メリークリスマス!
お話の設定上、時間が先月に巻き戻ってます。とほほ。
日付が近い分、違和感ありまくりかとは思いますが、ご容赦ください。
(他のは秋になったり色々あるので今更、といえばそうなのですが)
椿君に、あの単語を使わせたいがためだけ、のお話です。
多分に、ああこれか(あきれ顔)…と分かっていただけるのでは。
もしお気に召しましたら、サイドの拍手ボタンをぽちりと頂けますと喜びます。
…………
ケーキ屋の前のすごい人混みとクリスマスソングに、今日はクリスマスだったことを思い出した。
俺が抱えているのはケーキの代わりに肉まんだけど。
「ケーキは買わないんスか」
「肉まんが喰いたい人間は、ケーキは買わないだろ」
「クリスマスなのに」
「じゃあお前、買う?」
椿は少し考えて、買わないっすと答えた。
寮に帰れば晩飯が待っているヤツに、ケーキはいらないよな。
しかも売ってるのホールだし。
俺たちは、ひときわ賑やかなそこを通り過ぎ、ぶらりと通りを歩いた。
俺と椿はクリスマスに二人で過ごすことにした。
とかいう訳じゃない。
さっき言ったように、俺はさっきまで今日が何の日かも忘れていた。
偶然だ、偶然。
ああ、まあ全部が偶然でもないかな。
今日がクリスマスだったってことは偶然だけど。
自主練にきていた椿が寮へ帰る時に、一緒に駅方面へ連れ立った。
腹減ってたんだよね、
ちょうどいいから昼飯でも食うかってやってきたんだから。
「俺、ちょっと心配になったッス」
「なにが」
「監督って、いっつもラーメンとかばっか食べてるから。もしかして、他の時も同じもの食べてたりしませんか」
「ラーメン旨いじゃん」
確かに、栄養とかいう面での拘りはあまりないけどね。
オフに入ってから割と一緒に食う機会が増えたんだけど、そういうことを気にしてたのか。
そんな俺に椿は苦笑いして、今度寮にご飯を食べにくると良いですよ、と言った。
そして、はだかんぼの手にはあと息を吹きかけた。
今日は冷えるよな、と思って眺めていると、それに気付いた椿はニコニコと笑った。
懐いたなあ、と思う。
就任当時の椿は、見ていて面白い位に緊張していた。
一応味方ですけど、ってからかいたくなる位、俺が近づくと身構えて、体を硬くしていた。
それがゆっくりとゆっくりと柔らかくなって、今は俺の姿を見ると駆けてくる。
犬がしっぽを振るように分かりやすく好意を示す姿を見るのは、正直嬉しい。
だから飯なんて一緒に食いに行ったりしてるんだけどさ。
-それに、こいつは意外と面白いヤツなんだ。
「クリスマス一色だな」
街は赤と緑とキラキラでデコレーションされていた。
ツリーやリースそしてモール。
夜になれば電飾が光るだろうし、いつもと違うディスプレーに気分が盛り上がるのもわかるな。
「そっスね。監督はどんなプレゼントが欲しいですか」
「プレゼントねえ。…ナイター照明とか、ヴィクトリーが持ってるような高級ベンチとかいいよなあ。サンタが持ってこねえかなあ」
「監督、スケールが大きいですね」
そういって笑いながら、誰かから貰うなら何がいいかと聞き返した。
現実的な範囲で貰いたいもの、ってことかな。
俺は、ふむ、と考えた。
「思いつかねえなあ。せいぜいドクペとかさ。椿だったら何をくれる?」
「へ。俺が監督にスか?」
「そだな。品物とかは無粋だから、それ以外ね」
俺の急な質問に、椿は足を止め、腕を組んで考え込んだ。
さみぃよ、という俺の言葉は聞いていたようで、やっと歩き始める。
たっぷり考え込んでいる間、俺は椿が何を言い出すのかワクワクした気分で待っていた。
品物以外、つまり自分で出来ることってことだ。
得点とかアシストとか言い出すだろうか。
チキンだから、そういう宣言みたいなのは無いかな。
もしかして、昔懐かしい「肩たたき券」とか言い出すんじゃなかろうな。
「俺が持っているもので、監督に上げられるもの…」
うーん、という唸りを何度も繰り返す。
眉をしかめて始めて5分は経った。
気まじめなか、本当に考えつかないのか。
理由はさておき、こんな問題に、これだけの時間をかけてるってこと自体に、俺は一種感心した。
ちなみに褒めてる訳じゃないからな。バカにしている訳でもないけど。
予想を裏切らない反応に、これぞ椿だよなあって、感心したのだ。
そろそろタイムアップだぜ、と声をかけると椿はまだ迷いながら声にした。
「………童貞とか……?」
ぶはっ。
斜め上を行く椿の発言に、俺はゲラゲラと大笑いした。
確かに『捧げる』とかいう使い方をすることはあったな。
ここでそう来るか!
俺の爆笑に、椿はかあっと顔を赤くした。
「か、監督が物以外でとか言い出すから…」
「んで、あげられるのがそれかよ!出来ることとかあんだろ。点を取って上げますとかさ」
「あ、そっか。出来ることでもいいのか…えとでも…点なら俺も欲しいッス」
その台詞にまた俺は笑った。
確かにゴールなら、自分こそ欲しいよな。
笑い続ける俺に、椿は拗ねたような表情を浮かべて、明後日を向いた。
「監督へのプレゼント、童貞に決まりッス。決まったッス」
いらねー、と息も絶え絶えに断った。
椿は返品不可とか言ってるけど。
フットボールやってる時の椿は見てて面白いけど、日常の椿も時々、別の意味でかっとんでて面白い。
俺はとあることに気が付いて、付け足した。
「30過ぎても俺が受け取り拒否したら、お前、魔法使いになれちゃうしな。いんじゃない」
「魔法使い、ってなんですか」
どうやら椿は伝説を知らないらしい。
俺はちょっと得意になって説明してやった。
「30過ぎても清らかな男子は、魔法使いになれるらしいぞ。そんで、魔法を手に入れたらナイターとか作ってくれればいいから」
そんな魔法いらないッス…。
苦虫を潰したような顔をして、椿は溜め息をついた。