▼関東大学春季大会Aグループ(東京・日野市、帝京大グラウンド)

帝京大 60-7(前半33-0) 大東文化大

 

 

 

対抗戦、リーグ戦両グループの優勝候補同士の対戦は、スコア上じゃ予想を上回るワンサイドゲームになりました。大東文化大のファーストコンタクトの甘さ、帝京大のブレークダウンの見切りの速さ、こんな要素の積み重ねが結果的には〝大量失血〟につながるという典型的な試合ですね。

 

で、この試合で、いちばん話を聞きたいなと感じたのは、な、な、なんと、完敗した大東文化大の背番号9松田武蔵選手(1年)。ニュージーランド(NZ)では温泉で知られるロトルアでの3年間の留学から今春帰国して、早くも伝統のモスグリーン(個人的には鶯色だよな、あれは)のジャージーに袖を通した、注目のルーキーです。

 

神奈川県大和市出身の武蔵くんは、小学1年生のとき大和ラグビースクールで楕円球に出会い、中学校では主にSOでプレーしていたそうです。

ラグビー王国での挑戦を決めた理由は「もっとラグビーを上手くなりたい」という一途な思いから。SH、SO、WTBを中心にユーティリティーBKとして3シーズン、世界最強の国でラグビーを吸収して大東文化大での挑戦をスタートしたばかりです。ちなみに、4月28日の東海大戦ではCTBで先発しています。

あまたある大学ラグビー部の中で、大東文化大を選んだ理由は「自由そうだから」。厳しい上下関係がなく、グラウンドでの練習も、厳しさの中に笑顔があふれているのが、すでに大東文化大の伝統になっています。

 

実は、この日の武蔵くんは、帝京大メンバーを圧倒する大活躍というプレーをみせたわけではありません。武蔵くん自身は「サインプレーとかを、まだ先輩たちと合わせられてないんで、もうちょっとコミュニケーションをとっていきたい」と課題を感じていますが、SHとしてのパスが山なりになってしまったり、SOが立ち止まっている位置にボール投げてしまうためBKラインを前に上げられない場面が目につきました。つまり、まだまだ伸びしろばかりです。

 

でも、自ら仕掛けたプレーでは、帝京大の生真面目で、精度の高い防御を嘲笑うように突破する場面が何度も見られました。武器は走り出しからのスピードと切れのあるステップ。留学したロトルア・ボーイズ高校は、フィジカル、スキル、経験値と武蔵くんを上回る能力を持つ選手ばかり。「最初は武器がなかった。体が小さかったので、何かないと活躍できなかった。だから、足を速くすることを頑張りました」と、ユーチューブなどで独学で学んだスピードトレーニングで、加速力を伸ばすことに取り組んできた成果は、この日のパフォーマンスにも見ることができました

 

大東文化大-三洋電機(現パナソニック)で快足WTB、CTBとして活躍した山内智一コーチは「瞬発力、加速力は、まるで(NZ代表SO、FBの)ダミアン・マッケンジー。あのスピードをどう生かすかは、いろんな可能性がある」と評価。スピードを生かして、ロトルア時代と同様にSH以外のポジションでの可能性も視野に入れています。

 

防御でも、タッチ際で22mラインを突破して独走態勢に入った帝京大の選手のトライをハードタックルで阻止。身長170㎝、体重71㎏と、まだまだか細いシルエットですが、体幹の強さも勇気も持ち合わせています。

 

大東文化大には、3年生の南昂伸選手という不動の9番がいます。現在は、ラグビーが上手すぎて7人制日本代表候補としてフィジー遠征に参加中のため、ロトルア・ボーイにチャンスが巡ってきたのです。それにしても、現在パナソニックでプレーする小山大輝選手、南選手、そして原石ながら輝きを放つ武蔵くんと、大東文化大には、ここ数年素晴らしいSHが集まり、鍛えられているのは驚くべきことです。日本代表、サンウルブズで活躍中の茂野海人選手(トヨタ自動車)もOBですからね。

いかつい大型FWが伝統の大東文化大は、いわば大学ラグビーの〝進撃の巨人〟ですが、実は人知れず〝進撃のSH王国〟を築いています。武蔵くんの場合は、9番という範疇でとらえないほうがいいかも知れませんが…。

 

完敗しながらも帝京大スクラムをぐらつかせた大型FWがダイトーファンには魅力でしょうが、今季は〝東松山のダミアン・マッケンジー〟にも、ぜひ注目してください。