日本ラグビーのルーツ校と呼ばれるチームがある。

 

慶應義塾體育會蹴球部

 

やたらに画数の多い名前だが、この大学では、ラグビー部はこう呼ばれ、表記されている。創部した1899年当時は、蹴球と呼ばれたのはサッカーではなくラグビーだったからだ。

 

この蹴球部が、大学公式戦開幕も近づく9月3日にラグビーグラウンドの整備工事竣工式を行い、OB、関係者ら50人ほどが通称〝日吉グラウンド〟に集まった。

 

2年後に迫る創部125周年の記念事業として行われた整備だが、グラウンドに張られた従来の人工芝を新たなものに変更。ドイツ製の新しい〝芝〟は、耐用年数で飛躍的な進化があるという。ラグビーチームが挙って人工芝を敷き始めた10~20年前、その寿命は10年程と言われてきたが、どうやら8年ほどでかなりの使用感が出てくる。そりゃ100㎏の男たちが毎日踏みつけ、踏ん張り、転がり続ければ、寿命が若干早まっても文句は言えまい。慶應でも2013年以来の張替えに踏み切った。

 

日本の科学、および人工芝の〝葉〟になる樹脂の原料になる化学技術の高さはあっても、この人工芝のリーフについては、どうやらドイツ、オランダという欧州の科・化学先進国には及ばないという。そりゃ、両国とも、手を使わないフットボールでは実績も歴史もあるからね。

 

この日の式典は、その新ピカのグラウンドの上で行われた。幸いなことに、日本に近づく台風11号の影響をかわして曇天の中での式典だったが、グラウンドの上で安全祈願が行われ、塾長のビデオメッセージ、OB会の黒黄会会長や栗原徹監督の挨拶などが続いた。

 

 

 

 

就任4シーズン目に挑む栗原監督は、新装のグラウンドについて「今週から使い始めましたが、クッション性や水はけの良さがいい。こちからはお願いして、以前のグラウンド中央付近が盛り上がっていたものを、すこしフラットにしていただき、インゴールを丁度10mにしてもらいました」と満足そうに語っている。一見平らに見えるラグビーグラウンドだが、基本構造として中央の縦ラインが盛り上がる〝かまぼこ型〟のものも少なくない。もちろん水はけを良くするためだが、人工芝グラウンドは、芝の下の層に排水構造を組み込むため、〝かまぼこ〟の恩恵なくして雨などの影響を極力回避できるのも特徴だ。

 

FL今野勇久主将も「まだ新しいので、コンタクト練習でグラウンドに倒れても痛くないのはいいですね」と、伝統のハードタックルにもプラスと実感。関係者への挨拶では、「グラウンド寿命が短くなるくらい練習して頑張りたい」と目標に掲げる大学日本一への思いを新たにしていた。

 

 

 

 

実際に触れて、踏んでみたピッチ自体は、まだ「土」の代わりのゴムチップが樹脂製の葉の間に浮き上がっている状態。当面は大量の浮かび上がるチップと、新ピカで摩擦係数も高いリーフのおかげで選手の足には大量の乳酸が溜まることになる。このチップが、選手に踏み鳴らされるうちに、徐々にリーフの間に沈み込み、しっかりとした地盤になっていくとより使い勝手が上がっていくはずだ。

 

施工はチームが山中湖、菅平で不在の7、8月に行われたために強化への影響は最小限にとどめることができたが、その合宿について、同主将は「自分たちがやりたい形に近づいてきた」と手応えを感じている。その〝やりたいこと〟とは、どんなラグビーなのか。スキッパーは「慶應といえばタックルを強みにしてきたが、タックルからボールを獲り返すところまでこだわってきた。タックルからのブレークダウンのチャレンジをしています」と今季のこだわりを語っている。

 

菅平では、全体練習や実戦は見ることができなかったが、同志社大とのFW合同練習では、ラインアウトからのドライビングモールの安定感が印象的だった。大学レベルでのスローイング、高さだけに依存しないタイミングで獲るジャンプ、そしてモールのパッケージ。ここ数年、ルーツ校の強みのプレーだが、今季もしっかりと磨きをかけていることを感じさせた。山の上での練習マッチも、Aチーム戦は流通経済大に25-12と快勝して、リーグ戦優勝候補の東海大には24-36と喰らいついた。Bマッチも同じ相手に2戦2勝と力を見せている。ここに、キャプテンが話すブレークダウンの激しさで精度を上げることが出来れば、昨季の対抗戦4位、選手権ベスト8を突破するためのプラットフォームにはなりそうだ。