▼関東大学対抗戦A 2022.11.20 東京・秩父宮ラグビー場

帝京大 29-13(前半12-6)明治大

 

 

黄金色の銀杏並木も見つめる対抗戦の全勝決戦。

注目のカードは、いやはやなんとも帝京大の強さが際立った。

 

ここまでの公式戦を見てきて一部のファンはお気づきと思われるが、帝京のスクラムがべらぼうに強いのではないか――。こんな憶測から、キックオフ前の練習を眺めながら思い浮かんだのは「伝統のメイジスクラムが、ゴリ押しされたらどうなるのか」という不安(期待)だったが、実際にこの杞憂が現実になった。

 

キックオフは、明治CTB廣瀬雄也(東福岡③)の絶妙のタッチのキックで、帝京にいいプレッシャーをかけての、ブレークダウンでのPK獲得。わずか15秒の出来事だった。そのまま開始2分の、こちらも広瀬がサラサラヘアをなびかせての先制PGという最高のスタートとなった。だが、勝ち試合のシナリオはここまでだった。

 

4分、敵陣ラインアウトから紅葉のような赤いジャージーの帝京が仕掛けると、早く代表クラスで経験を積ませたいHO江良颯(大阪桐蔭③)が、まさにハヤテのように縦を突き紫紺の防御を切り裂く。敵陣22m内でラックとなると、右展開からSO高本幹也(大阪桐蔭④)の好判断の飛ばしパスでWTB14小村真也(ハミルトンボーイズ②)がインゴール右に飛び込んだ。

そして、この日の勝負を帝京サイドに大きく傾けたのが開始8分の初スクラム。帝京ゴールラインを背にした位置で組み合ったが、伝統的に〝重戦車〟と呼ばれてきた明治スクラムを帝京の8人が強烈に押し込んでのコラプシング。その後も紫紺の壁をめくり上げ、帝京FWの〝赤い雄叫び〟が何度も鉛色の空に響いた。

 

前半途中から明治もスクラムに修正を加えて応戦したが、帝京優位は終始変わらず、日本代表、三洋電機(現埼玉パナソニックワイルドナイツ)でタイトヘッドとして活躍した相馬朋和監督も、会見では満足そうに巨体を揺すった。

 

「いつもゲームの勝敗に直結できるような、そんなスクラムを組んでほしいと思って、学生の成長をサポートしているつもりです。そういう中では、大きなゲームの中で影響を与えることがた出来たと思うので、いいスクラムだったと思います」

 

 

 

 

スクラムに負けず、いやスクラム以上にインパクトを残したのがディフェンス力。

圧巻は、前半30分からの自陣での攻防だ。

FKを起点に明治に22mライン内での連続攻撃を許した帝京だったが、ゴールラインを背負ったピンチに真価を見せた。明治がFW、BKを駆使して攻め続け、数えたアタックフェーズは21回。しかし、赤い壁と化した帝京防御は、ゴール前5mラインを割られながらも紫紺のジャージーに刺さり続けた。タックルも素晴らしいが、ラックの見極めを冷静に続けて、ライン防御にギャップを作らない。最後は、明治SH萩原周とFB安田昂平の間でパスが乱れてのノックオン。1次攻撃の起点より10m近く明治を後退させた位置で攻撃を寸断してみせた。

 

この帝京の防御について、猛攻を止められた明治・WTB石田吉平主将(常翔学園④)は、こう振り返る。

 

「フィジカルのところでは負けてなかったですし、そこをしっかり出して1対1で勝てるのは自分たちでも確認したが、全員が同じ絵をみれなくて…自分たちとして、どこを攻めるかが共有出来ていなかった。そこはキャプテンである自分の責任だと思うし、そこをもっと、チームの方向性をしっかりと決めて、キャプテンとしての仕事をもう一回確認したいと思います」

 

 

 

 

この厳しい防御から数分後、前半終了直前にゴールポストから左中間27m付近でPKを得た明治が、トライを狙わずPGを選択。スクラム、ディフェンスで手を焼きながら6-12と、1トライ1ゴールでひっくり返るスコアで折り返したのは明治の底力を感じさせたが、わずか6点という僅差にも、トライ獲得をチャレンジせずPGでの加点を選択したことで、心理的には帝京のマウントポジションは揺るぎない方向へと傾いていった。

 

スコア上では帝京を射程に捉えて折り返した明治だが、開始3分には、帝京陣10mライン付近での左オープン攻撃を、帝京WTB小村に絵に描いたようなインターセプトで2本目のトライを献上。明治にとっては、僅差に迫ったことでスコアすることを意識しすぎた自滅でもあったが、その結果の19-6というスコアは、帝京フィフティーンにとってはゲームを楽に進めることができるリードになった。

 

スクラム、防御で優位に立てばゲーム運びはかなり楽になる――この定理をしっかり証明した帝京だったが、このチームの奥深さを感じさせられたのは、試合後の会見でのゲームキャプテン高本の言葉だった。

 

「去年よりチームワークは1人ひとりが意識しています。23人だけじゃなくて帝京の学生全員がチームワークを大事にしようとしているので、その部分は試合にもでているのかなと感じます」

 

こんなコメントに、頭の中で「?」が灯った。

9連覇を続ける中で、帝京ほどチームワークを心がけてきたチームはない。大学一かはとにかく、前任の岩出雅之監督時代から、上位校の中でも常にチームを意識して、組織としての活動を重視してきたのが帝京大だ。そのチームがなぜ、いまさらチームワークというワードを使うのか。高本はこんな説明をしてくれた。

 

「(去年までのシーズンでは)試合中に暗くなってしまう時間帯がどうしてもあった。そのために僕たちに隙ができてしまうかも知れないので、そういう隙を作らないために、いろいろな悪い状況になっても皆が元気でいられるようにチームワークを重視してきました」

 

大学王座を奪還した昨季は、細木幸太郎主将(現東京サントリーサンゴリアス)というチームにエナジーを与えるキャラクターが、チームを頂点まで引っ張った。見ている側で、そのような「隙」を感じさせるシーンは多く感じなかったが、9連覇を遂げた2017年度以降の優勝から見放された時期のチームを振り返ると、相手に反撃されたような状況で、まるで機能停止してしまったかのようにパフォーマンスが落ちるシーンは目についた。

 

会見という限られた時間、状況の中で、このような過去の状況が高本の指摘する「隙」と同じものなのかは確認できなかったが、この常に冷静に状況を読み続ける指令塔の中に、チームを昨季まで以上に連繋、コミュニケーション、相互理解やセイムピクチャーというワードで強固な組織にしたいという強い欲求があったことだけは間違いない。大学レベルでは屈指の完成度を誇るチームが、さらにチームを1つにしたいと考えるのだから、他のチャレンジャーたちは、勝つには相当の覚悟と準備が求められる。

 

帝京が勝ち点5を得たことで、早くも(なのか?)対抗戦1位が確定したが、監督としての初優勝を相馬監督はこう総括する。

 

「4年生にとっては大切な1年。一度しかない人生の中で、こうやって1つ1つ勝ってきた成果として、区切りの試合に勝てることは本当に心から嬉しいことです。もちろん1戦1戦勝てば嬉しいしし、先はみています。日本一を目標にして、いままでも、これからもやっていきたい。ただ、やはり1年目のことは生涯忘れないと思います」

 

 

▲オマケの1枚。主人公は校歌斉唱の帝京フィフティーンでも、色づく外

の並木でもなく、左下の黒い背中の明治・神鳥監督。相手の校歌もしっ

起立のままという姿が人間性を示しています(どこのコーチもだが…)  

 

 

胴上げなしのV確定だったが、指揮官は「まだ体重減ってないんで。たぶん(大学選手権)決勝も間に合わないんじゃないですかね。選手の安全のために胴上げをしないようにね」とおどけて見せた。

帝京を大学最強チームに鍛え上げた岩出雅之監督が築いた、グラウンド内外でどんな時も驕らず、ひたむきに、真面目に、ハードワークを続ける伝統を継承しながら、持ち前の朗らかさ、ワイルドナイツで培った人懐こさを垣間見せながら戦い続ける指揮官と〝赤い旋風〟帝京大ラグビー部。

 

明治相手にみせた、スクラム、防御、そしてチームワークに、伝統のひたむきさを、打ち破るチームが果たして出てくるのか…。

 

冬の訪れとともに近づく大学ラグビークライマックスは、真紅のジャージーを軸に進むことだけは間違いない。