俺は今頃この世界にはいないはずだった。

奇跡は起こるらしい、期間限定だけど・・。


[ジェジュン!待ちやがれ!!]

会ってはいけない人にあったのは、いつものようにカジノで大負けした夜だった。借金がどれぐらいあるのかなんて忘れている、俺的には。けど、あいつは覚えていたらしい。俺の顔を見ると、すごい勢いで追いかけて来た。

[やべっ!]

逃げるのには慣れている、狭い路地を華麗な足さばきで曲がりながら広い道路に出る。もう追いかけて来ないだろうと安心した時、まさかの別のやつが待ち伏せしていた。

[うわっ!]

掴まれた手を振りほどいて道路に飛び出した時、眩しいライトと共にトラックが走って来て、俺の身体2が宙に浮いた・・。


[何で俺が地獄だよ!] 

死神とかいう愛想のないヌナが、俺を引きずるように地獄へと誘う。

[はあ?あんたほど地獄行きが明確な人間はいないでしょ!それとも何?誰かに喜ばれる事をひとつでもした?}

今トラックにふっ飛ばされたばかりで傷ついた俺に、優しさの欠片もない死神。でも、ふと考える。俺は誰かに【ありがとう】と言われた事があったかな?散々やんちゃをしてきて、勝手気ままに生きてきた。家族なんて無縁だ、もうどこにいるかも分からない。人に感謝されるって、どんな事なんだろう?俺には知らないエリアだ。そう思うと一度でいいから言われてみたい。【ジェジュン、ありがとう】の言葉を。


[なあ、もう一度だけチャンスをくれない?]

[はあ?]

[誰かに感謝される行為をする!そしたら地獄じゃなくて、天国へ行かせてくれ]

[それが人に頼む態度?]

人じゃないくせにと思いつつ、慣れない丁寧語を口にしてみる。

[えっと、私にチャンスを下さいませませ]

[失敗したら?]

[大人しく地獄へ行きます]

[それじゃあ意味ないし、地獄行きは決まっているのにチャンスを与えるのよ?失敗したら地獄より苦しい場所へ送らないとね]

じ・地獄より苦しい場所!?それって、どんなとこだよ!?

[わ・わかった!成功したら天国、失敗したらその苦しい所へ行ってやるよ]

[あん?]

死神ヌナは、マジで目つきが悪すぎる。極悪な貸金のヤツラより怖い。

[よ・よろしくお願い申しまする!]


いや、どうすれば感謝されるんだ?そんな生ぬるい世界で生きて来なかった。いつもフラフラしていたし、定着した何かを持っていたわけでもない。【あざっす】って言われた事はあるけど、きっとそれとは違う気がする。

【永遠に時間があると思わないで。期限を決めるわ、そうね33日にしましょう】

何で、そんな半端なんだよ。

【何となく好きな数字なのよね。その間に達成できなければ、34日目に奈落の底に落ちると思って]

チッ!あの死神ヌナの顔を思い出すとイラつく。そもそも、何で俺がこの若さで地獄へ行かなくちゃいけない?天国に行くなら納得出来る、こんな世界で生きているのに意味はないからな。どうせ行くなら天国でしょ、やっぱり。


すぐに【ありがとう】って、言ってくれそうな人を探そう。俺の住んでいた街にはいなさそうだ。それに突然俺が現れたら大騒ぎになる。俺はもうあっちの世界に行ったと思われているし。


[う〜ん]

こうしてみると色々な人がいる。穏やかな顔の人もいれば、怖い表情の人も。今まで人の事を気にする事はなかったから、何だか新鮮な驚きがある。


[募金をお願いしま〜す、ありがとうございます!]

遠くで聞こえる【ありがとう】に反応する。何だ、めっちゃ簡単じゃん!募金すればいいんだろう?ポケットに入っていた小銭を握りしめ、募金箱を持つ学生の前に立つ。思い切り大きな声で言ってくれ、死神ヌナに聞こえるように。

[じゃあ、入れるからね?いい?]

ちゃんと【ありがとう】を言うように確認してから小銭を落とす。

[ありがとうございます!]

やったあ〜1日目にしてミッションクリアだ!!どうだ死神ヌナ、俺はやったぜ!!


[なあ、お前バカなのか?]

へっ?背中から聞こえる声に驚いて振り向く。

[あれは挨拶だ、お前バカなの?]

ジャージ姿に〈春の助け合い月間〉なんて書かれたタスキを掛けた男。爽やかな風貌とは違って言葉が悪い。まるで、あの死神ヌナのように。

[バカバカ言うなよ!てか、お前こそ誰だよ!?]

ジャージ男がニヤッと笑う。

[残り時間、32日と15時間・・達成出来るかな]

えっ?

[さあみんな、そろそろ学校に戻るぞ〜!皆さんにお礼を言って出発だ]

[はあ〜い、ありがとうございました!]


ポカンと立ち尽くす俺の前を、ジャージ男と学生達が通り過ぎる。先生?いや、死神ヌナの友達か!?いやいや、あいつ人間だし!


[な・何なんだあ〜!!]


大都会の真ん中で叫ぶ俺を、道行く人は誰も気にすることはない。


約束の日まで残り32日と数時間、時計の針は確実に時を刻んでいた・・。





こんばんは〜\(^o^)/


不思議な連載をまた急に書き始めるという(^o^;)

どちらも頑張ります!


今日もお疲れ様でした(=^・^=)*⁠/⁠*☆✨♥