどうして出来たのかを如実に物語る。

 

「今日に関しては、やはりブレークダウンで時間を作れたので、しっかりラインでプレッシャーをかけれたのが前回との違いかなと思います」

 

 

 

 

個々の接点でしっかりと戦えたことで、常勝軍団にいいようには球出しをさせず、その結果、次のフェーズでもしっかりと対峙できた。ここまで出来れば、無敵の相手にも80分間渡り合えることを敗者は証明した。

 

この日の接点でのファイトには、沢木監督もポジティブだ。

 

「そうですね、そういうラグビーのクオリティーの部分でいうと、もちろんポジティブな部分もあったと思います。アタックでいうと、パナソニックの防御をしっかり攻略できた時間帯もあったし、準備してきたことが上手くいった時間帯はあったと思う。ラグビーのベースは絶対に上がっていると思います」

 

エディー・ジョーンズの下で、アタックにこだわりコーチとしての経験を積んできた男が、ここまで接点での戦いも仕上げてきたのは賞賛したい。だが、指揮官はこう続ける。

 

「ただやはり、ここで勝ち切るという強さをね。このチームが、ここからトップ4に入って、優勝争いをする、そういうカルチャーを作るには、そういうことが必要だと思う。その差を日々のトレーニングで、ちょっとずつ埋めていくしかない。次の試合に向けて、チームとしてまたハードワークしていきます」

 

沢木監督が語るように、この試合がイーグルスにとって大きな収穫だったのは、確固たる自信を掴んだのと同時に、勝つためにはどうしても足りないものを明示されたことだ。

この試合のワイルドナイツについて書いたぶろぐで触れた、チームの深みを感じさせた残り5分が、敗者にとっても大きな意味を持っていたのは間違いない。むしろ、あのゲーム再開のキックオフの数秒と言っていいのかも知れない。

 

十分に相手の出方を警戒して臨んだキックオフだったはずだが、深めに蹴られたボールをキャッチング能力もフィジカルも計算できるFBエスピー・マレーが捕球しながら、竹山晃暉の好タックルで1歩も動けない。そして、ブルーのジャージーに矢継ぎ早にラックに入られてのペナルティー。梶村主将は痛恨の思いでこのシーンを振り返る。

 

「キックオフレシーブは、毎試合自分たちの課題に上がるところで、今日の試合でも2本か3本、簡単に相手に渡してしまうシチュエーションあった。ああいうことしているとトップ4のチームは簡単にスコアされるので、そこは引き続き改善していかなきゃいけない」

 

スキッパーが語ったように、最後のキックオフ以外にも、後半7分のトライ後のキックオフからボールをキープし切れずにワイルドナイツに攻撃権を渡す場面があった。他にも、アタックに拘りながらも長いパスが乱れてレシーバーが捕球できない、タッチラインを割ってしまうような精度が乱れるシーンも何回か見られた。どれも、高度なスキルや戦術でもなければ、相手のプレーに太刀打ちできなかったのでもない。1つ1つだけを切り取ると、そこまで深刻でもないスキル、プレーの完成度の問題だ。

 

見方を変えれば、そんな細々としたプレーの1つ1つを精度高く出来ていれば、極論すれば、あの残り5分を切ったキックオフをしっかりキープし、相手の反撃を自陣深くから押し返すことが出来ていれば、ワイルドナイツに2018年12月15日のNTTコム戦以来の黒星をつけることが出来ていたかも知れない。

 

そんな中で、先にも触れたマフィの負傷はチームには大きな痛手になる。それ以上に、願わくば予想に反して、早い回復が出来ればという気持ちしかない。イーグルスだけではなく、桜のジャージーでも日本を牽引してきた英雄だ。すこし痛がりの性格は代表時代にもよくわかったが、今回もそうなら有難い。まずは、マフィが不在でも、この日のような接点のファイトをどう演じていくか。ここにフォーカスするしかない。

 

ワイルドナイツにとって、この日の様な薄氷の勝利は日常かも知れない。だが、挑戦者がブレークダウンでのバトルで、80分間、勝利に手が届く領域で戦えたことも事実。そして、ラスト5分で証明した〝足りないもの〟も明らかだ。

 

この5分を、いつ、どこで、ボールを確保し、相手を押し返し、時間を使い切ることができるのか。乗り越えるための鼓動は、着実に高まっている。