▲王者のホーム、そして復活の鼓動高まる対戦相手にしてはやや寂しいKick off

 

 

時間で見れば12時キックオフの秩父宮が〝開幕〟だが、オープニングという位置づけは、やはりこの熊谷でのカード。結果から見れば、シーズンキックオフに見合うゲームになった。

 

立ち上がりからのBL東京の防御、ブレークダウンでの重圧が、ゲームに緊張感をもたらした。昨季試合を重ねる中で自信を掴んだ武器だが、開眼したシーズンは、その威力を十分に発揮せずに、しっかりと重圧をかける前にボールを展開する場面が目についた。しかし新シーズンは、キックオフから不動の王者相手にしっかりと重圧をかけ、彼らのテンポでボールを出させない。日本代表でも進化を見せ続けるLOワーナー・デイアンズが力強いキャリーを見せ、好調のまま開幕を迎えたNO8リーチ・マイケルも接点に絡み続ける。代表でスパークの時を待つWTBジョネ・ナイカブラも、昨季までの走り屋から攻守にワークレートの高いアウトサイドBKへと進化を見せる。青いジャージーが思い描いていたよりも手前で止められ、球出しも遅れる。〝赤い重圧〟に昨季リーグ戦では1試合平均8個しか反則を犯さなかった王者が、前半だけで7個のペナルティーを受けた。

 

結果的には3点及ばなかった敗戦をトッド・ブラックアダーHCは「素晴らしいチャレンジの日でした。前半のプレーは全体的に満足です。後半プレッシャーを積み上げきれなかった。ミスの数が多すぎた。規律が足りなかった。でも、自分たちが出来た部分は誇りに思います。順調に出来ている部分は増えてきているので、ここから沢山学んでいきたい」と前向きに振り返った。このコメントに間違いはない。指摘通りのゲームだった。昨季4位からの成長をしっかりと見せたチャレンジャーだったが、しかし王者は、その上に立っていた。

 

 

 

 

キックオフから50分以上ビハインドを続けていたホストチームだが、後半15分にSO松田力也が防御を崩して奪ったトライ&ゴールで19-16と初めてリードを奪うと、終盤のPG合戦を凌いで逃げ切った。

 

最終的には残り7分で3点差を奪って掴んだ勝利を、HO坂手淳史主将はこう振り返る。

 

「東芝さんのプレッシャーによるペナルティーが多かったと、試合をしながら感じていました。修正がすこし遅れた部分、ぺナルティー以外の細かいミス、繋がっていればトライになっていたミスもあったと思うので、そこは直していきたい。ただ、チームはまだ1試合目で、勝てたことがすごく大きい。勝ったことで、さらにポジティブに次の準備に進めると思うので、そこは試合でのチームとしての努力、見せたプレーを誇りに思います」

 

 

 

 

代表でもチームの先頭に立つスキッパーが認めるように、ゲーム中の修正が東芝の圧力で遅れたことがが苦戦の要因であり、残り30分でようやく修正できたことが勝利の要因。埼玉が他チームの追随を許さないストロングポイントでもある。この強さのエッセンスが如実に表れたオープニングマッチでもあったが、その奥深さは試合後の選手のコメントからも読み取ることが出来る。

 

まず、スキッパーからだ。東芝の激しいコンタクトに重圧を受けながらも、後半途中から流れを掴んだことについて、こう語っている。

 

「(ベンチにいた堀江翔太が)試合に出ているメンバーが感じていることとの差を伝えてくれた。特にブレークダウン周りのことと、相手のディフェンスがどうなっているか、アタックをどうすればさらに前に出れるかというところをコミュニケーションしました。自分たちは必死にやっているんで気付かないところも沢山あるが、そこの修正を上手く外から俯瞰して見ている選手が伝えてくれるのはデカいですし、そこをチームに伝えてくれることでゲームがよりよく進んでいくと思う」

 

15人だけではなく、ベンチの堀江がタッチラインの外側から伝えた情報を、オンピッチのメンバーが共有して、パフォーマンスを修正する。ベンチの仲間もオンタイムでゲームに参加しているのだ。どのチームも間違いなく行っていることだが、この情報処理能力で1歩先を走るのが、このチームの強みだ。〝逆転の野武士軍団〟は誰もが知るところだが、運動量やスキル、精神力だけでゲームをひっくり返している訳じゃない。フィールドに立つ15人、ピッチ外の仲間が、いかに情報を発信し合い、共有して組織としてパフォーマンスに繋げるか。世間ではインテリジェントなどと呼ぶ情報と知の領域で、他の追随を許さない。当の堀江は、こう振り返る。

 

「前半途中に話したのは、ブレークダウンへの寄りが遅かった、それだけですね。受けているというか、キャリーして向こうがジャッカルに入ってから、こちらも入るというような感じがしていた。もうちょっとコンタクトエリアに入った瞬間には、ブレークダウンに入らなければいけないので、そこの判断すごく遅かった」

 

 

 

 

実力のある選手を後半に投入して終盤の戦いで優位に立つというセオリーは、テストレベルでもトレンドだが、堀江のような経験値と戦術眼を持つ選手がベンチで試合を見ていることの、プレー以外の大きなプラス要素が2人の言葉からよく分かる。もちろん、堀江が先発しても、同じようなアドバイスをチームに伝えていた可能性は多分にあるが、15人以外のメンバーもチームの勝利に貢献するという強みを遺憾なく生かしているのが、このチームの強みになっているのは間違いない。

 

公式戦の復帰ゲームで存在感を見せつけた松田力也のコメントも、この指令塔の戦況を見極める力をよく示している。

 

「東芝はフィジカルなチームなので、絶対にそこにプレスかけてくるなと話していましたが、予想通りにかけられキャリアーが簡単に倒れてしまっていた。こっちとしては相手が寝ているんじゃないかという印象もあったが、そこはレフェリーの判断なので、しっかりコミュニケーションを取りながら、チーム内ではまずキャリアーがしっかり立って、ゲインライン越えて、その後にオーバー入る選手がいい判断をして、ボールを継続できるようにと話していた。試合が進むに連れて、そこがより意識できるようになった」

 

わずか1PG差。敗れた側から見れば野武士の首元に刃を当てた試合と受け止められるが、現実は、勝者が与えられた80分という時間の中で、相手の情報を読み解き、勝つために必要なプレーを選び、遂行して、スコアを1点でも上回るという、自分たちのルーティーンを履行した80分だった。

 

横浜vs神戸、埼玉vsBL東京と、開幕から息詰まるゲームを見せてくれた試合が続いたが、18日の東京SGvs船橋も熱量のあるゲームだった。

 

2004年度のトップリーグでの勝利から負け続けてきた船橋だが、昨季第9節の29-33という惜敗が自信になったかのように、キックオフから互角以上に渡り合った。

 

東京SGが信条のアタッキングラグビーを仕掛けても、オレンジ色の壁が立ちはだかった。攻撃を継続しても、船橋の選手1人ひとりの接点での強さ、激しさ、しぶとさに自分たちの目指すテンポまで上げられない。〝ハル〟ことCTB立川理道主将は「ディフェンスは準備していたものが出せたと思う。特に前半は前に出るディフェンスがハマったというか、プレッシャーをかけることができた」と振り返ったが、接点でのバトルで重圧をかけて相手の攻撃をスローダウンさせるという絵にかいたような戦いぶりだった。

 

圧巻のプレーは後半に生まれた。

 

アタックで魅せたのは後半2分。キックカウンターからWTB根塚洸雅、FBゲラ―ド・ファンデンヒーファーというジャパンコンビのアウトサイドBKでゲインラインを押し上げると、左展開から今度はLOデーヴィッド・ブルブリング、ルアン・ボタ、そしてPR海士広大のFW勢が防御を蹴散らかしてラックを形成。間髪を入れずにNO8ファウルア・マキシが密集から飛び出して30m近く走り込むと、最後はSH藤原忍-HOマルコム・マークス-FLピーター・ラブスカフニとクイックハンズ、オフロードを交えてボールを繋いで最後は2シーズン目のWTB木田晴斗がインゴールに飛び込んだ。

 

10分後には、防御が火を噴いた。東京SGが自陣深くから快足WTBテビタ・リーがキックカウンターを仕掛けたが、根塚の弾丸のようなタックルで減速させたところを立川が膝下に刺さる。かろうじてボールをキープしたWTB尾崎晟也にも立川、再び根塚、藤原、LOヘル・ウヴェらが取り囲むように抱え込んでのパイルアップでボールを奪い獲った。

 

個々の選手を見ると、両巨漢LOのワークレートと圧力は昨季と変わらないが、代表での経験も積んできたマキシが自慢のパワーに、スピード感のあるランも交えて進化を証明。SH藤原もクイックな球捌きで重量FWのアタックをアップテンポで動かした。代表キャップも掴んだ海士のワークレートの高さも、この日の快勝を後押しした。

 

初采配を勝利で飾れなかった東京SG田中澄憲監督は試合後の会見で「(船橋に)非常にいいプレッシャーを受けて自分たちのラグビーができなかった。完敗と言っていいと思う」と勝者を称えた。同時に「同じ絵を見ているかという点には課題もあると思う。そこはプレシーズンを戦ってきたメンバーと日本代表で抜けていたメンバーお互いが、コミュニケーションも含めてグラウンドで確認して合わせていく必要がある」と敗因に触れている。

 

代表組のSH齋藤直人、FB松島幸太朗らは先発したが、日本代表で活躍したCTB中村亮土をベンチスタートにして、同じCTBサム・ケレビ、NO8ショーン・マクマーン、新加入のゲームメーカーSOアーロン・クルーデンが調整中という布陣での完敗。リーグ最終節に組まれる再戦でのリベンジを目指す。

 

2回に分けて開幕節の好カード3試合に触れてきたが、他のディビジョン1のゲームも、東葛が花園に競り勝ち2018年シーズン以来の勝利を掴み、東海〝モーターズ〟ダービーも5点差のデッドヒート、そして昇格シーズンの相模原がBR東京を下すなど、熱闘とトピックスばかりの開幕節だった。

 

その一方で、観客数に目を向けると、やや寂しい印象は拭えない。ディビジョン1開幕節6試合の観客数を見てみよう。

 

 

埼 玉  vs BL東京 熊谷    10557

トヨタ  vs 静 岡  豊田    12213

BR東京 vs 相模原   秩父宮    5842

東  葛 vs 花  園  柏の葉  3150

東京SG vs 船  橋  味スタ  10842

横  浜 vs 神  戸  三ッ沢    8710

 

 

6試合の総観客数は51314人で、1試合平均は8552人だった。

絶望的に少ないとは思わないし、6試合中半分の試合で1万人台の観客を集めている。

だが、国内テストマッチでは5万、6万人を集め、シーズン後には日本代表が4強に挑むワールドカップが控えるシーズンだ。〝大台〟の豊田、熊谷でも、器のサイズからは寂しい印象は免れない。

 

昨季はパンデミックで実現しなかった国立競技場での開幕戦もなく、ワールドカップ会場でもあった器も、満杯には程遠い集客は、まだまだ伸びしろも、人を集める創意工夫も残されているだろう。チームもリーグも、昨季夢に終わった国立キックオフを満杯のファンで迎えよう、国立がなければ、豊田を、味スタを満員札止めにしようといった気概やチャレンジがなかったことが残念だ。

 

もちろん、リーグにも個々のチームにも数万という単位のファンを集めるノウハウも、マンパワーもまだ備わっていない。

それでも打席に立たなければ、ボールはバットに当たらないし、ホームランもあり得ない。