昼過ぎには鼠色の雲に覆われ、雨が落ちてきた高原で、熱く、激しく、80分間動き続ける原石が煌いた。

 

山梨学院大学で3年目の夏に挑んだNO8小嶋大士(日川)。

山梨・甲州市生まれ。日川高校でラグビーを始め、同高では3年連続で花園出場。U17日本代表であり、高校日本代表候補にも選ばれている。山梨学院大でも1年から公式戦を戦うバックロー兼LOだ。

 

チームは8月23日で関東大学リーグ戦1部昇格を賭けたシーズン前の夏合宿を終えてヤマを下りた。夏のゲームで一喜一憂は必要ないが、Cチームまでの全6試合を勝利で終えたことは自信になったことだろう。

 

観戦したのは8月20日の関東学院大戦。山梨フィフティーンのパフォーマンスが際立っていたが、その中心には常にゲームジャージー「27」を着けた小嶋の姿があった。

 

キックオフから攻守にハードヒットを繰り返し続けること80分。

ボールを持てば、防御をぶちかまして旺盛に1歩でも前に出ようとする。守れば、遮二無二にボールキャリアーに襲い掛かる。リロードも積極的だが、ゲーム中、常に声を出し、仲間を鼓舞し続ける姿勢も光る。

 

目を見張るのは、攻守とも相手にコンタクトするコンマ数秒前に強度を増幅させるかのように加速して体をぶつけるインパクトの強さ。もちろんこの3年生のFWリーダーだけじゃない。15人全員が同じように80分間ハードヒットを繰り返した。この瞬時のギア&パワーアップが、昨季リーグ戦2部3位を攻守で1歩ずつ前に押し出し、1部4位をまるで下位チームのようにねじ伏せる快勝(36‐19)に結び付けた。

 

 

「今日は調子良かったです。ターゲットにしていたんです。春シーズンを重ねていく中で、夏合宿で関学(関東学院大の試合)があるというので。今シーズンは絶対に上(1部)に行きたいと、皆で賭けている。そこで(関東学院とは入替戦で)やるかも知れないと考えているので、絶対倒さないといけないと思っていました」

 

その思いが80分間切れることはなかった。

インパクトの瞬間の力強さが、チームのアタックに勢いを作り、ペースを握る。胸を貸すはずの関東がリズムを作れない。そして、低く鋭い踏み足のタックルが、大粒の雨の中で次々と相手を餌食にする。終盤、反撃を目指す関東学院の山梨陣22mライン付近の左展開を3連発のロータックルで前に出さない防御は圧巻だった。2019年から指揮を執る元日本代表のハードタックラー、梶原宏之監督ならではの武器も80分間炸裂し続けた。

 

チームは6シーズン、1部を経験できずに22年のリーグ戦へ準備を進める。

小嶋も含めて現役誰もが〝上〟を味わえずにきた。いわば未知のステージ。この世界を知るチャンスが、菅平合宿目前に実現した。

 

「慶應さんと合同練習をさせていただいた。初めてのことです。1日だけ山中湖の合宿に行きました。その中で、いろんな行動が遅すぎたと分かりました。セットピースも、次のプレーに備えることも…。僕たちも練習はやってきたが、慶應ほど考えてやっていなかったなと思い知らされた。慶應は凄かったです。FW全員がそれに気付かされて、そこからミーティングを何度もして、もっと自分たち自身にベクトルを向けた。慶應を越えようと」

 

経験の少ない1部校に胸を借りたことが、チームを大きく変えた。しかも、その相手が慶應義塾だ。数シーズン、優勝候補からは1歩後退するが、100年以上の歴史の中で培われた伝統が、プレーの1つ1つに染み込んでいる。黒黄のジャージーを着る誇りも責任も、どのチーム以上に持っている。その後の山梨学院の練習では、1つのメニューから次のメニューへの移動も、サインの選択もより早く、あらゆる局面で相手を常に上回ろうという意識がチームに落とし込まれ、関東学院との雨中のヒートマッチに繋がった。

 

中学時代まで野球に打ち込んできた小嶋を楕円球に転向させたのは、山梨県の教育システムの恩恵だ。

 

「山梨県の中学校は、冬になるとラグビー部が出来るような制度があって、それで友達と遊びで、楽しいからと入った。たまたま身長があったので日川高校から声をかけられて受験しました」

 

小嶋が振り返るように、部活での機会が少なくても中学生が楕円球に触れるチャンスがあったことが、このハードワーカーをラグビーに引き込んだ。

 

小嶋の積極的なキャラクターを物語る話も聞いた。

 

「小3から中3まではずっと野球をやってたんですけど、野球は順番を待たないと自分の番にならないじゃないですか。それが結構退屈で。でもラグビーは自分がボール持てば何でも出来るんで、それがすごく楽しくて」

 

この「ボールを持てば何でも出来る」という言葉を、まさに体現したのが関東学院大戦だった。80分間積極的にボールを持ち、ボールを持った相手に襲い掛かり、キック処理にも献身的に走り続けた。まるで、わずか数分でもプレー出来ない時間を惜しむように。

 

山梨学院への進学も当初は選択肢ではなかった。

 

「僕は消防士になろうと思っていたんです。単純に恰好よかったから。なので、大学に行く気はなかったんです。ラグビーはやるかどうかは決めてなかった。そこに、山梨学院からお話を頂いた時に『それなら山梨でいいかな』と進学を決めました」

 

小嶋が選択肢をすこし変えていただけで、菅平で彼の熱く、激しいプレーを見ることは出来なかったかも知れない。

 

自身の持ち味を聞くと、即答で返ってきた。

 

「運動量です」

 

わずか80分間しか彼のプレーを見てはいないが、異論はない。

先にも触れたように、常に相手に突き刺さり、声を張り上げて仲間を鼓舞して、再び走り続ける。このプレーを終盤まで貫いた。

 

「今日も、ずっと運動量を目標にしてきた。常に80分間(全力を)出さないといけないと毎試合考えているますから」

 

夏のテーマは、コンタクトスキル。「ここを上げたいですね。後はもっと動き続けること。試合中にアライブと言ってたんですけど、それいまFWが目標にしていて、言うだけじゃ簡単なので、いかに自分が80分間働き続けるか、そしてどんなに強い相手でも、そうしないと絶対上では勝てないですから」。

 

〝強い相手〟の1つでもある関東学院相手のバトルは、まさに言葉通りの試合になった。もちろん、数シーズン過酷な上位争いを展開するリーグ戦2部の戦いでも、目指す1部リーグでの勝負でも、この日の勝利が保証するものは何もない。だが、小嶋と山梨学院が、8月20日の菅平で見せた熱く激しい戦いには、何のマジックも忖度もない。毎日の辛い練習で積み上げた実力であり、彼らの持つ資質と取り組んできたものがスコアに記された。

 

冷え切った体でグラウンドを後にして思うのは、この甲斐の国のフィフティーンに7季ぶりの昇格を果たしてほしいという願いだ。3年生の小嶋が1部を体感出来るチャンスは今季昇格を決めるしかない。もちろん、彼の資質は1部であれ2部であれ変わらないかも知れない。だが、この夏に1部4位相手に見せたパフォーマンスが、どこまで東海や日本、流通経済相手に常時出せるのかは興味深い。もちろん、その先にはリーグワン、社会人ラグビーというもう1つ上のステージがある。

 

将来については、こんな思いを聞いた。

 

「出来ればやらさせていただいきたいなという気持ちもあるけれど、山梨で働こうかなという考えもある。そんなに明確に決めていないです」

 

もちろん、彼が是が非でもリーグワンに行くべきだとは思わない。185㎝、105㎏のサイズは、大学リーグではまだしも、リーグワンでのプレーは大きな挑戦になる。

だが、試合後の夕闇迫る山道を運転しながら思うのは、こういう運動量、闘争心、そして仲間を鼓舞できる精神力を持ち合わせたラグビープレーヤーが、どこまでの高みに辿り着けるかを見てみたいという欲望だ。

 

沸々と湧き上がるこの思いは、抑えようのない身勝手さなのだろうか。