日本に多数ある桜の木の中で、一際美しいと称賛される日本三大桜。福島県にある「三春滝桜」と山梨県の「山高神代桜」、そしてもう一つがこの「淡墨桜」である。これに埼玉県北本市の「石戸蒲桜」、静岡県富士宮市の「狩宿の下馬桜」を加えて五大桜と言うらしい。
本巣市産業経済課のリーフレットによると、1,500余年にわたって生き続けた名木・淡墨桜が、衰えを見せ始めたのは大正時代初期(1912~)、大雪で太さ約4mの一の枝が折れ、本幹に亀裂が生じた頃からで、その後、地元では保護に努めたが、昭和23年(1948)頃にはシロアリ被害で遂に枯死するかという状態に陥った。アリの駆除と特殊な根接ぎを施した結果、発育繁茂、元の姿に蘇った。昭和34年、この地方を襲った伊勢湾台風の猛威に曝され、太い枝が折れ、葉や小枝もほとんどもぎ取られ、またも無惨な姿になった。このような危機のたびに、多くの専門家や樹木医、地元関係者などが手を差し伸べ、起死回生の策を講じて命をつないできた。そして、昨年の台風21号で大枝4本が折れたが、樹木医が処置してこの春に備えた。こうして、不死鳥のごとく蘇ってきた老桜は、これからも毎年満開の季節を迎えることだろう。
台風の影響が心配されていたが、今年も見事な花をつけた。正面から見た淡墨桜は、全体的なシルエットは台風前とほとんど変化がないようだが、各枝間には隙間が見られる。名古屋市から訪れた人も「枝が折れた部分は寂しいけれど、全体を見渡せば、変わらず綺麗です」と話していた。

北方向から見た淡墨桜で、枝張りは東西27.6m、南北25.0m。白い花が散り際に淡い墨色へと変化していくことから名付けられた。写真の右端は淡墨二世で大正12年(1923)観音堂建立記念樹で樹齢96年。淡墨桜は樹齢1,500余年のエドヒガンザクラ、樹高16m、幹囲目通り9.9mの巨木。樹齢1,500年と言うと飛鳥時代よりも前の後期古墳時代から咲いていることになる老樹である。

正面から見た台風被害前の様子(2017.4.13撮影)で、瀕死の状態を二度も乗り越えた岐阜県最古の長寿の樹で、沢山の支柱に支えられ、力強く優しく咲き誇っている。

台風21号による被害状況。強風により古木を支える支柱が倒れたため、無残にも太い枝が折れ、痛々しい姿となっている。また、折れた部分からの腐食等が懸念されるので、専門家の指導のもと、防腐処理が施された(右下)。【写真は何れも 2018.9 本巣市教育委員会社会教育課 Webサイトから】

昨年9月4日、台風21号の暴風で、直径20~30㎝、長さ6~8mの大枝4本と小枝3本の計7本が折れた。翌日、目の当たりにし「それはもう、ショックで」と観光客に説明するボランティアガイドの青木輝泰さん。市では台風の三日後から、ふるさと納税制度を使って、再生にあてる寄付金を募集。返礼品はない。それでも、全国から200万円近くが寄せられた。ほかにも、22の企業や個人から寄付があり、集まった善意は計約770万円。市は支柱の取り換えやに、冬の間、枝に雪が積もらないように縄を張る「雪つり」の設置費などにあてる予定という。

折れた枝の断面は、防腐処理が施され黒くなっており、一見、どこが折れたか分らないくらい、立派に咲いている。

写真は満開の淡墨桜を背に、地元池田町出身の演歌々手石原詢子さんから藤原本巣市長に淡墨桜の再生保護に役立ててほしいと寄付金が贈呈される様子。昨年9月の台風によって大きな枝が折れたという事をニュースで知り、ファンクラブや応援団から義援金を募り、また、彼女自身のグッズ販売の売上金の一部を合わせて寄付したものという。

この日は、「淡墨桜感謝祭」のイベントがありセレモニーの後、この地にゆかりの二人の歌とオカリナ演奏が披露された。歌は地元出身の演歌歌手石原詢子さんが持ち歌の「詩吟入り薄墨桜」(作詞:下地亜記子/作曲:徳久広司、【下へ下へと根を伸ばし雨風嵐に耐えて立つ…】)と市文化交流大使で世界的に有名なオカリナ奏者の宗次郎氏が4曲を披露、自然と調和のとれた澄んだ音色が里山に響き渡った。今年も毎年恒例となっている第27回淡墨桜コンサート(うすずみサマーフェスティバル実行委員会主催)が予定されており、宗次郎氏と根尾中学校の生徒によるオカリナ演奏が聴かれるという。

岐阜県本巣市根尾板所字上段995 根尾谷淡墨桜のMAP