2シーズ目を迎えたリーグワンが始まった。

開幕ウイークにお邪魔したのは熊谷、そして横浜。日曜日は調布の昨季2位vs3位対決も注目だったが、敢えて三ッ沢へ。報道陣の大方のお目当ては金髪ロン毛のおチビちゃんだったようだが、こちらにはそんなに興味なし。3シーズン目を迎える沢木敬介監督が横浜キヤノンイーグルスに落とし込むスタイルの熟成具合を、ライブで確認したかった。

 

結論からいえば、昨季から1歩進化をみせていると評価していいのだろう。序盤のセットプレーでビジターがミスなく攻めることが出来ていたら、展開は変わっていたかも知れない。昨季の第2節に同じ相手を55―21と圧倒したゲームほどの差はつけられなかったが、〝苦戦〟の大きな要因はブレークダウンでのペナルティーの多さ。反則数は敗者の11に対して13。わずか2の差だが、攻め込んでのペナルティなどチャンスを潰すシーンが目についた。勝てたことでご愛敬にもなったので、普段は厳しめの指揮官も口調は穏やかだ。

 

「開幕戦は本当に上手くいかないことが沢山あり難しい中でも、結果として勝てることが出来た。いいスタート切れたと思います。簡単に崩されてというよりは、自分たちで崩れた場面が多かった。今日でいうとディシプリンを意識できる、いい勉強になりました」

 

不要な反則を繰り返したのは次戦への大きな課題だが、観戦して感じるのは、重圧に耐えきれずに犯したというよりは、接点でのバトルを積極的に挑む中で、元ヴェルブリッツSHの滑川剛人レフェリーとの判断に乖離があったという印象。厳しく判断すれば、チーム側が試合中に修正して反則を減らすべきだが、結果的に敗戦になるまでには笛を吹かれなかったのがこの日のゲームだった。

 

本題の沢木流のラグビーだが、サントリー時代から継承するボールを常に動かし続けるスタイルが根幹。そこに、スペースにボールを運び、数的優位を作り、相手には作らせないという太目の枝葉がつく。開幕戦という段階では満足出来る仕上がりと見えたが、指揮官も前向きだ。

 

「(反則の多さで)思ったようなゲーム展開にならなかったが、アタックで、スペースにしっかりパス、ラン使って攻めることは、3年目ですごくセイムピクチャーを見れていると思います」

 

昨季の埼玉ワイルドナイツ戦が印象に残る。1月の第1戦は3-27と敗れたが、3か月後には24-33と喰らいついた。途中でリード奪うPGチャンスがあったが、チームはタッチからのトライを狙い、敗れた。それでも指揮官は「あそこで狙っても意味はない」と言い切った。就任2シーズン目、まだチームは自分たちのスタイルを掴もうと模索して、もがく中で、2022年4月の時点で必要なのは、強豪相手に自分たちのスタイルで勝負を挑むこと。この投資を指揮官は貫いた。

 

そして迎えた3シーズン目。チームが掲げたスローガンは「ウイナーズ・マインドセット」。昨季まで投資の段階から、勝利に拘るマインドをチームに求めている。「掴み取れ!」というシーズンテーマも掲げる。

この目標を達成するために、昨季足りなかった1つの要素が選手層の厚みだ。終盤までトップ4の可能性を残していたが、埼玉、神戸に連敗するなど最後の最後に失速した。指揮官も選手層は十分意識して強化を進めてきた。

 

「昨季はスターティングメンバーと、怪我した時の戦力に大分差があったが、今季は厚みがでている」

 

主軸に成長するPR岡部崇人も、選手層には自信を感じ取る。

 

「メンバー外の選手の底上げも沢木さんが取り組んでいた。昨季よりもメンバーを固定せずに練習試合をしてきたので、試合に対する自信とか、練習でフルコンタクトでやるときの自信とかも、メンバー外の選手もでてきたと思う。誰が出ても変わらないというか、気持ちの部分では負けてない」

 

勝ちゲームの軸となったのは、やはり不動の10番。そう、田村優の判断とボールさばきだった。

 

開始8分には、まず個人技で魅せた。スクラムを起点にした連続攻撃から、自らパスを受けると、ミスマッチの防御の内を突くと、カバーの9番にはタックルをさせながらインゴールへ飛び込んでゲーム初トライをマーク。南アフリカ代表CTBジェシー・クリエルからのオフロードをFBエスピー・マレーが仕留めた14分のトライでは、CTB梶村祐介からボールを受けた田村がクリエルに角度のある鋭いパスを送って、神戸防御に間隙を作っている。攻撃の起点として相変わらずの判断とスキルを見せる。27分には、神戸防御裏の心憎いショートパント→ラックから再びボールを持つと、今度はフラットパスでFBマレーを空いているスペースへ走らせた。

 

本人は「ま、こんなもんですかね。(チームへの戦術の浸透は)3年やってるんで、練習は出来ていても、今日出来なかったことも多かったので、そうっすね、ま、ちゃんと試合で出来るように」と、サバサバと語ったが、ゲームメーカーと同時に防御も気を吐いた。

 

開始3分の神戸FB山中亮平へのドンピシャタックルで〝ヤル気〟を感じさせた田村だったが、18分にはHO松岡賢太の仕掛けを堅実な防御で抑え込む。派手さはないタックルだったが、この時間帯、ゲームのペースを握りたいと仕掛けてきた神戸の攻撃を寸断するには値千金のプレーだ。後半15分には、神戸の新鋭兵器CTBナニ・ラウマペが、インサイドへアングルをつけて駆け込むランをロータックルで仕留める。本人は「めちゃ(当たりに)くるんで、怖かったですけどね。一応、吹っ飛ばされても誰か(次の防御に)くればいいかなと。時間稼げればいいかなと思って」と照れ隠しするが、直後の自陣でのターンオーバーを注目のSHファフ・デクラークのファインプレーのように称える声もあったが、その前に田村がタッチライン際で神戸WTB井関信介の快走を止めたタックルが効いている。

 

2019年ワールドカップから昨秋まで、ジャパン不動の指令塔に君臨してきた。その状況の中での判断と実行力は、キャップ50を超える実績を持つCTBが「優さんの判断は、ほぼすべて正解」と語るように、天性のものを感じさせる。その一方で、勝負どころの防御、そして勝敗の鍵を握るようなショットと、時折見せる不安定さは、世界のトップ4を狙うチームの10番としては、課題も残してきた。今夏の代表戦で10番の座を李承信、山沢拓也らに明け渡し、秋のテストシリーズではスコッドにも、その名前がなかった。本人は「皆さん想像している以上に厳しい指摘はされてきた」と、代表サバイバルの難しさも認めていたが、この日の攻守でみせたパフォーマンスから読み取れるのは、まだ自分が十分にジャパンで戦いたいという不屈の精神だ。

 

得意のキックも冴えていた。前半17分、敵陣でのパントも、滞空時間、22mライン前の落としどころと、完全にコントロールされた心憎いクオリティーをみせると、前述した27分のショートパントとスキルを見せつけた。相手がクイックスローをしたがるロングタッチでは、しっかりとスタンドまで蹴り出す堅実さも、豊富な経験値を感じさせる。スクラムでFWが奪ったPKからミスキックでチャンスを潰すなど、開幕の固さ、不安定さを覗かせたトイメンで現役代表の神戸SO李承信とは明暗を見せた。

 

いまや世論は、新しく10番を背負い始めた若手SOにときめき、大怪我から盤石の復活をアピールする松田力也(埼玉ワイルドナイツ)に期待感を高めているように見える。だが、イングランドが日本戦で見せたように、激しいラッシュアップ防御など、世界で戦うには瞬時の判断や選択が重要度を増す中で、三ッ沢で輝いた33歳の才気は侮れない。ヨーロッパを舞台に展開した秋の代表戦をみても、様々な質のキックを使い分け、攻守でキック前後にどう組織として動くかという判断力が、従来の10番以上に問われるのが、これからの国際ラグビーだろう。ワールドカップへ向けたメンバーの選考は、代表監督を筆頭にしたセレクターの専権事項。現場でチームと選手を見続けてきたスタッフの決断を尊重したい。だが、饒舌ではないが、ゲームを読み、スペースを見出し、パスとキックの高いスキルを駆使して豊かな表現力をみせるベテランSOを代表32人に置いておくという選択肢は顧慮するべきだと思うが、いかがだろう。

 

この腕白33歳と同時に、返り咲きへの輝きを放ったのが、タイトヘッドの岡部だ。すでに国内リーグでも一定の評価を得て、昨夏の代表候補合宿にも呼ばれたが、テストマッチのメンバーには届かなかった。そうおいそれとは評価は変わらないPR勢のヒエラルキー。タイトヘッドでは、運動量のガッキー・稲垣啓太(埼玉ワイルドナイツ)、スクラムの強さでクレイグ・ミラー(同)という2人の野武士が君臨するが、この26歳にも挑戦権を与えたい。

 

「!」

 

イーグルスの背番号1のプレーにこんな記号が頭に灯ったのは前半3分。先ほども触れた神戸期待の弾丸ランナー・ラウマペのランを一発で仕留めた。

 

本人は「もうちょっと頑張れるところがあったのは反省点ですね。特に後半しんどい時間帯で動き回るのが僕の強み。もっと動けたかなとという思いが、自分の中にはある」

 

 

 

 

後半の踏ん張りの物足りなさが本人の頭の中には詰まっていたようだが、神戸のような実力のあるチームに、前半主導権を握らせなかった序盤戦で、何度もチームに貢献したのが、この日の1番だった。

 

12分のラインアウトでは、相手にタップされたボールを、抜群の反応で好セービングを見せると、24分の自陣22m付近の神戸右オープンでも、相手キャリアーにズラされながら片手を足にかけて攻撃をスローダウンさせるなど、密集周辺やルースプレーで何度も1番の背中が見えた。

本業のセットも負けていない。田村の初トライの起点となった敵陣22m前のファーストスクラムでは、代表51キャップの〝戦う係長〟ヤンブーこと山下裕史のプッシュをがっちりと受け止め、圧力をかけた。11分の2度目のスクラムも相手コラプシングを犯させるなど、序盤戦のスクラムを制圧。「押したというか、相手が落ちたのをレフェリーがちゃんと見ててくれただけなので、押し込んだというよりは、考えてスクラム組んだ感じです」と涼し気に語ったが、右PR杉本達郎、HO川村槙と、新加入の2人とも固いパックを見せてセット戦を支え続けた。

 

ボールを動かし続けるアタッキングマインドが強い沢木体制では、フロントローの岡部にも過酷な注文が飛ぶ。

 

「毎試合毎試合、肺が千切れるくらいまで、メチャクチャしんどいですけど、それを体現してこそ結果もだせると思うので、それは死ぬ気で毎試合やってます」

 

指揮官からの厳しい注文が、いまの岡部を作り上げた。

 

「常に100%で練習しろ、それが試合に出るからと言われてきました。僕が100%でやってるつもりでも、お前は100パじゃないと言われて、どういうことやねんと思うんですけど、やはり100%じゃなかった。それを徐々に積み重ねてきて、試合に出してもらえるようになった。沢木さんが正しいことをずっと言い続けてくれたので、いまは感謝しています」

 

加えておくと、我孫子からやってきた35歳のルーキーHO川村も、ブレークダウン、タックルと、様々なシーンに顔を出すことで、相手に重圧をかけ、判断を替えさせるなど、ベテランならではの貢献を見せている。

 

岡部のスクラムワーク、ルースプレーでのワークレートを考えると、即代表ではなくても、テスト以外も含めた国際レベルの実戦を積ませることが出来れば、さらにワンステージ上の選手に成長できる可能性を秘めていると痛感させられる。現行の代表メンバーですら、ワールドカップまでの逆算でテストマッチのプレー時間が厳しい中で、候補レベルの選手への投資が難しいのは十分に理解できる一方で、彼らのような世代に経験値を積ませる〝離れ業〟が求められるところだ。情け(もしくは投資)は人の為ならず。

 

キヤノン戦ということで、読まれている方の中には「で、あのSHは?」という期待もあるのだろうか。他のご立派な記事では、うんざりするほど(?)書かれ、礼賛されているだろから、ここでは最小限に。ホンネは一行も触れないでおくつもりだったが、後半16分のターンオーバーに絡んだプレーや後半26分のトライアシストを世界最高峰のプレーと勘違いしていただきたくないので、彼のデビューゲームでのベストプレーを書き残しておこう。

 

場面は後半33分。神戸陣22mライン内でのラックが崩れかける中でボールを持ったデクラークは、NO8に転身したアタアタ・モエアキオラのサックを強靭な上半身を使って振りほどくようにして左へ駆け込み、タッチ際を加速するWTBへ好パス。その後のラックに再び入り込んで、相手反則を引き出した。ほんの1秒2秒という時間の中で、世界一級品のフィジカル、判断、ランを見せつけたプレー。本人は「今日のプレーは満足してます。田村優と二人でチームを引っ張ることが出来ました。日本のラグビーは、思っていた以上にフィジカルだし、これからはもっとボールインプレ―の時間が長くて、フェーズも重ねるような速い展開になるだろうね。今日出た課題をしっかり修正して、次のクボタの強みを分析して、それからクリスマスを楽しみにするよ」と家路に着いた。

 

横浜の勝利を書き立てたが、むしろ神戸の開幕の躓きが、このゲームの大きなテーマだったかも知れない。

 

昨季も決して多くのゲームをカバーしていなかったのだが、パフォーマンスの悪さを今季も引きずっているようにも映った。

 

まず連繋が拙い。開始2分、最初のチャンスを掴んだのは神戸だった。敵陣22mライン内でのラインアウト。キャッチはできたが、自慢のモールを押し切れない。PK を得て再びモールを組んだが、ボールをこぼして攻撃権を失った。5分には期待のSO李が敵陣22m付近で好ブレークを見せたが、サポートが反応できすにチャンスを潰した。リトル―ラウマペという強烈なミッドフィールダーも、単調なアタックも祟り相手防御に好きなようには走れない。序盤の主導権争いでスクラムも反則、押し込まれるシーンが続く。17分のラインアウトも捕球後にファンブル、20分も捕球したがモールを押せずにチャンスを作り出せない。後半に入っても、チャンス時のラインアウトでクリンキャッチできず、攻めても敵陣でパワー自慢のアタアタのラインアタックを、相手CTB梶村にボールをもぎられるなど精彩を欠くプレーが最後まで続いた。

 

東芝の全盛期をNO8として支え、今季コーチからヘッドに立ったニコラス・ホルテンも「自分たちのミスでチャンスを失った部分が、特に前半に多かった」と悔しさを滲ませた。東芝時代から真面目な選手で、神戸でのコーチでも実直さが取柄のニック。すこし厳し目だが「ボールがキープできないシーンが目立ったが、まだまだ熟成が必要なのか」と聞いてみると「そうですね。プレシーズンでも起きたことだが、攻守でまだ100%といえない部分が、正直あります」と認めている。

 

ニュージーランド・ラグビーの重鎮、ウエイン・スミスがチームに加わり、神戸製鋼所のアイデンティティーである製鉄所の高炉を精神的なシンボルとして、チームが一つになった18、19年度の連覇から3シーズン。何かチームに、ピッチに立つ15人の1人1人の間に、見えない間隙があると感じるのは単なる思い込みだろうか。技術的な問題だけなのか、精神的な「何か」が横たわるのかは、チームの中に回答があるだろう。

 

この日、MOM級のワークレートを見せた南アフリカ代表FLマルセル・クッツエーを筆頭に選手のポテンシャルは十分にある。いつ戦いの高炉に火が付くのか。速い時間での着火を待ちたい。