▼関東大学春季大会
明大 36-5 青学大(雷雨のため、手元計測前半33分で打ち切り)
明大ラグビーの総本山? 世田谷・八幡山グラウンドでの試合は、急転、雷雨でわずか33分でノーサイド。連休で、多くのヒマ人、おっと失礼、熱心なファンが大挙して訪れただけに、残念な結末でした。
でも、33分の試合でも、収穫はあるものです。
この日、背番号10の紫紺のジャージーに袖を通したのは、山沢京平くん(3年)。そう、昨季は背番号15でチームの22シーズンぶりの大学王座奪還に貢献したエース・ランナーが、司令塔として大学デビューを果たしたのです。
「去年も少し試したんですが、先週くらいから(SOを)やり始めました。今日は中途半端で終わっちゃったんで…。ま、しようがないですね。コミュニケーションのところで、他の選手に伝えきれてないところがあって、ボールを動かしきれなかったところはあった。でも、相手防御が出てきたところにショートパスを使ったり、ゴール前のFWからのアタックで(その)裏を使ったり、いままでのメイジのアタックと違う形がすこしでもできたのでよかった」
いつもの朴訥ながらも、飄々とした話しぶりですが、埼玉・深谷高時代から、秘められた無尽蔵の可能性の一端を輝かせた京平くんを見てきた側としては、桜のジャージーの未来にも影響するかも知れないビッグなコンバートに、心沸く思いで33分間の〝デビュー戦〟を見守りました。
野性味あふれるランプレー、高い身体能力を武器に、日本代表候補の兄・拓也選手(パナソニック)に負けない才能を輝かせてきた京平選手。この才能を、指導したコーチは、どうしても司令塔として使う欲望を抑えられないようです。深谷高を花園常連校に鍛え上げた横田典之監督(当時)も、FBからSOへのコンバートを試しています。高校時代のプレーだと、天才司令塔といわれた兄・拓也選手が他のプレーヤーを〝動かす側〟だったのに対して、京平くんは〝生かせれる側〟がベストなのかなという印象でした。でも、大阪・大工大高(現常翔学園高)-明大―サントリーと、名門チームでSOとして活躍した明大の伊藤宏明BKコーチは「あの身体能力に、(起点の)近いところでボールを持たせたい。試す価値はある」と〝SO山沢〟という選択肢に期待を膨らませます。
33分のプレーでは目を見張る大活躍には至りませんでしたが、京平くんのSOとしての可能性を感じさせるのは、フェーズを重ねる中で、自分が動きながらボールを受け、アタック・ラインを前に引き上げることができること。防御側にとっては、突破力もあるランナーが浅い位置でパスを受けて走りこんでくるのは嫌なものです。間合いが刻々となくなる中で、仕掛けてくるのか、他のランナーを動かすのか、はたまた足技かという判断を強いられるのですから。
京平くん自身、この日のSOでのプレーについて「(走りこみながらボールを受けるプレーを)意識してやりました。相手防御が出てきたときに、攻撃ラインに並ぶ選手をみて、自分でラインを上げるべきか、早めにボールを預けるべきなのかを判断できていたので大丈夫」と、いい感触を掴んだようです。
いまの日本代表やサンウルブズを見ていると、世界のトップレベル相手との戦いの中で、スピードではプレッシャーをかけることができていると思います。そこに、相手防御の重圧のある中で、前に出れるSOがいると、おそらく攻撃力、言い換えると相手防御の〝厄介感〟は、さらに高まると期待できます。いま、日本代表の司令塔争いは、明大の先輩でもある田村優選手が主力に君臨し、若手の松田力也選手、山沢兄ら若手が追う展開です。その一方で、SOは、長らく日本代表の課題となっているポジションでもあります。5月に大学で実戦投入されて、即ワールドカップというのは高望みですが、2023年のフランスを舞台に誰がジャパンの司令塔としてタクトを振るうのかを考えると、わくわくしちゃいますね。
もちろん、京平くんの場合はFBとして奔放なアタックでも期待の選手で、ご本人も「仮にFBに戻ったとしても、SOでプレーした経験は絶対に生きるんで、どっちにしろプラスしかない」という思いで、当分の練習はSOに専念して取り組んでいくようです。
明大の場合、忽那鐘太、松尾将太郎と昨季までのレギュラーSO2人が卒業した一方で、FBには猿田湧選手(3年)や雲山弘貴選手(2年)と、将来は日本代表を狙えるポテンシャルを持つ逸材が揃っています。〝10番・山沢〟は、チーム事情によっても左右される可能性もありますが、33分以上試してみる価値はありそうです。
あ、試合なんですが、前半を終了していないため、現時点では勝敗はつきません。今後の再試合も、両チームのスケジュールを踏まえて検討される見通しですが、お互いに再試合を組めるかはわからない状態。もし、再試合が行われない場合は、この日の中断までの結果で勝敗などが判断されることになりそうです。
ちなみに、この日の明大BKは11番以降の選手全員が身長180㎝を超え、192㎝のCTB児玉樹選手(2年)のような国際規格のサイズの選手がズラリと並びました。なかなか壮観で、この布陣が公式戦でも実現すると、トップリーグを上回る高さのBKラインとなりそう。
今季の重戦車は、BKラインにも注目ですよ。