すぐれた音楽的感覚または感性が
フレーズの表現を
支配しなければならないとすれば、
速度を調節するにも
また同様に精密な
音楽的才能が要求される。
現在では作品の速度は、
多くの場合メトロノームで
表示されているが、
演奏家の判断も
またしばしば要求される。
速度標識とあまりかけ離れるのは
つねに危険であるが、
また盲目的に追従してもならない。
わたしはメトロノームとばかり
絶えず練習することは感心しない。
メトロノームは
速度を決めるために
考案されたのであるから、
その目的のためにのみ
使用さるべきである。
この「音楽の時計」の奴隷となると、
想像する限りの
もっとも機械的な演奏が
生まれてくる。
抜粋: 大ピアニストは語る
原田光子 編訳
河出書房新社