▼トップリーグ・プレシーズンマッチ 江戸川区陸上競技場

クボタスピアーズ 42‐28(14‐14) ホンダヒート

 

感染者爆増の中、江戸川で行われたクボタスピアーズ―ホンダヒートを観てきました。試合結果は“ホーム”クボタの勝利。同区との連携協定締結後の江戸川初戦を白星で飾れてめでたしめでたしというゲームでしたが、双方ともチーム作りが未完成な段階の中で、インパクトのあるプレーを見せてくれました。

 

敗れたホンダですが、前半はイーブンと奮闘。印象的だったのは、かなり飛び出しの速いライン防御で、いいプレッシャーをかけていたこと。ここにクボタが手を焼いている開始5分に、ターンオーバーから思い切りよく左サイドに振ったアタックで、CTBショーン・トレビーが先制トライを奪っています。

 

ホンダを率いるダニー・リー・ヘッドコーチ(HC)は「ホンダはまだチーム作りの最中。DFコーチのクライグ・マクグラスは来日したのが3週間前。ここから、より磨いていく必要がある」と防御に関しては、まだ完成度を高める必要があると語っていましたが、残り1カ月ほどでの伸びしろを期待したいですね。ホンダは、試合前の練習の時から積極的なボールまわしを意識したアタックに取り組んでいるようでしたので、こちらの精度アップも楽しみです。

 

選手では、新加入のPRマティウス・バッソンに、この試合のホンダ側“只者ではない”賞をあげたいですね。南アフリカ・ブルズでのプレー経験がある25歳のマティウスさんは、身長190㎝、体重116㎏の大型PR。負傷による一時出場で前半10分過ぎにピッチに立つと、直後のプレーでクボタ防御を吹っ飛ばすように突破する豪快なランから、NO8ヴィリアミ・アフ・カイポウリのトライを生み出しています。

スクラムはまだすこし怪しいですが、この日は欠場した具智元(拓殖大)と交代で、こんな小山のような右PRが出てくると対戦相手は憂鬱でしょうね。

まだ、深緑のジャージーは着ていないようなので、桜のジャージーなんかも可能性あるのなら、それも楽しみですね。

この日の布陣に、具をはじめ、南アフリカ代表LOフランコ・モスタート、ストーマーズのSOジャン=ルック・デユプレッシーという国際クラスが加われば、戦闘力は間違いなくアップするはずです。

 

クボタは、SOバーナード・フォーリー、“ハル”くんことCTB立川理道(天理大)、ライアン・クロッティが並ぶ豪華なBKラインが楽しみでしたが、前半はホンダのプレッシャーに苦しめられました。ラインアタックでは、深さと浅さのコントラストと外側への長いパスを駆使して、ホンダのシャロ―DFの外側を崩すプランを準備していたのですが、予想以上に外目の防御でもホンダが頑張っていたため、前半は2トライという結果に。後半11分に相手CTBトレビーのシンビンあたりから、ようやくホンダ防御を崩し始めて、最終的には6トライをマークしましたが、トップ4を目指したいレベルに来ているチームですから、理想を言うと前半途中でもう1、2トライを奪いたかった。

 

それでも、11分のチーム初トライのフォーリー-クロッティのコラボは素晴らしかった。敵陣ゴール前の左展開で、相変わらずのいい出足でラッシュするホンダ防御に対応して、ワラビーズSOがグラバーキックを転がしたのに、オールブラックスCTBが鋭く反応。インゴールで小さくバウンドするボールへと飛び込もうとするホンダ選手の前に体を入れるようにして、そのままグラウディングをしていますが、この体の使い方には唸らされました。クロッティは「バウンドに合わせようとしただけなんだけどね。ただ裏に誰もいなかったので、バーナードが蹴ってくれたのが、いい判断だったよ」と飄々としてましたけどね。

 

 

この試合、実はオフ・ザ・ピッチも興味深いものでした。

クボタは今年の9月に江戸川区と連携協定を結んでいます。グラウンドがあるのは千葉・船橋市で、成田市とも協定を結んでいますが、新リーグ発足へ向けては、この江戸川が実質上のホームスタジアムとなる見通しです。TLも三菱重工相模原ダイナボアーズとの開幕戦を始め、ファーストステージ7試合中3試合の開催を予定しています。

 

拠点があるのは千葉県ですが、首都高湾岸線、国道357号で20分、一直線で通じる湾岸エリアという繋がり、そして何より“日本のニューデリー”西葛西駅からも徒歩18分という立地条件は、ラグビーの公式戦を開催するスタジアムとしては魅力的です。西葛西は決してドでかい町ではありませんが、インド料理なら文句ナシ。太田が拠点で熊谷がホームのパナソニック、町田のキヤノンが横浜と連携するなど、自治体のボーダーを越えた枠組みでチーム活動をしていこうという考え方なのです。一つ、この競技場の難点は、メーンスタンドに思い切り直射日光が降り注ぐ設計。下に貼った写真でわかるかな? 秩父宮ラグビー場をはじめ多くの競技場は、メーンスタンド側が眩しくないような方角で造られるのですが、ここと瑞穂ラグビー場は鬼滅いや鬼門です。

 

この日のホンダ戦は、2022年発足へ準備を進めるTLに代わる新リーグを睨み、試合運営をクボタが全て自分たちで賄った試合でした。無料の入場券の手配、支給をはじめ、スタジアムでの選手、ファンなどの導線や、入場対応など、外部委託の部分もありましたが独自運営で行われたのです。観客が1000人に限定されていたこともあってか、運営はスムーズだったという印象です。協会開催の時は、いつも肘をつくと真っ黒になる汚れっぱなしの記者席のテーブルも、クボタの岩爪航広報がしっかりと拭いてくれてます。

 

 

このような独自開催のオペレーションがどんなものか、すこし興味があったのでキックオフ1時間半ほど前に会場に行ってみたのですが、開場前にファンが集まりだして“密”になっていたため、キックオフ70分前だったゲートオープンを、30分ほど早めて場内へと誘導する柔軟な対応もありました。観戦者には2750人収容のバックスタンドのみを開放(メーンはチーム、関係者のみ)して、ほぼ1000人が密を作らない密度で試合を楽しみました。

 

チームを率いるフラン・ルディケHCは、南アフリカのブルズをスーパーラグビーで2度優勝に導いた指導者です。ルディケさんの素晴らしさは、知的でパッションを持ち、南アフリカの大地のような広い心を持っていること。ブルズ時代の本拠地、プレトリアのロフタス・ヴァースフェルドは5万人以上を収容する巨大なスタジアムのため、試合後の囲み取材で「これから拠点となる江戸川のスタンドは、ご覧の通りブルズの選手席くらいの大きさですが」と投げかけると、「多くのファンが来てくれたし、雰囲気は良かった。地元の人たちはすごく歓迎してくれているし、シーズンでもホームとして使えるのはエキサイティングだよ」とひたすら前向きに、新たなホームスタジアムへの思いを語ってくれました。

 

新リーグでは、将来的には参入条件としてホームスタジアムの収容人数を1万5000人以上とする方針です。なので、およそ6800席の江戸川は拡張が必要ですが、もちろんチームも、それを計算の上でこのスタジアムのホーム化を進めています。

公共の競技場なので行政がYESと言わない限りは実現は難しい。なので、長年チーム運営を担ってきた石川充チームコーディネーターは「こちらは提案レベルでお願いするしかないですが、クボタ側としては(客席の拡張を)段階的にでもやっていきたいと思います」と中長期的なビジョンで拡張の可能性を模索し、協議していく方針です。


現状でクボタがホームゲームを開催できるスタジアムは、この江戸川と成田市の中台運動公園陸上競技場ですが、開場の設備、規模とも江戸川が最も充実しているのは間違いない。

ここからは、あくまでもプランの話ですが、江戸川の観客数を新リーグのスタジアム条件を満たすものにするために、現在芝生席のゴール裏スタンドに客席を増設したり、来年のTLでは、ピッチ周囲の陸上トラックなどのエリアに仮設シートを設けるなどの計画も練られています。

陸上トラックをなくすことは陸上関係者、行政からも反論があるはずです。見通しは難しいですが、もし実現すると、千葉県境とはいえ都内で、公共交通機関も近くにある球技場、ラグビー場としては、かなり有難味のある施設になるはずです。ラグビーとカレーが好きな方には天国です。

 

そして、このようなプランを実現するためには、チームが地域とどう上手く連携し、支持されるかが重要になる。

例えば普及活動ですが、クボタは、成田など千葉県の各地も含めてラグビー部が決して多くない中学生を対象とした練習会、スクールを開催するなどの事業にすでに着手しています。他のチームでも取り組んでいますが、クボタは、ラグビースクールに所属する子供たちが、中学にラグビー部がないために他のスポーツに流出する状況をなんとか減らしたい思いで、10年近く週1回のペースで練習会を開催している素敵なチームでもあります。このような小さな取り組みの積み重ねが、チームをコミュニテイーに迎え入れてもらえるためには重要でしょう。

 

ここまで書いてきたことは、すでに実現へ動いているものもあれば、全くの空論のものもあります。いづれにせよ、大前提になるのは、クボタが、江戸川の現在のキャパシティ6800席を、毎試合どれだけ多くのファンで埋めることが出来るかが第一歩であり、カギを握ることになります。そのめには、先に書いたようにTL、新リーグでトップ4、つまり優勝を争うようなチームになれるかは重要です。

最後のTLに挑むチームの顔ぶれ、そしてチームを率いるルディケHCの手腕を見れば、このような野心に手をかけることが出来るポテンシャルは持っていると期待しています。