LOあり6NありSRPありの週末でしたが、皆様どう過ごされたでしょうか。

 

1人の馬鹿のせいで、正直、世界はラグビーで勝った負けたで云々じゃない深刻なスキームに陥っています。書くことを生業にしていれば、だからこそ書くべきだと思いつつ、そういう気持ちにはなかなかなれないというのが正直な気持ちでもあります。

 

試合を積極的に観ることで、何か書くためのモチバイトを得られるかと、内心期待していましたが、そう容易に切る変えることは難しいようです。あまり器用な人間ではないので。

 

それにしても、ラグビーは、世界・社会とのコミットメントが消極的なスポーツだ。それに輪をかけて、日本ではほぼ沈黙を貫いている。自分たちが生きる事、自分たちの自由というかけがえのない権利への侵害が公然と行われているというのに…。

でも、日曜日のダブリンでは、試合前のマルチビジョンにウクライナの国旗とメッセージが映し出され、多くの観客が拍手で抗議の姿勢を示していたのには救われた。

そりゃそうだよね。この土地と国が、どれだけ侵略を受け、尊厳を踏みにじられ、理不尽な死を目の当たりにしてきたかを思えば。

 

で、そんな状況の中でも、出来るだけ試合取材、観戦はするべきだと熊谷、駒沢と周り、深夜は〝半落ち〟しながらの海外中継と相成りました。

 

先ずは、多くの方が注視していた土曜日の熊谷。

カンファレンス以外の相手との1回限りの対戦であり、優勝候補と目される2強の激突となったが、素直にいい試合でしたね。

様々な局面、煌きがあった中で、最もインパクトを残したのはブレークダウン。野武士の局地戦が凄まじかった。

 

中でも際立っていたのが、野武士の番号6。ガンちゃんこと、ベン・ガンターです。

彼の場合、この試合以外でも素晴らしいブレークダウンファイターなので、従来のポテンシャルを見せたという評価が妥当なのかも知れない。ただ、個人的には従来以上の凄味を感じたゲームだった。

 

府中のアタッキングチームと戦う時の鉄則は、いかに相手をスローダウンさせるか。どのチームも、ここにフォーカスポイントを置いて臨むゲームです。この領域は野武士の強みでもあるのは周知のことですが、そこをしっかりと、徹底的に履行したブレークダウンショーを見せつけられた80分間でした。

 

ちなみに、ガンちゃんとFLコンビを組んだ南半球屈指のブレークダウン職人ラクラン・ボーシェーは、まさに自身のスタンダードを見せた試合。ここにNo8ジャック・コーネルセンが加わるバックローですから、間違いなく対戦相手には最悪のセットなのは明らかだった。

 

昨季の最後のトップリーグ決勝の再戦となったこのゲーム。開幕から好調のサンゴリアスが、どこまで王者に喰らいつけるかが焦点だった。戦前の数値では得失点ともに挑戦者が上回る展開だったが、15人のパフォーマンスとデータがイコールではないことを、ホストチームが見事に証明したゲームでしたね。

 

最近はコロナ対策もあり、熊谷への小旅行はウチのチビ車での移動がほとんど。この日も、ジブン基準では相当な早起きをして、前日買った珈琲を淹れての旅。帰宅するとかなり瞼が重く感じる中で、エディンバラとトゥイッケナムでの連戦とハードな夜でしたが、雄鶏軍団のウルトラフィジカルな戦いぶりは相変わらず。迎え撃った〝ブレイブ・ハート〟スコットランドのフィジカルもメンタルも打ち砕くようなバトルを満喫できました。

 

個々の選手を見ると、SHアントワーヌ・デュポン、CTBガエル・フィクは手に負えない状態。来年9月8日のサンドニで戦う相手は、しっかり首を洗っておきましょう。

BKは総じて高得点ですが、フィクの相棒ジョナタン・ダンティのフィジカルも尋常じゃない。しかも、見た目は〝当たりや〟みたいだけど、馬力だけじゃない。ボールを持たないときのワークレートなど、随分としっかり仕込まれているのがいい。結果的に自分自身のトライに繋がった、後半2分の自陣からのアタックでも、WTBダミアン・プノーのブレークにしっかりと反応して、生真面目にサポートランしていたからこそ、内側でプノーのキックボールをキャッチ出来た。

そして、そのプノー。前節までは同じWTBギャバン・ヴィリエールにスポットが当たりまくったが、このデカくて速いフィニッシャーには、やはり特別な存在感がある。彼がギアを上げると、どうしても相手防御は複数人の選手がそのランに惹きつけられ、距離を詰めてしまうために、スペースが生まれてしまう。ダンティのトライも、その空間に駆け込んだものだった。

 

スペースをクリエートする才覚と、昨今のアングロサクソン人を凌駕するほどのフィジカルを併せ持つ、このブルーの雄鶏たちを、1年半後に止めるチームが果たしているのか。こう疑問を思い浮かべるのと同時に、こんな言葉が頭に浮かぶ。

「もちろん、いるさ」

論拠はない。だが、まだ次回でわずか10回という歴史しかない祭典でも、世界は何度も〝絶対〟は存在しないと見せつけられてきた。1995年、2003年、そして2019年のオールブラックス然り。

 

挑まれる側も、絶対は存在しないと証明しようとする相手を打ち倒し、その屍を乗り越えて1人しか立つことが出来ない頂点に辿り着くからこそ、The Last Man Standingは美しく、唯一無二の存在になる。2023年10月28日のサンドニが、いまから楽しみである。

 

敗れたホストチームだが、スタッツもパフォーマンスも、そう悪くない。相手が凄すぎた。

中でも、2キャップ目の背番7ローリー・ダージは、ジャッカル&タックルで驚異的なポテンシャルを見せつけた。今週末はこのダージ、野武士のラクラン、そしてこの後で触れるアズーリのミカエレ・ラマロと、世界最高峰の7番をたっぷりと味わうことができた。

 

すこし遡るが、週末のラグビーはすでに金曜から始まっていた。2週目を迎えたスーパーラグビー・パシフィック。ハイランダーズvクルセイダーズも楽しめたが、長らく低迷が続く〝タス〟ことNSWワラターズに、出口の明かりがかすかながら見えたことが収穫。結果は16-20と苦杯を喫したが、いまや常勝軍団となったレッズが相変わらず個々の能力を発揮する中で、この4点差負けの意味は大きい。レッズが低迷から抜け出す前の、現在の主力メンバーがふつふつとポテンシャルを輝かせ始めた頃ほどの将来性には及ばないが、接点でのセカンドマン、サードマンの入りの早さ、集散で能力集団に喰らいついた。個々の能力より組織としてどう機能するかを意図したチーム作りで、どこまで成長できるかに注目したい。

 

だいぶ敗者を持ち上げたが、勝者では、相変わらずだがCTBハミッシュ・スチュワートのタックルが狂気じみている。もちろん、FLアンガス・スコット=ヤング、フレーザー・マクライト、No8ハリー・ウィルソンのバックロートリオは文句なし。昨季は跳ね返されたキウィ勢打倒を期待したい。

 

そして土曜深夜の最終戦は、正直何度か記憶が飛ぶ中での観戦だったが、Eddy’s boysが何か〝もやもや〟を吹っ切れないまま2勝目を手にした。

エディーが、日本なら大学在学中か卒業1、2年目の20台前半への投資を意識しているためだが、この〝作業〟が1年半後のチームをどうブーストできるのかは、まだ見えない部分もある。

いずれにせよ、エディーのことだ。この若手への投資からリターンを得るのか、いまは〝休暇〟中のオーウェンらを結局投入して、手堅く利益を取るのか。これは、エディーですら、まだ見極めている最中のはず。初夏のツアー、ジャパンも胸を借りる秋のテスト、そして仕上げに踏み込む1年後の6Nを経過観察するしかない。

 

日曜は、はず駒沢公園。

中堅からトップ4へ食い込む野心と可能性を持つ2チームの激突も、土曜の優勝候補の対戦に負けない好カードだったが、いろいろな思いが過る展開になった。

 

キックオフから主導権を掌握したのはイーグルス。

光ったのはSO田村優の視野、そしてボールキャリー個々の接点の激しさ。

ディフェンスをベースにチーム作りを進めてきたブラックラムズが1歩押し込まれるような力強さで接点に圧力をかけ、生きたボールを手にした指令塔が、アグレッシブなラインアタックを仕掛ける。相手がハイプレッシャーを掛ければ、後方の空いたスペースへパント、グラバーと翻弄して、相手防御を動かし続けた。ホストの15人は酸欠のような状況でのプレーを強いられた。流れを変えるための起点となるべきラインアウトも、イーグルスにクリーンキャッチされるなど混迷。ようやく確保できたラインアウトから転じたスクラムでコラプシングを犯すなど、自滅ともいえるミスも目立ったが、むしろ防御システムもラインアウトも完全に読まれていたという印象だった。

 

ベンチスタートのCTBジョー・トマネらフレッシュなメンバーがフィジカルでも相手に圧力をかけた後半20分過ぎから目覚めたラムズだったが、反撃がやや遅すぎた。その中でSOアイザック・ルーカスが、「このわずかなギャップをブレークするのか」という個人技でチャンスを作り真価を見せたのは印象的。贅沢を言えば、立ち上がりからの厳しい戦況で、このラインブレークを見せないといけなかったのだろうが、その仕掛ける才覚は際立っていた。

 

そして、アイザックとともに敗戦の中でインパクトを残したのは、途中出場のSH南昂伸。大東文化大時代から俊敏さを生かした個人技とパスワークで魅せた攻撃的9番だったが、砧ではこの日も先発した大型SH高橋敏也の陰に隠れた存在だった。しかし、後半14分からピッチに立つと、チームのアタックをテンポアップさせる球捌きと、一瞬の隙を突くサイドアタックと持ち味を見せつけた。チーム内での彼の評価の、ポジティブな分岐点になる気配を感じさせるようなパフォーマンスだった。

 

週末締めくくりは、ダブリンでのアイルランドvイタリアだが、最悪のゲームになってしまった。

途中出場のイタリアPRファビアが、19分という早い時間にハイタックルでレッドカードに。ここでノンコンテストスクラムとなったが、ルールではフロントロー選手を入れて8人で〝押さない〟スクラムを組ませて、代わりにBK1人を退場させるために13人でのゲームを強いられた。

 

がっかりさせられるのは、まずはカードのジャッジだ。世界の潮流は、頭部への損傷の恐れがあるプレーの厳罰化を進めている。この観点からはレッドも「アリ」なのだろうが、個人的には魔女狩りのように感じている。相手とのコンタクトを危険視するなら、ネット越しに戦うバレーボールでもやればいいし、頭部へのナーバスな判定をしたいのなら、従来のレッド、イエローとは異なるジャッジ、処罰法を考えるなどして、重症を回避するような取り組みをするべきだろう。

危険なプレー以前に、そもそもプロの興行としてそこそこのチケット代をファンに求めるなら、片方のチームが14人、13人で戦うことで、質の低い試合という商品を提供すること自体を深刻に考えるべきだ。

個人的な意見だが、ジャッジと制度という両面で新しい取り組みがないまま起きた悲劇であり喜劇だと受け止めている。ルーリング、レフェリング担当者、そして統括団体の怠慢だ。

 

そんな勝者も敗者も、観客も救ったのは、13人で最後まで必死に15人に喰らいついたアズーリの奮闘だった。先にも触れたFLラマロ主将のブレークダウンを筆頭に、全員が激しく、ひたむきにエメラルドグリーンのジャージーに突き刺さった。

彼らの闘志と、勝者のFLピーター・オマホニー主将、最優秀選手のFLジョシュ・ファンダーフリアーが試合後のインタビューで13人のチームの戦いぶりを揃って称えたことが救いだった。

 

 

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