いよいよファイナルウイークがキックオフを迎える。
まずは土曜日に3位決定戦。
クボタスピアーズ船橋・東京ベイvs東芝ブレイブールーパス東京
なかなかの好カードである。
力を取り戻してきたルーパスと力を積み上げてきたスピアーズが、5・28の聖地でクロスする。
注目ポイントも数多あるが、決戦前日は101キャップ目のベテランにスポットを当てたい。
杉本博昭、33歳
ラグビー界で泣く子も黙る杉本3兄弟の三男坊。いまや存在感のあった2人の兄よりも長いキャリアで楕円球を追ってきた。
いまや、船橋の「2」といえば、かの世界王者の〝怪物〟が思い浮かぶが、怪物の怪我もあり、大事なシーズン終盤は「2」を背負ってのゲームが続く。
だいぶいなくなった先輩も、大勢の後輩も、この33歳を、愛着を込めてこう呼ぶ。
「ヒロ」
もちろん後輩は「さん」付けだ。大阪の下町の兄ちゃん風の親しみやすさにも助けられたが、仲間を思い、相手も思い遣る姿は、誰からも慕われた。かの名門、旧コウダイコウの良き伝統でもある。
その兄ちゃんのメモリアルゲームとなったのが、〝チーム初〟のファイナルを賭けた野武士との準決勝という大舞台だった。
「こういう節目に、こういうビッグゲームできてほんまに嬉しいです。でも、1人じゃ本当に成し遂げられなかったなというのが、すごくありますね」
こんな気持ちで挑んだ試合だったが、結果は昨季王者の分厚い防御に跳ね返された。
だが、そんな大一番にも、船橋の仲間はヒロの晴れ舞台を忘れてなかった。
本人には秘密で100試合記念Tシャツを準備して、ノンメンバーが身に着けてスタンドから声援を贈った。
本人がその贈り物を知ったのは試合後。
「終わってから見たら皆が来ていて、なにそれと聞いたら、作ってくれたんだと。ノンメンバーの人みんな着てくれたの見て、ホンマ泣きそうになりました。感謝しかないですね」
決勝を逃した悔しさは、感謝の笑みで覆われていた。
いまやチーム100キャップは珍しくはない。
だが、仲間たちが記念Tシャツを作る選手はそういない。
「スピアーズに入っていろいろなことがあった。トップイースト降格からスタートしたり、アキレス腱切ったり、ポジション変更したり…マルコムも入ってきた。いろんなことがあって100試合なので、気が付けばという感じなんです。でも、あらためて振り返ったときに、やはり自分だけじゃ無理だったなと感じます。もうラグビー辞めようかなと思うくらい、火が消えかけたときもあったけど、周りのサポートがあって今があると思う。そこに関しても、もう感謝しかないですね」
ヒロの入団からの全てを見てきたわけじゃないが、チームを率いるフラン・ルディケも、その重鎮の足跡を認めている。試合後のフランさんからの言葉を、ヒロが振り返る。
「フランがいってくれたのは、確かに今日負けて、ヒロに勝利を贈れなかったことは非常に残念だけど、今日の試合だけを見るな、いままでの功績があるから今があるんだと。その言葉には救われましたね」
フランさんが名将なのは、その戦略・戦術、選手・チームの育成ももちろんだが、チームの中で大切なこと、欠かせないメンバーや価値観を、しっかりと理解できる感受性、観察力を持ち合わせているから。だから、多くの選手が、彼のチームには集まって来る。
準決勝を終えて、敗戦の中でも多くの仲間に祝福されたベテランだが、洞察力ではフランにも負けていない。100試合もあり、試合後の円陣で、こう仲間に声を掛けた。
「下を向くのは簡単なこと。でも、このメンバーでできるのはあと1週間。皆で勝ちに行こう」
見渡す後輩たちが下を向くのを見て、言葉を選んだ。
「それが僕の役割だし、そういう年齢だと思ったので。あそこで、僕が息を吹き返さないといけないと思いました。僕が火が消えてる時に助けてもらったように。そこが僕の立場だなと、役割だなと。もちろん僕自身めちゃ悔しいですけど、だからこそ、伝授していかないといけないものがあると感じました。僕の役割かなと」
3位を賭けた相手は、シーズンの中でも目を見張る成長を見せてきた古豪チーム。気持ちを引き締めても、切り替えても、勝利は何も保証されていない。
クボタはクボタウエーを80分間出し続けるだけだ。
だが、多くの仲間に支えられて100試合の大台に辿り着き、その経験値を若い仲間に降り注ぐベテランという存在は、間違いなくアドバンテージポイントだ。
ヒロに、101度目の役割を果たすときが近づいてきた。