皆さん、こんにちは。平柳です。

管理業務主任者試験も終わり、結果はともかく、受験生の皆さんもホッと一息ついているところだと思います。

やはり「本試験が控えている」という状態は、有形無形のプレッシャーを与えますからね。

それにしても、想定されていたとはいえ、今年も個数問題がとても多くて、きっと受験生の皆さんは気の休まる暇がなかったのではないかと思います。直前記事が少しでもお役にたてているとよいのですが…。

とはいえ、受験生としてやれることは全て終わりました。

ひとまずはゆっくりと心身を休めて、英気を養って頂きたいと思います。

さて、マンション管理士本試験における問題検証の第2回目は、問29についてです。本当は問33もまとめて…と思ったのですが、日々合間の時間を縫って少しずつ記事を書いていたら、問29が長くなってしまいましたので、1問ずつに分けることにしました。

この問題についても、受験生の皆さんから様々なご意見等を頂きましたが、今回記事にしたのは平柳の現時点での「個人的な」検討結果です。いつも通り、LEC公式見解等と異なる場合がありますが、その点は「皆さんと平柳の勉強のため」という趣旨でご容赦ください。

それではいきましょう。

〔問 29〕理事会の決議を経て通常総会に提出された議案について、理事長と監事が反対している場合において、理事長には受任者を理事長とした委任状が、 監事には受任者を監事とした委任状が提出されているときの取扱いに関する次の記述のうち標準管理規約及び民法の規定によれば、適切でないものはどれか。

これは本当に悩ましい問題です。問題文柱書きの条件に色々な要素が入っており、ある意味この分析ができれば正解が見えてくるといってもよいと思いますので、まずはその分析からしてみます。

<問題文柱書きの分析>

まず、問題文は「『理事会の決議を経て』通常総会に提出された議案について」と、提出された議案を「限定」しています。

提出先が通常総会か臨時総会かは本問では意味を持ちません。問題はなぜわざわざ「理事会の決議を経て」という枕詞がついているかです。

理事会の決議を経ているということは、理事会という会議体において決議された内容に「『理事会の構成員が』拘束される」ということを意味します。これは会議体においての定理であり、本問において非常に重要な意味を持つ内容です。

次に、「理事長と監事が反対」しているとあります。なぜ「理事長Aと理事Bが反対」などとせず、「理事長と『監事』が反対」としたのか、という辺りに出題者の視点が見え隠れします。つまり、理事長と監事の標準管理規約上の立場の違いを理解できているか?ということを問うているわけです。

この点は標準管理規約における基本知識であり、講義でもいつも強調していたとおり、「監事は理事会の構成員ではありません」。この点は、形式的には「理事会は、理事をもって構成する。」(標準管理規約51条1項)とされていることから、また、実質的には監事が外部的立場から理事会を監査する役割を担う役員であることからも明らかです。

とすると、理事会という会議体の決議は「『構成員を』拘束」するものに過ぎませんから、「理事長」は「理事会の構成員」であるために理事会決議に「拘束」されますが、「監事」は『理事会の構成員ではない』ために理事会決議に「拘束されない」という違いが見えてきます。

この視点は問題を解く際に必ず必要になるだろうということが柱書きを読んだ段階で意識されなければなりません。

その意味で、どちらを受任者にして委任状を提出したかによって、委任状の取扱いに違いが生ずるということが当然念頭に置かれている出題だということになるわけです。

つまり本問は、「受任者を理事長とした委任状」と「受任者を監事とした委任状」とでは解答上意味が異なるということを前提に解くべき問題だといえるということです(もし「意味が同じ」なのであれば、全く無駄なフェイントをかけたセンスの悪い問題だということになってしまいますから)。

そうだとすると、「受任者を理事長とした委任状」は、「理事長の賛否と同一内容」と扱われ、他方、「受任者を監事とした委任状」は、「監事の賛否と同一内容」と扱われることになるわけです。

この点については、1つのハードルが問題となります。それは、「議決権の不統一行使」です。いわゆる「1人が複数の議決権を持っている場合、賛否を分けたりして行使できるか?」ということですね。ここは本問で各肢の正誤を判断するために非常に重要なところなので、詳論します。

この「議決権の不統一行使」については、その区分所有者が「いかなる理由で複数の議決権を行使するのか」によっていくつかの場合に分けられます。

①1人で複数の専有部分を持っていることで、複数の議決権を行使する場合

この場合は、不統一行使は「できない」とされます。ある議案について、一人の区分所有者の意思を賛成・反対に「分断」することに合理性がない上に、分断を認めれば全体としての議決手続きを複雑・煩雑にするだけだからです。

②他の区分所有者から委任された結果、複数の議決権を行使する場合

この場合は、委任者が自己の賛否を明らかにして委任したか否かによりさらに2つの場合に分かれます。

②-a)委任者が自己の賛否を明らかにして委任した場合
 
この場合、議決権の不統一行使は「できる」と考えられます。委任者が賛否を明らかにしている以上、受任者はその委任の趣旨に従って、「賛成」として委任した人の分は「賛成」に、「反対」として委任した人の分は「反対」に行使すべきだからです。

なお、本問では委任者が自己の賛否を明らかにはしていないので直接問題にはなりませんが、この場合、仮に受任者が委任者の明示した賛否と異なる賛否で議決権を投じても、それ自体は有効と扱われ、後は委任者と受任者との義務違反が問題となるだけだと解されています。

また、賛否を明らかにしての委任であっても、立派な「委任」であり、「書面による議決権行使」とは異なります。なぜなら、委任状による方法というのは、代理人による議決権の行使であり、委任状によって組合員本人から授権を受けた代理人が「総会に出席して」議決権行使をする方法であるのに対して、書面による議決権行使というのは「区分所有者(受任者も含め)が総会には出席しないで」総会の開催前に各議案ごとの賛否を記載した書面(議決権行使書)を総会の招集者に提出する方法だからです。
 
②-b)委任者が自己の賛否を明らかにせずに委任した場合
 
この場合、委任者自身が「自らの」賛否を明らかにしているわけではありません。ですから、委任の趣旨は「受任者の賛否と同じ判断に委ねる」という趣旨になります。

ここで注意して頂きたいのは、「この場合の受任者は、議決権の不統一行使をすることはできない」ということです。これは、「委任者自らの賛否を明らかにした委任」と異なり、「受任者の意思と同じ判断に委ねる」という趣旨である以上、①と同様、受任者たる議決権行使者の意思を「分断」することは合理性がない上に、議決手続きを複雑・煩雑にするだけだからです。

以上、長くなりましたが、問題文柱書きの分析でした。それではこれを前提に、各肢の検討に移ります。

<各肢の検討>

1 理事長は、役員を辞任すれば、自分の1票を反対票として使うことができる。

「役員を辞任すれば」という言葉に出題者の意図が見てとれます。模擬試験などで問題を作るときもそうですが、「条件設定」をする場合は、必ずその条件に意味があります。

この肢で「役員を辞任する」ということは何を意味するのか?ですが、役員を辞任すれば、当然理事会の構成員ではなくなります。つまり、「理事会決議の理事(長)への拘束力」から「解放」されることを意味するわけです。

本問は「理事会決議を経て提出された議案」である以上、「理事会の構成員」に対しては「決議内容への拘束力」つまり、「総会決議では賛成票を投じなければならないという拘束力」が発生するわけです。先ほども書きましたが、これは多数決原理における当然の帰結であり、会議体の定理でもあります。

この点に疑問を持つ方は、管理組合の総会のことを考えてみて下さい。管理組合の総会においても、多数決での決議(普通決議や特別決議)が成立した場合には、原則として個別の区分所有者の賛否に関わらず、区分所有者全員が決議内容に拘束されますよね。会議体の定理としては共通の原理です。

もし、そうした拘束力が自らに及ぶのを避けたいということであれば、「会議体からの離脱」をするしかありません。それはつまり、区分所有者が総会決議の拘束から逃れたいのであれば、専有部分を売却するなどして区分所有者ではなくなるしか道はないことを意味し、本肢についてであれば「役員を辞任して理事会の構成員ではなくなる」しか道はないことを意味するというわけです。
 
とすると、理事会という会議体の意思として議案を提出する(理事会としては議案に「賛成」という結論(決議)に至ったからこそ提出するわけです)以上、「理事長」としての地位に留まる限りは「賛成票」を投じなければなりませんが、「役員を辞任」すれば、その拘束力から解放されますので、自分の1票を反対票として使うことができます。したがって、肢1は○です。


2 監事は、自分の1票と委任状を反対票として使うことができる。

前述の通り、監事は「理事会の構成員ではありません」。とすると、理事会決議がなされた議案についても、監事には拘束力は及びません。
 
そのため、自分の1票と委任状を反対票として使うことができます。したがって、肢2は○です。


3 理事長は、自分の1票と委任状を賛成票として使わなければならない。

ここは肢1との比較でいうと、「役員を辞任」という条件がありません。すなわち、理事長が「理事長の地位のままで」という前提のもとに、本肢の正誤を判断する必要があります。

とすると、理事長の地位のままである以上、理事会決議には拘束されますので、理事長は自己の1票を賛成票として使う必要があります。

では、委任状はどう扱うのか?ですが、本問では委任者「自身の」賛否が明らかにされていない以上、委任の趣旨は前述した②-b)と同じ、つまり、「受任者の賛否と同じ判断に委ねる」という趣旨になります。

したがって、「議決権の不統一行使」は許されず、委任状についても賛成票として扱わなければならないということになるわけです。

ここは誤解している方が多いところだと思いますが、「事実上」理事長が自分の1票を反対票にいれられるかとか、「事実上」委任状を反対票に入れられるかとかいうように、「事実上」そのような行動を取れるかという意味であれば、「とにもかくにも反対票を投じてしまえばいいじゃない」ということであって、できるに決まっています。

ですが、本問ではそれが問題なのではありません。本問で問われているのは「適否」であって、「法的に」どのような評価を受けるかということが問題なわけです。

ですから、仮に、理事長が自己の1票あるいは委任状を「事実上」反対票として投じたとしても、それは「法的には」否定され、賛成票として扱われなければならない、ということになるわけです。

したがって、肢3は○である可能性が高いといえます。


4 監事は、委任状を総会出席者の賛否の比率に応じて分けて使うことができる。

最後に肢4ですが、肢3同様、委任者「自身の」賛否は明らかにされていませんから、委任者の委任の趣旨は、前述した②-b)と同じ、つまり、「受任者の賛否と同じ判断に委ねる」という趣旨になります。

そして、やはりここで注意して頂きたいのは、「この場合の受任者は、議決権の不統一行使をすることはできない」ということです。理由も前述の通り、「委任者自らの賛否を明らかにした委任」と異なり、「受任者の意思と同じ判断に委ねる」という趣旨である以上、委任された受任者の意思を「分断」することに合理性はない上に、分断すると議決手続きを複雑・煩雑にするだけだからです。

したがって、委任状を総会出席者の賛否の比率に応じて分けて使うことはできません。
 
この点も、「事実上」監事が賛否の比率に分けて使えるかといえば、「とにもかくにも分けてしまえばいい」となるわけですが、肢3同様、本問で聞かれているのは「適否」であって、「法的に」どのような評価を受けるかということが問題ですから、仮に、監事が賛否の比率に応じて分けて使ったとしても、それは「法的には」否定され、監事の議決権行使と同様「反対票」として扱われなければならない、ということになるわけです。

以上から考えると、出題者としては、肢4を×として本問の正解と想定している可能性が高いのではないかと思います。

ふー、ようやく終わりです。何日もかけて少しずつ書き足し、推敲を重ねながらでしたが、やっぱりつっこんで分析しようとすると頭を使いますね(笑)。

問33はまた週の後半くらいに検証結果を書いてみようと思いますので、お待ちください。

それでは!

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