▼全国大学選手権決勝 2022/1.9 東京・国立競技場

帝京大 27-14(前半20-0) 明治大

 

大学王者に相応しい勝ちっぷりだった。

 

スクラムがクローズアップされる帝京大だが、決勝戦を締まった試合にしたのはタックルだろう。これだけタックルのある決勝は、なかなか見ることが出来ない。そして、力強いブレークダウン。この2つの、ラグビーには欠かせないエッセンスに満ちた80分だった。

 

試合メモに即しながら、すこし決勝を振り帰ってみよう。

 

序盤からの帝京の戦いぶり。SO高本幹也(大阪桐蔭③)、PR照内寿明(國學院栃木④)らが、確実にゲインを越える仕掛けを見せ、開始3分で明治大22mラインを突破。体の大きなPR細木康太郎主将(桐蔭学園④)も、ラインアタックを追い、ポイントでしっかりと体を当ててボールをリサイクルさせる。

攻め込んでの開始5分のラインアウトは、ロングボールを捕球できなかったが、逆アングルで駆け込んできたCTB押川敦治(京都成章④)が好捕して、そのまま左中間に飛び込んだ。

 

序盤の戦いから、帝京大は自分たちのストラクチャ―を崩さず、落ち着いてプレーしている印象。対する明治大は攻めきれない。じわりと重圧を受けている。8分に初めて帝京22mライン内に侵入するが、秒殺でライン後方へと押し返された。

 

帝京はHO江良颯(大阪桐蔭②)が再三ゲインラインを切るボールキャリー。ランの切れ味と強いフィジカルで前に出る。13分の2本目のトライも、その江良が左サイドで22mラインを突破してのラックから、右ワイドにボールを振ってWTB白國亮太(摂津④)が3人抜きで決めた。FW近場ではじっくり1、2速のギアで攻める帝京だが、BKに回すとテンポが一気にトップへ。この緩急のメリハリが効いた攻撃のスピードが、明大防御を苦しめる。

 

明治は反撃を試みるが、帝京の押川、志和池豊馬(日向④)の両CTBを軸にゲインを許さない。24分には明治が敵陣22mライン手前で、ラインアウトから7人制代表のWTB石田吉平(常翔学園③)を突っ込ませるが、江良のハードタックル一発でトライチャンスが反則に変わった。2分後には、明大HO田森海音(長崎北陽台④)が22mラインを突破したものの、帝京WTB二村莞司(京都成章③)のジャッカルで再び攻撃権を手放した。

 

31分、この日初めてしっかりと組み合えた帝京ボールのスクラムで、明治がコラプシング。この時点で、明治はセットでも相当厳しいことが明確に。手詰まり感がチームに漂い始める。直後の右オープンで、帝京はNO8奥井章仁(大阪桐蔭②)の好走からパスを受けたWTB二村が右サイドに飛び込んで15-0。2分後に再び二村がインターセプトからトライを奪って一気に突き放して折り返した。

 

手元のメモで、22mライン突破は帝京の4に対して明治は3。大差ない数字だが、その質が大きく違っていた。帝京が3トライを奪ったのに対して、明治の22m突破は3回合計でも数秒という内容。つまり帝京は前半、自陣のデンジャラスゾーンでわずか数秒しか対戦相手にプレーを許さなかった。

 

後半も、帝京の防御が際立った。9分に明治HO田森にラインアウトから飛び込まれたが、その後、勢いづく明治に試合を優位に進められる中で、さらに帝京防御が凄みを増す。NO8奥井が献身的にタックルで重圧をかけ、ボールを奪えなくてもパスを乱す。危機にはどこにでも背番号8が待ち受けている印象だ。192㎝のLO本橋拓馬(京都成章①)は、届かないキックチャージも骨惜しみせずに走って軌道をわずかに狂わせる。1対1のラインディフェンス、明治のダイレクトプレーに対してのFWの体を張ったコンタクトも固いが、明治のトライゲッター石田らが、止められながらも浮かしたオフロードパスによるゲインを、厚みのあるカバーディフェンスが封じ込める。懐の深い防御にオリンピック代表の石田も「ディフェンスが結構厚くて、自分たちのプレーできなかった」と兜を脱いだ。

 

後半開始10分内の失点から、10-20分の攻防で明治に勢いを持たれながら、自陣22mには入れさせない。自分たちも敵陣深くに攻め込めないが、この明治タイムの時間帯に相手を攻め込ませなかった我慢強い防御が、この試合の隠されたハイライトと感じた。23分の自陣22mライン上のスクラムで、明治のコラプシングを誘っての細木主将の雄叫びが印象に残ったが、それ以前の攻防で、すでに勝負は帝京に傾いていた。

 

試合後の会見。

ノーサイド直後は号泣していた細木主将が、すこし落ち着いて、こう決勝戦を振り返った。

 

「試合前、岩出監督から徹底することという言葉をいただいて、そして僕から選手には、1年間やってきたことを、すべて出し切る、積み上げてきたものをすべて出し切ろうと伝えて臨んだ。先週の京都産業大学との試合で、自分たちで隙を作ってしまい、苦しいゲーム運びになったとこを1週間考え直して、決勝はFW、BKが、はじめから厳しいところ、苦しいところにガツガツいくことで、ゲームの中で自信を持つこともできたし、苦しい場面でもピンチがチャンスになることを感じることが出来た」

 

10度目の日本一を手にした岩出雅之監督も「準決勝で京産大の素晴らしい勢いを受けてしまったので、今日はコンタクトスポーツ、タックルが柱になるような、タックルに尽きる試合をしようと。選手はその通りの試合をしてくれた。いい試合だったと思います」と選手のファイトを称えた。

 

帝京大が連覇を始める前の時代。ようやく強豪校の一角に入り込んできた時期から、力強いコンタクトを軸にした防御が伝統の強さだった。この試合は、その原点回帰を感じさせるような戦いぶりだったが、そんな帝京のラグビーを象徴するような男、NO8奥井は、試合後の囲み取材で、この日のタックルゲームをこう振り返った。

 

「試合前から、キャプテンからもそうですし、監督からもあったんですけど、ディフェンス勝負というのは言われていましたし、この1週間もディフェンスをしっかりフォーカスしてやってきた。準決勝の京産大戦で、しっかり体を当てきれなかったことが自分たちの課題に挙がっていたが、しっかり体を当てられたのが、この結果になったのかなと思います」

 

主将、監督、選手が口をそろえて、準決勝の京産大戦の苦闘がプラスに繋がったと明言しているのが印象的だが、強烈に自分たちのスタイルを打ち出してきた相手から得たものは、優勝を大きく後押ししたようだ。

 

そして、チームの中では高校時代から注目されてきた奥井は〝スタークラス〟と呼んでいい存在だが、そのトップ選手でも、密集に頭を突っ込んで相手に重圧をかけるのが帝京の流儀。この献身さを本人に聞いてみた。

 

「この1年間を通して、しんどいことを、芯のあるプレーをやり抜こうというのは、キャプテンの細木さんが言い続けてきてくれたこと。本当にそこが、今日は全員、15人だけじゃなくて、観ている皆もしっかりできたのかなと思います。自分たちがこうやって体当てられているのも、仲間のおかげでもありますし、大学やトレーナーさんら色々なサポーがあって、自分たちがこうやってできてるので感謝してます」

 

プレーはワイルド、見た目もやんちゃ系の奥井くんだが、大阪桐蔭高、帝京大での経験で、周囲への感謝を感じられる男に成長している。

 

会見の最後には、岩出監督が「最後に少し時間をいただいていいですか」とマイクを持った。

コメントの全文を記しておこう。

 

「今日の試合で、監督として最後にさせてもらおうと思っています。いろいろと考えを持って、大学とも相談して、勝っても負けても今日で終わりにしようと思っていたんですけど、学生たちの頑張りで運よく勝たせてもらいましたが、26年間、監督をさせていただきまして、帝京大の監督は、この試合を持って引退させていただく予定です。キャプテンには2、3日前にちょっと伝えたんですけど、試合前にそういうこと話をするのは、学生たちのマインドに影響があるので黙ってた。キャプテンは一緒に卒業していく人間なので、そういう意味では大丈夫かなということで、他の選手には、さきほどロッカールームで話をしました。本当にマスコミの皆さんにはいろいろとお世話になりました。いろいろな経験と、充実した時間をいただいたと思います。詳しくは、時間をとって。大学のほうとも相談させていただいて、後任の発表もさせていただきます。もう後任も決めていますので、次の人がしっかり頑張ってくれると思います。一番チームが充実して、また戻ってきたので、一番いいときに渡せていいかなと個人的には思っています。ありがとうございました」

 

岩出監督については、またあらためて書こうと思うので、ここではコメントだけを載せておきましょう。決勝戦の主役はピッチに立った選手たち。タックルで学生王座を奪還したフィフティーンを、素直に称えるべき80分だった。