先生は旋回奏法使いのピアニストだった...


クローバークローバークローバー


大学生の頃、副科でピアノの授業があった。


管楽器科の生徒全員に義務付けられており、5〜6人ずつのクラスで1時間だか1時間半だかのレッスン。


グループは学籍番号順に分けられており、必然的に同じ楽器の生徒がかたまる。


音大生のピアノの腕前ってのはピンキリで、弾ける子はピアノ科の生徒に負けじと難しい曲でもガンガン弾くが、弾けないやつはトコトン弾けない。


丁度私のクラスは、クラリネットのいつもつるんでいる連中でかたまっていたが、どいつもこいつも弾けない上に練習してこないというポンコツ集団であった。



「あーた達、まぁた練習して来なかったのぉ?」



授業はいつも、先生の呆れた第一声から始まる。


ロングドレスのようなエレガントなお召し物。優雅に足を組んでピアノ椅子に座り、眉をひそめつつ発せられたその声は、呆れついでに恒例のこのやりとりをおもしろがっている風にも感じられる。


「だって先生、昨日コンサートがあって、この一週間リハーサルだなんだって大変だったんですよ!みんな頑張って吹きました!」

「あ〜らそうなのぉ?何のコンサートだったのよぉ。」


言い訳から始まる先生と私達の応酬。意味をなさない雑談に花を咲かせ、合間にちょこっとピアノ、というクソみたいなレッスン風景。


当時自分がレッスンで何を弾いていたのかさっぱり思い出せない。一回でも真面目に練習して行ったことがあっただろうか(いや、ない)。


そんな中で一つだけ覚えていること。それが必殺!魅惑の?「旋回奏法」である。


レッスンの度に伝授されるこの旋回奏法。ピアノを弾きながら、両肘をくるくると外回しに回転させることで柔らかなフレーズを手に入れられるという。


毎度お手本を見せてくださる先生は、素敵なお召し物の袖をヒラリとさせながら、鳥でも飛んどるんか!というような勢いでぐるんぐるんとエンドレスに両肘を回転させながら弾いていく。



チーン「なんという神業...!」



2年間先生にはお世話になったけれど、一切の練習をしないポンコツ集団クラス、結局この旋回奏法を習得した生徒は一人だけ。


周りの友人に聞いてもこの旋回奏法を知る者はおらず。果たして我らの先生が編み出した奥義であったのか、家元のいる由緒正しい旋回奏法流派が存在するのか、今でも疑問に思っている...。



ごにょごにょといろいろ書いたけれど、先生は卒業後も不真面目だった私達を気にかけてくれる、優しい先生だった。


ある日「もう使わなくなったから!」と授業に持ってきてくださった、大量のオーケストラのスコア(楽譜)。大喜びでドラフト会議し、数冊ずつみんなで分け合ったなぁ。今でも大切に持ってますお願い




こうして子供の頃から十年近くピアノのレッスンに通い、結局一度も真面目にやることなく、大学卒業と同時に終止符の打たれた私のピアノライフ。


一応やっとくか..程度の気持ちでは、何年かかろうが弾けないもんは弾けないらしい。




チーン「好きこそものの上手なれ!」






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