このコラムでは、DX(デジタルトランスフォーメーション)に初めて関わる、またこれからDXに取り組む企業経営者やマネージャーの方々を対象に、DXに取り組む際のポイントについてお伝えしています。

近頃は街の本屋さんに行く機会も減り、電子書籍ばかりを読むようになりました。自宅の本棚が満杯になることも無くなったのですが、読まれないままに放置された電子書籍たちが仮想の本棚に山積みの状態で、デジタル化されても本棚の様子は相変わらずです。

さて、そんななか電子書籍で今年4月に出版されました「コトラーのリテール4.0 デジタルトランスフォーメーション時代の10の法則」を読みました。私もこれまでECサービスを中心に小売業の企業を支援してきましたが、小売業界を取り巻くDXの状況を理解するのに大変参考になりましたので、このコラムでも紹介したいと思います。

内容盛りだくさんの本ですので序盤だけですが今回は前編としてお伝えします。

■はじめに ~今回のポイント~

今回は次の4点についてお伝えします。

  •  リテール4.0とは?
  • 「民主化」と「中抜き現象」
  •  B2C、B2BからH2Hへ
  •  デジタルからリアルへの誘導


■リテール4.0とは?

この本の著者は「近代マーケティングの父」とも呼ばれるフィリップ・コトラーと、気鋭のイタリア人マーケティング研究者のジュゼッペ・スティリアーノです。

コトラーはこの本の目的を「DX(デジタルトランスフォーメーション)がリテール(小売)業界にあたえるインパクトを具体的に理解・管理するための考え方を読者に提供すること」と述べています。

さて、この本のタイトルでもあるリテール4.0とは何でしょうか。コトラーは過去にリテール業界で起きてきたパラダイムチェンジをリテール1.0~3.0の3段階で次のように定義してきました。そして今年、リテール3.0を超越すると想定される考え方として、リテール4.0を定義しました。

リテール4.0とは『近年のデジタル技術の急加速によるDXが中核となり、小売業界のルールを激変させる新たなパラダイムチェンジ』のこと、要するにこれからのリテールの主役はデジタルということです。

 

■「民主化」と「中抜き現象」

コトラーは、デジタル技術が急加速するなかで、小売ビジネスに携わるすべての人々が最優先にDXに取り組むべきと説きます。小売業はDXによってSNSを中心とした「民主化」、ユーザー直接取引による「中抜き現象」という重要な事象につながったと述べています。

●SNSを中心とした「民主化」

誰もがスマートフォンやタブレットといったスマートデバイスをもち、高速通信のインターネット環境も整備されました。これによりデジタル活用のコスト低下、技術使用の簡易化が進み、人々は自分の欲しいコンテンツ、情報、財、サービスをいつでも利用できるようになりました。

例えば、ある日訪れたお店で販売されているパンについて味や品質を知ってから購入したいとしましょう。リテール3.0以前はお店の人に直接聞く、あるいは雑誌やホームページなどのメディアから情報を得る必要がありました。リテール4.0の現在、移動中やお店の中でスマートデバイスを使ってSNSなどにアクセスし、口コミ情報など気軽に入手することができるようになりました。消費者は企業よりもずっと速いスピードでデジタルに対応していますので、情報の民主化がますます進んでいくことでしょう。

  

●ユーザー直接取引による「中抜き現象」

流通はこれまで伝統的に製造会社⇒卸売会社(元卸)⇒卸売会社(中間卸)⇒卸売会社(最終卸)⇒店舗⇒消費者といった経路をたどってきました。しかしDXが進んできた今日、この仲介を迂回して製造販売会社⇒消費者といったようにコンテンツや商品が消費者に直接到達できるようになりました。

メルカリをはじめ、デジタルを中心としたプラットフォーム上で消費者が欲しいと思う商品を直接購入し、届けてくれるサービスが、リテール4.0の現在ではもはや当たり前になりました。

■B2B/B2CからH2Hへ

コトラーは、リテール4.0においてB2B(企業対企業)、B2C(企業対消費者)といった区別は古くなったと述べています。前に述べたデジタル技術の普及による民主化や中抜き現象といった変化により、企業が消費者に直接コンタクトをとれるようになったためです。また人々が企業内のみならずプライベートでもスマートデバイス活用やオンラインサイト購入などに慣れていくことから、B2Bならではの営業の性質やおおげさな見せ方や商談がなくなり、結果「B2B、B2Cは類似していき期待される水準も同等のH2H(人間対人間)という広い概念に溶け込む」と述べています。

今年のコロナ禍で一気に普及したZoomなどのオンライン会議サービスは、法人利用、個人利用を問わず、同じデジタルサービスが広く活用されるようになりました。これはサービスを提供する側にとってもB2B、B2Cが類似していき期待される水準が同等になってきた一つの例といえるでしょう。

■デジタルからリアルへの誘導

リテール3.0の時代、リアル店舗からオンラインへと購買がシフトしていく中で、リアル店舗が対応する課題の一つがショールーミングでした。ショールーミングとは、リアル店舗で商品を確認し、帰宅後に同じ商品を最も安く買えるお得なECサイトで注文する、といった「リアル店舗ではじまりオンラインで完結」する購買行動です。 

しかし、スマートデバイスがパーソナルメディアとなって、すべての人々、企業が常につながりをもてる対象となったことで、新たにウェブルーミングという購買行動が起きています。ウェブルーミングとは、オンラインで商品情報を確認してから、リアル店舗で最終確認をして購入する、といった「オンラインではじまりリアル店舗で完結」する購買行動です。

かつては、オンラインで購買した方が低価格で購入でき、家まで配送してくれるなどのメリットがありました。しかし近年、実店舗とオンラインストアの価格差が少なくなったなかで、オンラインの情報を確認するだけでは満たせない購買体験を消費者が探求するようになってきました。例えば購買について専門家の助言を求めたい、モノに実際に触れてみたいといったことです。そのような消費者のニーズに対応すべく、流通の仕組みはリアル店舗での探求とオンラインでの確認をリピート(行き来)するかたちでオムニチャネル化してきました。

(オムニチャネルとは、オンラインだけでなくリアル店舗などの場を含めたあらゆるチャネルを連携させて消費者との接点を持つ方法)

企業側もオンラインの利便性とリアル店舗の体験といった両方の良い部分をうまく融合して、消費者の欲求に幅広く対応することが求められます。

イケア・ジャパンの対応事例をご紹介します。イケアはスウェーデン発祥で世界各地に出店している世界最大の家具量販店です。巨大な店舗のショールームで消費者が商品を選び購入、持ち帰ってもらう販売モデルが主体です。

イケアは今年、オンラインストアと連動した新しいかたちのリアル店舗 IKEA原宿をオープンしました。従来の郊外の大型店舗ではなく、都心にある小型店舗で従来の販売モデルからの脱却を目指しています。

IKEA原宿では、実際に商品を手に取って見て、そのままお持ち帰り・配送できるように商品を取り揃えていることはもちろん、お買い物がオンラインストアでも楽しんでもらえるように、AR(拡張現実)技術を用いたスマートフォンアプリを使って店内の家具にカメラを向けるとオンラインストアに連動したり、また自宅に帰ってから家具の配置をシミュレーションしたりできるような新しいサービスを取り入れています。

また近年のコロナ禍で、デリバリーやオンラインサービスが広く利用されていく中でも、リアル店舗ならではの商品・サービスに直接触れあえるメリットを生かした体験型で消費者に寄り添った高度なサービスを提供することが求められています。イケア原宿でもスウェーデンフードが楽しめるカフェが併設されており、原宿という立地もあり、若者を中心に店舗からSNS上でレビューや口コミにより消費者に参加意識を持たせることにもつながるでしょうし、新しいかたちのリアル店舗として旗艦店となっていくことでしょう。

「オンラインとオフライン(リアル店舗)のチャネルの相互補完こそが、小売業界の未来に向けたカギである」とコトラーも述べています。


■リテール4.0「10の法則」 (※次回以降解説予定)

そしてこの本の中で、DXをリテール業界の好機とするためのリテール4.0における10の法則として「1. 不可視であれ」、「2. シームレスであれ」、「3. 目的地であれ」、「4. 誠実であれ」、「5. パーソナルであれ」、「6. キュレーターであれ」、「7. 人間的であれ」、「8. バウンドレスであれ」、「9. エクスポネンシャルであれ」、「10. 勇敢であれ」の10の法則を提示しています。次回はリテール4.0における10の法則の概要を解説したいと思います。


■今回のまとめ

  •  リテール4.0の主役はデジタル
  •  デジタルによる「民主化」と「中抜き現象」が進む中で、小売ビジネスに携わるすべての人々が最優先にDXに取り組むべき
  •  B2C、B2Bと分かれていたサービスも、デジタル化の中でH2H(人間対人間)という広い概念に集約されていく
  •  オンラインとオフライン(リアル店舗)のチャネルの相互補完こそが、小売業界の未来に向けたカギ

via 合同会社 BSMi
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このコラムでは、DX(デジタルトランスフォーメーション)に初めて関わる、またこれからDXに取り組む企業経営者やマネージャーの方々を対象に、DXに取り組む際のポイントについてお伝えしています。

近頃は街の本屋さんに行く機会も減り、電子書籍ばかりを読むようになりました。自宅の本棚が満杯になることも無くなったのですが、読まれないままに放置された電子書籍たちが仮想の本棚に山積みの状態で、デジタル化されても本棚の様子は相変わらずです。

さて、そんななか電子書籍で今年4月に出版されました「コトラーのリテール4.0 デジタルトランスフォーメーション時代の10の法則」を読みました。私もこれまでECサービスを中心に小売業の企業を支援してきましたが、小売業界を取り巻くDXの状況を理解するのに大変参考になりましたので、このコラムでも紹介したいと思います。

内容盛りだくさんの本ですので序盤だけですが今回は前編としてお伝えします。

■はじめに ~今回のポイント~

今回は次の4点についてお伝えします。

  •  リテール4.0とは?
  • 「民主化」と「中抜き現象」
  •  B2C、B2BからH2Hへ
  •  デジタルからリアルへの誘導


■リテール4.0とは?

この本の著者は「近代マーケティングの父」とも呼ばれるフィリップ・コトラーと、気鋭のイタリア人マーケティング研究者のジュゼッペ・スティリアーノです。

コトラーはこの本の目的を「DX(デジタルトランスフォーメーション)がリテール(小売)業界にあたえるインパクトを具体的に理解・管理するための考え方を読者に提供すること」と述べています。

 さて、この本のタイトルでもあるリテール4.0とは何でしょうか。コトラーは過去にリテール業界で起きてきたパラダイムチェンジをリテール1.0~3.0の3段階で次のように定義してきました。そして今年、リテール3.0を超越すると想定される考え方として、リテール4.0を定義しました。

リテール4.0とは『近年のデジタル技術の急加速によるDXが中核となり、小売業界のルールを激変させる新たなパラダイムチェンジ』のこと、要するにこれからのリテールの主役はデジタルということです。

 

■「民主化」と「中抜き現象」

 コトラーは、デジタル技術が急加速するなかで、小売ビジネスに携わるすべての人々が最優先にDXに取り組むべきと説きます。小売業はDXによってSNSを中心とした「民主化」、ユーザー直接取引による「中抜き現象」という重要な事象につながったと述べています。

●SNSを中心とした「民主化」

  誰もがスマートフォンやタブレットといったスマートデバイスをもち、高速通信のインターネット環境も整備されました。これによりデジタル活用のコスト低下、技術使用の簡易化が進み、人々は自分の欲しいコンテンツ、情報、財、サービスをいつでも利用できるようになりました。

  例えば、ある日訪れたお店で販売されているパンについて味や品質を知ってから購入したいとしましょう。リテール3.0以前はお店の人に直接聞く、あるいは雑誌やホームページなどのメディアから情報を得る必要がありました。リテール4.0の現在、移動中やお店の中でスマートデバイスを使ってSNSなどにアクセスし、口コミ情報など気軽に入手することができるようになりました。消費者は企業よりもずっと速いスピードでデジタルに対応していますので、情報の民主化がますます進んでいくことでしょう。

  

●ユーザー直接取引による「中抜き現象」

  流通はこれまで伝統的に製造会社⇒卸売会社(元卸)⇒卸売会社(中間卸)⇒卸売会社(最終卸)⇒店舗⇒消費者といった経路をたどってきました。しかしDXが進んできた今日、この仲介を迂回して製造販売会社⇒消費者といったようにコンテンツや商品が消費者に直接到達できるようになりました。

  メルカリをはじめ、デジタルを中心としたプラットフォーム上で消費者が欲しいと思う商品を直接購入し、届けてくれるサービスが、リテール4.0の現在ではもはや当たり前になりました。


■B2B/B2CからH2Hへ

 コトラーは、リテール4.0においてB2B(企業対企業)、B2C(企業対消費者)といった区別は古くなったと述べています。前に述べたデジタル技術の普及による民主化や中抜き現象といった変化により、企業が消費者に直接コンタクトをとれるようになったためです。また人々が企業内のみならずプライベートでもスマートデバイス活用やオンラインサイト購入などに慣れていくことから、B2Bならではの営業の性質やおおげさな見せ方や商談がなくなり、結果「B2B、B2Cは類似していき期待される水準も同等のH2H(人間対人間)という広い概念に溶け込む」と述べています。

■B2B/B2CからH2Hへ

 コトラーは、リテール4.0においてB2B(企業対企業)、B2C(企業対消費者)といった区別は古くなったと述べています。前に述べたデジタル技術の普及による民主化や中抜き現象といった変化により、企業が消費者に直接コンタクトをとれるようになったためです。また人々が企業内のみならずプライベートでもスマートデバイス活用やオンラインサイト購入などに慣れていくことから、B2Bならではの営業の性質やおおげさな見せ方や商談がなくなり、結果「B2B、B2Cは類似していき期待される水準も同等のH2H(人間対人間)という広い概念に溶け込む」と述べています。

 今年のコロナ禍で一気に普及したZoomなどのオンライン会議サービスは、法人利用、個人利用を問わず、同じデジタルサービスが広く活用されるようになりました。これはサービスを提供する側にとってもB2B、B2Cが類似していき期待される水準が同等になってきた一つの例といえるでしょう。

■デジタルからリアルへの誘導

 リテール3.0の時代、リアル店舗からオンラインへと購買がシフトしていく中で、リアル店舗が対応する課題の一つがショールーミングでした。ショールーミングとは、リアル店舗で商品を確認し、帰宅後に同じ商品を最も安く買えるお得なECサイトで注文する、といった「リアル店舗ではじまりオンラインで完結」する購買行動です。 

 しかし、スマートデバイスがパーソナルメディアとなって、すべての人々、企業が常につながりをもてる対象となったことで、新たにウェブルーミングという購買行動が起きています。ウェブルーミングとは、オンラインで商品情報を確認してから、リアル店舗で最終確認をして購入する、といった「オンラインではじまりリアル店舗で完結」する購買行動です。

かつては、オンラインで購買した方が低価格で購入でき、家まで配送してくれるなどのメリットがありました。しかし近年、実店舗とオンラインストアの価格差が少なくなったなかで、オンラインの情報を確認するだけでは満たせない購買体験を消費者が探求するようになってきました。例えば購買について専門家の助言を求めたい、モノに実際に触れてみたいといったことです。そのような消費者のニーズに対応すべく、流通の仕組みはリアル店舗での探求とオンラインでの確認をリピート(行き来)するかたちでオムニチャネル化してきました。

(オムニチャネルとは、オンラインだけでなくリアル店舗などの場を含めたあらゆるチャネルを連携させて消費者との接点を持つ方法)

企業側もオンラインの利便性とリアル店舗の体験といった両方の良い部分をうまく融合して、消費者の欲求に幅広く対応することが求められます。

イケア・ジャパンの対応事例をご紹介します。イケアはスウェーデン発祥で世界各地に出店している世界最大の家具量販店です。巨大な店舗のショールームで消費者が商品を選び購入、持ち帰ってもらう販売モデルが主体です。

イケアは今年、オンラインストアと連動した新しいかたちのリアル店舗 IKEA原宿をオープンしました。従来の郊外の大型店舗ではなく、都心にある小型店舗で従来の販売モデルからの脱却を目指しています。

IKEA原宿では、実際に商品を手に取って見て、そのままお持ち帰り・配送できるように商品を取り揃えていることはもちろん、お買い物がオンラインストアでも楽しんでもらえるように、AR(拡張現実)技術を用いたスマートフォンアプリを使って店内の家具にカメラを向けるとオンラインストアに連動したり、また自宅に帰ってから家具の配置をシミュレーションしたりできるような新しいサービスを取り入れています。

また近年のコロナ禍で、デリバリーやオンラインサービスが広く利用されていく中でも、リアル店舗ならではの商品・サービスに直接触れあえるメリットを生かした体験型で消費者に寄り添った高度なサービスを提供することが求められています。イケア原宿でもスウェーデンフードが楽しめるカフェが併設されており、原宿という立地もあり、若者を中心に店舗からSNS上でレビューや口コミにより消費者に参加意識を持たせることにもつながるでしょうし、新しいかたちのリアル店舗として旗艦店となっていくことでしょう。

 「オンラインとオフライン(リアル店舗)のチャネルの相互補完こそが、小売業界の未来に向けたカギである」とコトラーも述べています。


■リテール4.0「10の法則」 (※次回以降解説予定)

そしてこの本の中で、DXをリテール業界の好機とするためのリテール4.0における10の法則として「1. 不可視であれ」、「2. シームレスであれ」、「3. 目的地であれ」、「4. 誠実であれ」、「5. パーソナルであれ」、「6. キュレーターであれ」、「7. 人間的であれ」、「8. バウンドレスであれ」、「9. エクスポネンシャルであれ」、「10. 勇敢であれ」の10の法則を提示しています。次回はリテール4.0における10の法則の概要を解説したいと思います。


■今回のまとめ

  •  リテール4.0の主役はデジタル
  •  デジタルによる「民主化」と「中抜き現象」が進む中で、小売ビジネスに携わるすべての人々が最優先にDXに取り組むべき
  •  B2C、B2Bと分かれていたサービスも、デジタル化の中でH2H(人間対人間)という広い概念に集約されていく
  •  オンラインとオフライン(リアル店舗)のチャネルの相互補完こそが、小売業界の未来に向けたカギ

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このコラムでは、DX(デジタルトランスフォーメーション)に初めて関わる、またこれからDXに取り組む企業経営者やマネージャーの方々を対象に、DXに取り組む際のポイントについてお伝えしています。

前回は改めてCRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)とは?をテーマにMA(マーケティング自動化)、SFA(営業支援システム)、カスタマーサポートシステムの3つのサービス別の特徴を解説しました。

今回も引き続きCRMの効果や、導入~運用定着に向けたポイントをお伝えしたいと思います。


■はじめに ~今回のポイント~

今回は次の3点についてお伝えします。

  •  DXの第一歩はデータを収集、蓄積すること
  •  CRMの真の効果は?
  •  CRMツールを導入して、形骸化させず運用を定着させるために


■DXの第一歩はデータを収集、蓄積すること

さて、少しCRMの話からそれますが、これまで様々な企業のIT活用を支援してきて、未だ企業の顧客情報をMicrosoft Excelで管理している企業が少なくありません。

Excelを顧客管理ツールに利用されている理由として、以下のようなことがあるようです。

  • 即座に、思い通り柔軟にデータリストを作成できる
  •  社内外の誰もが扱うことができ、ファイルが共有しやすい
  •  日頃慣れ親しんだOfficeツールで追加コストの必要がない
  •  前任者から受け継いだ業務ノウハウが詰まっており、切り替えが難しい

システムの追加投資も不要で、現場の業務がうまく回せている状態であれば、業務上とくに問題のない状況とも言えます。皆様の企業ではいかがでしょうか?

私は、企業の情報管理(顧客管理や販売管理、在庫管理など)がExcel中心となっている支援先企業に対して、以下の点をアドバイスするようにしています。

「Excelは表計算ソフトである」

Excelは数値データの集計・分析に用いられる表計算ソフトです。

本来であれば、顧客情報などデータを管理する専門のツールではありません。ただ表計算ソフトは年々進化しており、簡易データベース機能も備わるようになってきたことから、個人使用のレベルであれば表計算ソフトでも十分にデータ管理できるようになりました。また、ツールとしての柔軟性が高く、職場の情報管理でExcelが活躍している企業のほうが多いことでしょう。

一方で、データ管理の専用ツールではなく、また柔軟にデータ管理できるがゆえに、業務上様々な弊害がでてくることがあります。

<Excelデータ管理の弊害の例>

  •  個人の好みで自由にデータを管理できることから情報の属人化を生みやすい
  •  いろいろな箇所と共同編集しているうちに、情報の分散がおこりやすい
  •  ツールとしての柔軟さが、かえって情報管理のあいまいさや不整合につながって、無駄な作業やミスを生み出してしまう
  • そして、企業にとっての一番の弊害となるのは、企業内のデータ収集、蓄積や、企業内のデータ活用が進まないことです。

DX推進を目指す企業のテーマに「Excel依存からの脱却」があがってくる理由として、業務効率化のみならず、DXの目的の一つであるデータ活用のためのデータ収集、蓄積が大きく関わってきます。


■CRMの真の効果は?

それでは、顧客情報管理がExcel依存となっている企業が、CRMに移行することでどのようなメリットがあるのでしょうか。

<顧客管理をCRMに移行するメリット>

  •  来店/電話/FAX/HP/SNS/メール/郵送といった様々な顧客の行動履歴、問い合わせ履歴、購買履歴、アフターフォローの履歴などを一元管理
  •  登録された顧客情報、履歴情報は、企業内はもちろん、社外(顧客、パートナーなど)にリアルタイムに共有が可能
  •  AIと連動したCRMサービスも登場しており、顧客へのアプローチなどをCRMが自動的に提案してくれる
  •  見込み客管理〜販売管理〜会計〜データ分析までを一気通貫で連携され、経営層が気になる売上状況などのKPI指標も即時に把握できる
  •  経営者、セールス、マーケティングの現場に圧倒的な安心感を得られる

メリットにあげたこれらをExcelだけで実現することが困難であることはイメージがつきやすいことと思います。

CRMのメリットをわかってはいても、なかなかそこにたどり着けないことで困ってるんだ、という声もあるでしょう。そこでCRM導入、移行のハードルについても考えてみましょう。

■CRMツールを形骸化させず運用を定着させるために

CRMツールが便利なのはわかるけど、かなりのコストがかかるのではないか?

下の表は主要なクラウド型CRMサービスを比較した表ですが、クラウドサービスの普及で、わずか月額数千円のコストでCRMを導入することができるようになりました。導入のハードルはほぼなくなってきたといえます。

参考:クラウドCRM製品比較 (引用:BOXIL CRM特集記事より)

なお、各製品が提供するプランは以下の通りです。上表内の利用料は、最安値のプランです。

Salesforce:Professional/Enterprise/Unlimited

Zoho CRM:スタンダード/プロフェッショナル/エンタープライズ

Dynamics 365:Business/Enterprise

HubSpot:Starter/Professional/Enterprise


一方でCRM導入企業の中には、CRM運用が定着しづらいといった課題があることも事実です。

4年前(2016年)の調査結果ですが、CRM(SFA)導入企業のCRMツール定着率は50%というデータがあります。(※ジャストシステム 「SFA/CRMを売上向上に直結させる方法」より引用)

CRMは企業の様々な業務課題に応える豊富な機能が備わっていることから、かえってそれが高いハードルとなって、現場が使いこなせない、利用効果が見いだせない、といった状況になり、結果、CRMツールの利用をやめて元の運用に戻したというケースも少なくありません。

CRMの運用を定着させるポイントは以下の通りです。

<CRMを定着させるポイント>

・ 経営層、幹部自らがCRM導入、運用定着を推進

経営層、幹部自らが顧客管理上の課題点とCRM導入効果を理解し、導入目的を明確にとらえること。そして自らが推進役になり、従業員に対してCRM導入目的を伝えていくことが重要です。

・ 導入前の業務シミュレーション

導入前の業務シミュレーションをしっかり行うことも大事なポイントです。

現場のフラストレーションは、今までうまくいっていた業務がCRM導入によって回らなくなることです。CRM導入後、運用は変わっても業務がうまく回せることを導入前の業務シミュレーションで確認することが必要です。また、過度な業務改善を期待させるのではなく、業務負荷は変わらない(もしくは増える可能性がある)かもしれないが、その努力が企業の貢献につながることを推進役から伝えていきます。

・ 教育と情報共有

CRM自体が豊富な機能を備えていますので、使いこなしてもらうための研修などの教育が大変重要です。もちろん導入時のみ教えればよいわけではなく、運用後も問い合わせ窓口、ノウハウを共有しあうコミュニティを設ける、などの検討も必要となります。


企業でDXが叫ばれる時代のなかで、企業活動におけるデータをリアルタイムで収集、経営状況を把握することはもはや企業の最優先事項と言えます。データ活用や顧客管理に対して課題を持たれている企業の方は、CRM導入を検討してみてはいかがでしょうか?


■今回のまとめ

  • 業務自動化の第一歩は、データを蓄積するところから
  • CRM導入により経営者、セールス、マーケティングの現場に圧倒的な安心感を得られる
  • CRM導入には現場でなく経営者が率先し利用啓蒙する

次回もDX推進のポイントを解説したいと思います。

以上


via 合同会社 BSMi
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このコラムでは、DX(デジタルトランスフォーメーション)に初めて関わる、またこれからDXに取り組む企業経営者やマネージャーの方々を対象に、DXとは何か?また企業がDXに取り組む際のポイントについてお伝えしています。

■DX時代のCRM(顧客関係管理)

 新型コロナウィルスの感染拡大防止のために発出された緊急事態宣言も、先日5月26日にようやく全面解除となりました。感染予防を継続しながらも社会経済活動のレベルを徐々に引き上げていく段階に入りましたが、かつての日常に戻るにはまだしばらく時間がかかりそうです。

僅か2、3か月で、企業と顧客の関係性も大きく変わってきました。法人営業を行っていた企業は客先訪問を控え、また対面で接客を行う飲食業やサービス業も、店舗運営や販促手法を変えていく必要に迫られるなど、どの業界も少なからず営業戦略、マーケティング戦略に影響がでてきています。

コロナの影響が長期化しそうな今だからこそ、営業活動やマーケティング活動を見直すひとつの機会といえますので、今回は顧客関係管理(CRM)について取り上げてみたいと思います。

■改めて、CRMとは?

このブログを読んでいる皆様の企業でも、CRMを既に導入済みで活用されていたり、導入を検討したりとご存知の方も多いかと思いますが、改めてCRMについて解説したいと思います。

CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)は、企業内の顧客情報を集約、一元管理することで、顧客に対する対応力を高めて、顧客の関係性強化や顧客の満足度向上につなげるシステムのことです。

顧客からの問い合わせや見積、注文、サポート状況やクレーム対応に至るまで企業と顧客とのやり取りが一元管理され、顧客と接点を持つ組織や従業員で共有管理されます。

このDXブログでは何度かxTechについて解説していますが、今回取り上げるCRMは、先端デジタル技術を用いて営業活動を効率化、自動化するSalesTech(セールステック)、また、先端デジタル技術によってマーケティング活動を自動化、高度化するMarTech(マーテック)のひとつとして改めて注目されています。

CRMは大きく分けてマーケティング段階を管理するMA(マーケティング自動化)、セールス段階を管理するSFA(営業支援システム)、アフターフォローを管理するカスタマーサポートシステムに分かれています。(ただこの定義もあいまいで、製品サービスによってはMAとSFAの機能が1つのパッケージとして販売されていたり、SFA、カスタマーサポートの1機能だけがCRMとして販売されていたりするケースもあります。)

■マーケティング活動・・・MA(マーケティング自動化)

MA(マーケティングオートメーション)とは、デジタルマーケティング(WEBサイトやメール、SNSなど)における顧客の動作や反応などを管理し、それらの情報から、検討段階の見込み客の購買の促進、さらにコミュニケーションによって顧客価値を高めて、再購入や口コミを促進する、といったマーケティング活動を自動化するツールのことです。

■セールス活動・・・SFA(営業支援システム)

SFA(Sales Force Automation)は、営業部門における顧客情報管理や、顧客へのアプローチをサポートするシステムです。営業のプロセスの管理や、商談履歴管理、営業報告、データ分析など営業担当者の活動を支援します。

■アフターフォロー・・・カスタマーサポートシステム

新規顧客の獲得、受注販売後に、サポート部門などで行なわれる顧客との対応履歴や受注状況などはカスタマーサポートシステムで一元管理されます。顧客コンタクトや社内業務履歴を管理、共有することで顧客との信頼性を高め、関係性強化を図ることができます。

■CRM導入企業における現状

 近年ではSalesforceやMicrosoft Dynamics 365、HubSpotといった高機能で統合化されたクラウド型CRMプラットフォームが登場し、MA/SFA/カスタマーサポートといったCRM機能を一つのサービスでシームレスに利用できるようになりました。しかし、下図のようにMAはマーケティング部門、SFAは営業部門、カスタマーサポートシステムはサポート部門と異なる部門でシステムが個別に導入、管理されて、結果的に3つのシステムの情報が分断されマーケティング、営業戦略に十分活用されていないケースがよく見られます。

このコロナの状況下では、なおさら顧客や環境の変化への対応が求められます。マーケティングでは検索ワードやサイトの来訪頻度といった変化、アフターフォローでは顧客の困りごとや要望、クレームなどの変化を見極めながら営業、顧客関係強化につながる情報として全社的に対応する仕組みを作っていく必要があります。

このブログの第5回でも取り上げた通り、経営者自らが先頭に立ってCRM導入の背景や目標を明確にすることが重要となります。

次回のブログでも引き続きDX時代のCRM活用を解説したいと思います。

以上


via 合同会社 BSMi
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このコラムでは、DX(デジタルトランスフォーメーション)に初めて関わる、またこれからDXに取り組む企業経営者やマネージャーの方々を対象に、DXとは何か?また企業がDXに取り組む際のポイントについてお伝えしています。

■新型ウイルス問題に直面する企業

新型コロナウイルスが世界中に感染拡大し、国内でも学校の一斉休校や外出の自粛要請など、我々の生活にもこれまで経験したことのない影響を及ぼしています。一日でも早い感染の終息を祈るばかりです。企業にとっても経済的影響の深刻さが日に日に増しており、感染拡大防止のために在宅ワークや時差出勤、交代勤務、有給の推奨、休業といった様々な対応を迫られています。

今回のブログは、この状況で注目されるテレワーク※1について取り上げたいと思います。

※1:テレワークとは在宅ワークのほか、サテライトオフィスワークや、カフェなどでのモバイルワークといった場所にとらわれない働き方のこと


■企業のテレワーク導入状況

下のグラフは、東京都が都内の企業1万社(従業員数30人以上)に対して、テレワークの導入状況をアンケート調査した結果です。テレワーク導入済みの企業は全体の25.1%、一方でテレワークを導入する予定のない企業が53.7%と大きく上回っており、まだまだテレワーク導入が進んでいる企業は少ないと言えます。従業員数が30人未満の企業を含めるとテレワーク導入率はさらに低下することでしょう。

図:企業のテレワーク導入状況 (引用:東京都 多様な働き方に関する実態調査(テレワーク)より)

今回の新型コロナウイルスの影響をきっかけに、テレワーク導入を進める企業は、上記調査をした1年前と比べて大きく増加することが見込まれます。私の周りでもテレワーク開始に向けたIT導入や制度策定などに関する相談がこの数か月で増えてきました。

■なぜ企業でテレワークが実現できないのか?

 企業においてテレワーク導入がなかなか進まない理由は何でしょうか?製造業などそもそもテレワークが困難な業種や、社外に情報の持ち出しが難しいといった理由でテレワークが実現できない企業が存在します。しかし一方で、未だ紙に依存した業務が中心であるとか、社内システムの構成がオフィス内での利用前提となっているなどの理由で、オフィスの自席でなければ業務が成り立たない企業も多い印象です。このような企業は、業務のペーパーレス化やクラウドサービスの積極的活用といった対策により、テレワークを導入できる業務範囲が広がっていくことでしょう。

■テレワークの有効性

 ところで企業にとってテレワークにはどのようなメリットがあるのでしょうか?テレワークの種類ごとに考えてみましょう。テレワークには大きく分けて以下の2つがあります。

• BCP※2型のテレワーク・・・災害時や緊急時に実施されるテレワーク

• WLB※3型のテレワーク・・・平時のテレワーク(職種を限定する、希望者をしぼるなどで実施されるケースが多い)

※2: BCP(事業継続計画)とは、企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画
※3: WLB(ワーク・ライフ・バランス)とは、「仕事と生活の調和」と訳され、やりがいや充実感を持ちながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても多様な生き方が選択・実現できること

かつては、2つの型のテレワークは別々に検討されるテーマでしたが、3.11震災あたりから考え方が変わってきています。

ある大手通信会社の事例ですが、3.11以前は小規模な WLB 型テレワークを実施しておりセキュリティー観点から社員にパソコンを貸与していました。ところが2011年の震災発生、計画停電や節電に直面したときに、1000 人規模でテレワークを拡大する必要が出てきました。当時は、急激なテレワークの拡大に対応することができず、社員の家庭用パソコンの業務利用を許可する形で急遽対応を行いました。システムはなんとかなったものの、社員同士のコミュニケーションや人事評価など制度面の課題に直面しました。

その後、当時の課題を踏まえてコミュニケーション面の対策や人事制度の改訂を行い、BCP 型・WLB型を兼ねたテレワークに規模を拡大していきました。これまではBCP専用の機材やシステムを保有していましたが、クラウドサービスに刷新し、平時と災害時で同じインフラ、コミュニケーション基盤を活用することで、従業員の生産性向上やコスト削減につながる効果がありました。

現在、新型コロナウイルスの問題に直面し、緊急で在宅ワークなどの対応を迫られている企業も多いことかと思います。緊急時や災害時(BCP型)だけでなく、将来的には平時(WLB型)でも活用することを意識しながら、テレワーク導入の検討を進めていただければ幸いです。

 弊社では企業の在宅ワーク推進を含めDX推進を検討されている企業様のご相談も受け付けております。こちらのフォームよりお問い合わせください。

■(参考)テレワーク推進に関する制度、サービス

中堅企業、中小企業向けではありますが、テレワークシステムやサービス導入時に活用できる補助金、助成金制度がありますのでご紹介します。(申請できる対象企業には条件がありますのでリンク先のサイトでご確認ください。)また、民間企業でもテレワークを導入したい企業向けの無償利用や導入支援プログラムがでてきています。これらの情報もぜひ参考にしてください。

中小機構 生産性革命推進事業に係る補助金・助成金

新型コロナウイルス感染症の影響を受けながらも設備投資や販路開拓、テレワーク推進など生産性向上に取り組む事業者に対して採択審査の加点措置を受けられます。


東京しごと財団 事業継続緊急対策(テレワーク)助成金

こちらは東京都の制度となりますが、新型コロナウイルス感染症等の拡大防止対策として、都内中堅・中小企業に対し、テレワーク導入に必要な機器やソフトウエア等の経費を助成する制度です。


日本テレワーク協会 新型コロナウイルス感染症対策:テレワーク緊急導入支援プログラム

テレワーク向けシステム、サービスを展開する企業でも、今回のコロナウイルス対策としてサービスの無償利用や導入支援といったプログラムが様々でてきています。今注目されているWeb会議サービスのZoomは掲載されていませんが、マイクロソフトのTeamsなどコミュニケーションサービス、Web会議サービスなど多数紹介されていますので参考にしてください。

次回も引き続き先端技術を活用したDX事例の解説を行います。


via 合同会社 BSMi
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