混乱が日々高まるリーグワンだが、1月10日はスケジューリングの〝ナイスプレー〟で、ディビジョン2の取材ができた。ディビジョン1の開催がない休日に、東京・秩父宮で組まれた三菱重工相模原ダイナボアーズv花園近鉄ライナーズへ。この試合、25-14でホストチームが制したゲーム自体もだが、新リーグの運営という観点でも、興味深いものを見ることが出来た。

 

まずはゲームからだ。秩父宮で相まみえた2チームは、おそらくディビジョン2のトップ争いの鍵を握るだろう。ホーム・アンド・アウエーにシフトされたため1勝での一喜一憂は早計すぎるが、ホームで先勝した相模原には大きな1勝。それ以上に内容のある戦いぶりだった。

 

まず惹きつけられたのは、SOコリン・スレイドの仕上がりの良さ。ゲームを読み、組み立てる指令塔としての適確さと、ボールを扱うスキルの確実さは、若い背番号10には最高のお手本だ。角度のないキックボールの精度、相手の裏を狙うパントのコントロールと、足技が冴えわたる。パスも、数回あわや〝ホスピタル〟のパスはあったが、フラットにギリギリのスペースでランナーを走らせようという積極さと写った。

 

昨季トップリーグのセットプレーでは、パナソニック、サントリーを上回るスタッツを残したチームだが、スレイドのやや冒険的なパスのおかげでアグレッシブさを増している印象。このチームが誇るCTBマイケル・リトル、マット・ヴァエガ、そして積極的なランが光ったWTBベン・ポルドリッジらアタッカーの能力を、従来以上に引き出す期待感が高まる指令塔ぶりだった。この活躍もあり、なかなかベンチに下げられないために終盤までプレーを続けたスレイド。後半35分の強度の脳震盪での退場が、チームにとって次節以降の深刻な問題にならないことを祈るばかりだ。

 

しかし、そのスレイドの活躍は勝因の50%に過ぎない。残る理由は、FW3列に、2列も交えたブレークダウンでの勝利だった。

浦安から移籍したFL鶴谷昌隆が再三密集でボールに絡み、小林訓也は37歳という年齢を忘れてブレークダウンに楔を打ち込んだ。新鋭NO8ディラン・ネルも愚直にボールを追い、密集に頭を突っ込んだ。前半は、外側に振られて簡単に突破を許した防御が気掛かりだったが、後半になると、近鉄がボールを大外に運ぶ前のブレークダウンで相手を圧倒した。後半17分からはLOジャクソン・ヘモポがピッチに立つという現実が、このチームが新リーグのレギュレーションの恩恵も得ながら、選手層の厚みを急速に増していることが判る。ここに〝HBC〟ことヘイデン・ベッドウェル=カーティスという脅威も、次節からの復帰を目指している。胸躍る布陣が充実するチームだ。

 

1点加えておくが、後半22分から登場のCTBリトルも、相変わらずのハイポテンシャルを見せる。TMOで1トライを損したが、アタックがダメなら防御と、後半27分にはわずか1分の間に、2度のタックルからのジャッカルを連発。日本代表が、昨夏、秋のテストマッチで、怪我でも何でも出場させて60カ月ルール適応を回避させなかったことが悔やまれる圧倒的なパフォーマンスを見せつけた。

 

失礼ながら、セットピースを軸としたオーソドックスなラグビーを想定していた試合で、ターンオーバーが多いエキサイティングなゲームを楽しめた試合だったが、ピッチの外でも関心させられるものが見られたことも収穫だった。

 

まずは、スタジアムの会見ルーム近くの柵に囲まれたスペースに目がいった。小さなお子さん連れのママや家族のために用意されたベビーカーの駐車場だ。確かにスタンドを眺めてみると、小さな子供連れの若い夫婦も結構目立っている。彼女、彼らに負担なく試合を楽しんでもらおうという配慮は、なかなかのファインプレーだ。

 

 

従来のラグビーの試合は、協会主催で行われてきた。終わったばかりの花園や大学選手権という人気の大会は、すべて協会が開催、運営している。だが、リーグワンは大半の試合が各ホストチームが開催するリーグ。チケットの発売も、試合やそれに伴うイベント、ファンサービスなどは、すべてホストチームが運営する。もちろん、我々メディアに対する記者席の用意、試合後の会見の開催なども、すべてチーム側が行っている。

 

今回の秩父宮での試合も相模原が運営している中で、ベビーカーパーキングの設置はファン目線のサービスと評価していいアイデア。このような目線が、ファンに次回試合にも来てもらえる小さな萌芽になる。

 

チームのGMを務める石井晃さんは、早稲田大時代に渋目のCTBとして活躍した人だ。新リーグにシフトしたことで、マネジメントセクションのスタッフは、相当多忙な役割になったが、その取り組みはこれからのチームだけではなく、リーグの命運も握る存在になる。

 

この日の秩父宮の公式入場者は5305人。石井GMに運営面のことを聞くと、この観衆は従来の三菱重工や、巨大な三菱グループのネットワークとは関係なく集めているという。トップリーグ時代までは社内での動員を呼びかけ、チケット販売、配布も助けてもらっていたが、新リーグではファンクラブ会員への販売で集めた客だという。まだまだ企業の協力、支援の下で行われるチーム運営ではあるが、将来的な事業性を高めていくための判断だ。過去のチ^ムの実力や、代表などのスター選手も決して多くないチームで、手探りの中でのスタート第1戦での5000人は善戦と評価できる数字だろう。

 

その人数よりも興味を持ったのが、試合前、試合中でスタンドから聞こえてくる甲高い歓声、声援の声だった。声の主は、おそらく小学生、もしかしたら小学生以下のちびっ子たと思われる。実際にスタンドを見てみると、客席や、通路を駆けまわる子供たちの姿が数多く見ることができた。

 

 

これも石井GMに聞いてみると、拠点の相模原で続けてきたラグビースクールの子供たちが中心だという。過去にはだいぶ年季の入ったファンで占められてきた観客席に、先にも触れた若い家族が集まり、加えて小さな歓声が響く環境。8日の味の素スタジアム、9日の国立競技場よりも、規模は細やかではあったが、この日の秩父宮のスタンドが醸し出す心地よい雰囲気こそが、これから新リーグ、そして日本のラグビーが作り上げていくべき姿だと感じさせられた。

 

チームでは、さらに小学生以下の先着1000人に、チームカラーの深緑のTシャツをプレゼント。場内アナウンスでTシャツの着用をお願いするなど、スタンドをチームカラーに染めようという演出も心掛けた。子供たち限定の配布だったこともあり、バックスタンドが緑一色にはならなかったが、チケット価格までチームが設定できるのであれば、グリーンの衣類で来場したファンの入場料をディスカウントしたり、次回購入時に割引になるクーポンの配布、ノベルティのプレゼントなどで、さらに効果的なスタンド演出、ファンサービスの可能性も見えてきた。

 

注目の新リーグが、コロナの影響をかいくぐりどこまで試合を続けられるかはわからない。

だが、すこし乱暴に思い切れば、日常を取り戻した後の本格的な再始動の前に、プレトーナメントという割り切り方で、グラウンド内外で様々なチャレンジをするチャンスが、2021年シーズンだと考えてもいい。