▲会見で取材に応じた立教・安藤共同主将。古豪のロータックルは健在です

 

 

週末はいろいろと見応えのあるラグビーが続いた。

無精して、週明けにまとめで書きました。

 

まぁ、何と言っても東洋大。福永昇三監督の1部デビューを賞賛したいが、代表ファーストでケープタウンから。

 

女子7sは1回戦の敗退が全てだが、最終的に優勝チームと当たったのだからやむを得ない。その後、失意の中でランキング16位、11位、13位と好ゲームを演じてみせたのは収穫と考えたい。ワールドカップ開幕前までは世界15位前後という位置づけだったが、大会のパフォーマンスを見ると12位前後に食い込み、トップ10をリアルな目標に据えることができる立ち位置に入ってきた。

 

本格的にチームを磨く場となるのは、コアチーム入りするセブンズシリーズ。12月のドバイから新しいステージでの挑戦が始まる。参加チームの多くが、自分たちよりも上位というサーキットで経験値を上げ、チーム、個々のポテンシャルを磨くことができれば、4年後の祭典では決勝トーナメントで戦えるチームに飛躍できる可能性を感じている。

 

一連の「上位」との闘いを通じて感じるのは、日本選手のプレーのクォリティー。

ケープタウンを「好ゲーム」と抽象的な表現を使ってしまったが、フィジカルで持っていかれるシーンはあったが、1つ1つのプレー、ナレッジの質が、ランク10位台のチームをすこし上回っているという印象を持った。

 

相手のプレーになるが、ブラジルが接戦の中でも後半途中に日本の防御を突破してインゴール右に飛び込んだトライは、実は内側を2人の選手がしっかりとサポートランしていた。もちろん不要なパスでミスが起きてトライを失うリスクを考えたとも推測はできるが、状況は3対1。ゴールライン間際か、一拍置いてインゴールで内側にパスして、コンバージョン成功の確率を上げるべきだった。実際に、ゴールは失敗。この2点を加点しておけば、ビハインドを7点に縮めて、残された数分でジャパンに十分にプレッシャーをかけられただろう。結果は知らんけど。。。

 

このようなプレーは、おそらく日本代表はしない。よほどランナーが競り合ってギリギリのトライシーン以外では。

ランク10位台のチームは、結構な割合で個々の能力中心のラグビーをしている印象だ。日本代表は、来年のワールドシリーズで揉まれる中でも、スキル、フィジカル、状況判断と足りないものは沢山露呈するだろう。だが、トップ10に食い込むための、プレー、スキルの質を上げる作業は、鈴木貴士ヘッドやスタッフ陣、そして、それまでのコーチたちがコツコツと積み上げたものだろう。まだ世界には遠く及ばない段階でも、少しでも世界基準のプレー、スキル、考え方を選手に植え付けようという作業が、プレーにも見ることが出来る。タックルされた後のボディー&ボールコントロール、セカンドマン(ウーマン?)の入り方、リロードの献身さ(早さ)などの質の高さから、日々の積み重ねを感じられる。ワールドカップ前のチャレンジャーシリーズの1位が精一杯と考えていたが、ここまでの積み上げが世界トップの舞台でも垣間見られた。世界のサーキットで揉まれる中で、さらに磨かれていくものを期待したい。

 

そして、9月2週のメーンイベントとなった東洋大の金星。

見事としか言いようがないが、まず称えるべきは80分間刺さり続けたタックルだろう。

 

 

▲金星初陣の東洋大。右から福永監督、齋藤首相、

ストハイゼン。190㎝の福永監督がフツーの人に…

 

 

試合後の会見で、FL齋藤良明慈縁(ラミンジエン)主将(目黒学院④)にこんな質問をしてみた。

 

「この日のタックル、あなたたちのスタンダードですか? それとも今日が特別よかったのですか?」

 

彼は迷わずこう答えています。

 

「自分たちのスタンダードです!」

 

ベースになったのは、フィジカルバトルで互角に戦えたこと。

ブレークダウン、タックルとリーグ戦王者と渡り合える力をつけていたから、焦りやプレッシャーはあまりなかっただろう。15人が何の恐れもなく、東海のブルージャージーに襲い掛かっていた。

そこに、FLタニエラ・ヴェア(目黒学院③)の無尽蔵の運動量を生かした再三のハードヒットがスパイスとなった。

 

工夫も王者を上回っていた。

211㎝のルーキー・ジュアン・ウーストハイゼン(ヘルブメカールカレッジ①)は、東海大も特に空中戦では要注意と考えていたはずだ。だが、開始直後のラインアウトで彼に放らず、2回目も回避。そして7分の3度目の正直では、ロングスローで駆け込んできたWTBモーリス・マークス(ヌールトヒアヴェル高②)がダイレクトキャッチして、そのまま防御を切り裂きインゴールへ飛び込んだ。予想を覆すどころか、予想をさらに上回る予期せぬプレーに、東海が完全に翻弄されての失点。主導権は新参チームが握り、王者が対応に追われる状況が明らかになった。東洋で明らかなのは、ヴェア、マークスと実力のある選手の能力をしっかりと使って勝負していることだ。

 

とはいえ後半32分には東海が24-22とリードを奪う試合展開。王者も勝てるチャンスは十分あった。自滅感が強いのは、キックオフから中盤までのボールの動かし方だ。目についたのは、ファーストフェーズや少ないフェーズで大学ナンバーワン指令塔、SO武藤ゆらぎ(東海大仰星③)にボールを持たせる選択。東海の強みといえば、力強いFWだ。もちろん大男のダイレクトプレーも使ってはいたが、しぶとく守り続ける挑戦者に、もう一発、二発、重量級のボディーブローを食らわし、プレスをかけ、数的優位を作ってからの〝ゆらぎ〟が理想形。ライン防御がしっかりと張られている状況で、ゆらぎくんにボールを持たせて、いいステップで崩しかけても、次のレシーバー、その次の選手がボールを持った段階で、防御の裏に出るようなアタックには結びつかなかった。

 

余談になるが、この日の秩父宮。あのスティーブ・ハンセンさんも熱心に感染。アドバイザーしながらどこぞの強豪代表チームの監督になっちゃう輩もいるけど、世界の名将が学生のゲームを見に来ているとは。しっかりトヨタでのお仕事しています。

 

 

▲横顔にもならないので見づらいけど生ハンセンさん…お目当ては帝京メンバー?

 

 

東洋のチームスローガンは「パラダイス」。東洋大ラグビーに名を残す原進、いや阿修羅原と書いた方が適切か。その偉大なOBをリスペクトすれば、天国ではなくやはり「阿修羅」がスローガンに相応しいが、福永監督はスポーツチームというよりはパチンコ店か怪しい歓楽街の看板のようなワードを掲げている。だが、選手の防御、ワークレートを見れば、過酷なハードワークがあって初めてピッチをパラダイスできるという掟が叩き込まれているのは間違いない。

 

そのハードワークを選手に課しているのが、福永監督を筆頭に山内智一コーチ、母校東海でも指導経験がある宮本安正FWコーチというパナソニック、いや三洋電機OB勢。試合は楽しく、練習は厳しくという風土の中で、消滅目前の三洋電機を国内最強チームに押し上げた戦士たちだ。チーム名は「TOYO」だが、そのハートの部分には「SANYO」の伝統が刻まれている。

 

土曜日の駒沢を振り返ろう。日付的には、この日の明治vs筑波、早稲田vs青山学院が大学シーズンのキックオフ。それでも観客は4821という数字(早稲田戦でのデータ)。ま、学生さんに5000人って、見方次第ではいい人数かも知れないが、人気の早明が揃っても、この数字と深刻に考えるのはラグビー協会のお仕事です。

 

 

▲ラグビー日和に好ゲームの駒沢だったが…

 

 

その人気の両校だが、明治が筑波に33-22、早稲田が青学に38-8というスコアは、快勝発進とはチョイ言い難い。去年の同じカードは10月中旬だったが、早稲田は61-13、明治は53-14という数字だったが、両チームともまだ試運転という印象だ。

 

明治は菅平合宿前の福島・Jヴィレッジ合宿でけがとインフルエンザの感染で、強化スケジュールが少々狂った。菅平で神鳥裕之監督と話すと「コンディションを戻して菅平で完全復帰という主力が何人かいたのだが、すこし(復帰時間が)狂ってしまった」と苦笑していたが、筑波戦も「万全」まで到達できなかったのだろう。筑波の実力を考えれば、このスコアも打倒かも知れない。

 

このゲームで注目したのは〝才能〟。明治FB安田昂平(御所実②)、筑波NO8谷山隼大(福岡③)、そしてWTB大畑亮太(東海大仰星②)。特に、この日は安田、谷山のランの競演が楽しめた。

 

安田くん、高校時代から花園でも如何なく奔放なランを披露してきたが、明治でもその才能を輝かせる。この日は、自らのラインブレークも素晴らしかったが、トライをアシストする好判断のパスなど、仲間を生かすプレーでも輝いた。

一方の谷山くんは、相変わらずの高いポテンシャルを見せつけながら〝一人でやりすぎ〟のシーンも多かった。能力の高い明治ディフェンダーを上回るランを見せながらも、最後は孤立してボールをキープできない。ここは谷山くん個人だけではなく、周囲がどう谷山を生かし、谷山の存在で、どう仲間が生きるか。ここの探求が、課題のように思われた。

大畑くんも、何度か鮮やかなランを見られたが、彼をどう走らせるかは、今後の宿題だろう。

 

彼らの能力を楽しみながら、残念でならないのは、そのポテンシャルを磨く環境が未整備なことだ。あれだけの能力を持つ選手たちを、国内の試合数が驚くほど少ない大学リーグでプレーさせているだけでは、その才能を高めることは難しい。1日でも早く、彼らに今の限界を感じさせ、それを乗り越えるチャンスを作り出す必要があると再認識させられた土曜の午後でもあった。

 

加えて明治について見ると、今季のメンバーはSOが大変なことになっている。

この日の先発・伊藤耕太郎(國學院栃木③)が主力の最右翼と考えられるが、CTBに入る齊藤誉哉(桐生第一④)、SHとの併用を目指す池戸将太郎(東海大相模③)と有望選手が目白押し。ここに来年以降も國學院栃木で活躍する伊藤くんの弟・龍之介くんや、報徳学園で注目される現在明大ヘッドコーチを務める伊藤宏明さんのご子息・利江人くんと、有望10番がどんどん増えていく。苦肉の策?として池戸くんのSH、齊藤くんのCTBと、SOが他ポジションに流れるが、第2のSOという役割が定着するCTB廣瀬雄也(東福岡③)も加えると9、10、12、13番を指令塔が担うラインも実現しそうだ(現に実現しているか)。

 

一方の早稲田だが、明治も同様だったが、ちょっとしたパスミス、パスのブレなどで攻撃権を失うなど、開幕戦らしい精度の低さが立ち上がりの悪さに影響した。

だが、それ以上に青学のファイトを称えるべきゲームだろう。インジュアリータイムの後半46分まで1PGしか奪えなかった事実はしっかりと受け止めるべきだが、前半を終えて3-7というスコアは早稲田のミスのせいだけではない。青学の個々の選手は、接点のファイト、ボールキャリー、キックチェイスなど1つ1つのプレーで、上位校とも十分に渡り合えるほどまで鍛えられている。青学も、早稲田同様につまらないミスなど、「ちょっとしたプレー」でチャンスを失うゲーム展開になった。この日のようなミスをすれば、下位チームにも勝利を逃す可能性はあるが、土曜の駒沢は強豪・早稲田のプレッシャー、開幕戦というマイナス要素があったと考えたい。

 

1人1人は鍛えられている印象の青学だが、目を惹いたのがルーキーデビューを果たしたFL八尋祥吾(東福岡①)。昨年は主将としてチームを率いた東福岡高時代から実績のある選手だが、大学生相手にも低く、鋭く突き刺さり続けた。青学のバックローといえば、肘井洲太、中谷玲於と歴代気のふれたようなタックラー、ブレークダウンの野獣がいたが、その系譜を継ぐ新たな狂気が入ってきたことを歓迎したい。

 

同じルーキーで、途中出場で青学大初キャップを獲得したLO/NO8荒川真斗(國學院久我山①)も期待の戦力だ。フィジカルの強さと、コンタクトを厭わない積極性が武器で、清水孝哉監督も「怪我もあってリザーブ出場だったが、必ず出てくる素材」と期待を込める。セコムラガッツで主将、監督、ディレクターとして奮闘した父・泰さん譲りのしぶとさを発揮できれば、こちらも大阪体育大で大型LOとして活躍した父を持つ江金海主将(大阪桐蔭④)とのLOコンビも楽しみだ。

 

 

 

▲聖地・秩父宮もバックスタンドはこの通り

 

 

最後に触れておきたいのは、日曜の秩父宮に登場した立教大。帝京大に88-0と完敗したが、その低く突き刺さるタックルは健在だ。

 

このスコアを奪われて防御を称えられるのは、チームとしても不本意だろう。実際、会見の席で、SO安藤海志共同主将(京都成章④)は「タックルは、毎週フルコンタクトの練習をしています。タックルに低く入ることはラグビーにとって一番大切なことだと思います。チャンピオンチームに対して通用するところも多少ありましたが、やはりそこは少なかったなと思う」と語っている。だが、世界のプロコーチがおそらく推奨しないであろう、この低さは、すでに立教のアイデンティティーに近い。

 

ほとんどの相手が、自分たちより体がデカく、経験値もある。こんなチームに対して、相手の膝を砕くようなハードタックルで応戦するのが立教のラグビーだ。

こちらもトップコーチのセオリーにはない、ダブルタックルを一人が足首に、もう一人が腰に刺さるなど、常に低さを追及する。

 

常識では、教えるべきではないプレーかも知れない。だが、こういうプレーで強豪に挑まなければならない高校、大学チームは少なくない。何もかもが教科書やセオリー通りではない。彼らに勇気を与える立教のファイトだった。