サクタツです。
堺×達海じゃありません。
佐倉×達海。略してサクタツ!

お約束も3回目です。
この解説いつまですればいいんだろう、と本気で悩みます。

今日はサクタツなんです。
理由は今週のモニを見てください。
ちなみにサッカー選手から監督になっても、試験はあるようですよ。

来週これを覆す現実をツジトモ先生が発表したら、ささっと下げます…。
そして、次はやっぱり気楽なのを書こう…シリアスが続くとモゾモゾしちゃう私です。

もしお気に召しましたら、サイドの拍手ボタンをぽちりいただけると喜びます。

……
「明日?行かないよ」

明日開催されるのは就職説明会だ。
有名な企業が主催する大規模なそれは、俺達大学三年生が卒業後への足掛かりにする第一歩目とも言
えた。
スーツはどうする、髪型はどうだ。そんな会話が飛び交っている。
就活マニュアル片手にどこか浮足立つ雰囲気の中、俺はそれに飲まれないように、言った。
これは誓いだ。

「プロサッカーの監督になるんだ。だから行かない」
「はあ?!」

目を丸くする友人の気持ちは理解できる。
サッカー部に所属すらしていない、単なるサッカーファンが何を言い出すのか。
単なるサッカーファンと片付けられるのは遺憾だが、今の俺の現状は「ファン」だ。
そうとしか言いようが無い。

「マジか」
「うん」
「…監督って求人説明会とかあんの?」

プロリーグの監督になるには道は二つ。
ひとつはプロ選手になった後、監督になること。
あとひとつは協会の資格試験を受けること。
当然だが圧倒的に多いのは前者だ。

協会の資格試験は5段階に分かれている。
俺が目指す場所に必要なのはその最高峰のS級だ。
理論上一番下の級から取得していけばいい。
だけど、字面ほど簡単なものじゃなかい。
まず必要なのはサッカーチームの指導に関わっていなければならないってこと。
そしてB級以上の受験には、推薦が必要だ。
知識だけじゃ、好きっていう気持ちだけじゃどうにもならない。必要なのは実績だった。
そこへ、何ももたない自分が挑戦するという。

「監督を目指すのも良いけど、とりあえず食ってなんぼだろ。とりあえずどっか内定は取っておこうぜ」

友人の言い分は尤もだ。
そんなことは百も承知だったし、足がすくみそうになっている自分自身にも気づいていた。

「今日明日のことじゃないんだろ。とにかく明日迎えに行くからな!」
「え?!」

強引な友人の誘いと弱気に、俺はリクルート会場に足を運ぶことになった。
さっきの誓いはどうしたんだよ。


カタンカタン・・・。
緩やかに揺れる電車に乗っていると、疲れがどっと出てくるのが分かる。
さっきまでの風景を思い出せば、一層だ。

サッカーができそうな位広い会場は、真っ黒なスーツとピカピカの靴を身に纏った学生で埋め尽くされていた。
企業がパネルで自身の陣地をアピールし、そこにはそれぞれ長蛇の列ができている。
友人並んだ企業では、今年入社したばかりだという「先輩社員」がにこやかに学生の質問に答えていた。
俺は前に並んだ見知らぬ学生のまねをして、いくつかの質問をし、早々に切り上げた。これは、キツい。

「疲れた…」

だけど、と自室の床に転がって天井を見ながら思う。
今日訪れた場所には道と手順が用意されている。
一つ一つをそれなりにこなせば、卒業後の進路は約束されたも同様だ。
失敗しても、チャレンジする機会は短期間にまたやってくる。

俺はこれから指導に携わらせてくれるチームを探さなければならない。
そしていつともしれない期間、指導に携わる。
試験を受けて、信頼を集めて地域の推薦を得て更に試験を受け・・・そうして合格してもプロ監督になれる保証なんてどこにもない。
事実、日本のプロリーグ監督で、プロサッカー選手じゃなかったという人物は皆無だ。

テレビは不況と就職難を叫ぶけれど、大卒の就職率が7割というなら、10人いれば7人は道が開ける計算だ。
でも、サッカーの監督になれる確率はどれくらいなんだ。
ジャパンリーグの1部2部、JFL。
チームはたった数十。監督はその数しか必要ない。
閉じられた小さな世界に、世の大多数の人間はその中に入る気持ちも起こさないのが現実だ。
道は遠く果てしない。
不安が胸を塗りつぶしていく音が、否応なしに聞こえてくる。

「でも、諦めるのは、イヤなんだ」

一言ずつ、区切って声にする。
そうだ、俺は諦める気になんてなれない。
俺の気持ちに変わりはない。
だけど少しだけ、後押しが欲しかった。

達海猛。
靄がかかっていた自分の目の前に、光を照らしてくれた彼に会いにこう。

そう思った次の日、いつもは乗らない電車に乗った。
ETUの練習場へ向かうために降りた駅には、外国人と日本人観光客で溢れ返っている。
その迫力に圧倒されながら、構内の案内を頼りに地上にでる階段を上がった。
川沿いに歩けば遠くにスタジアムが見える。練習場はその隣に有る筈だ。

練習開始にはまだ早い。
どこかでコーヒーでも飲むか、それともスタジアムを眺めておくか、思案しながら歩いた。
川は太陽を反射してキラキラと輝いている。
気持ちいい風が吹く天気のいい平日は、散歩にもってこいだ。
いつの間にか、沢山いた筈の観光客や人力車もどこかへ消えた。
ここを歩いているのは、この近所の人たちなんだろう。

平日の静けさの中を泳いでいると、ボールを蹴る音がした。これはリフティングの音だ。
サッカーとみれば自然と目を向けてしまう習性に従い、俺は音の発信源を無意識に探した。
そして、目を見開いた。

「たつみたけし!!」
「あー?」

小さな公園の中でリフティングをする人物、それは紛れもなくETUの達海猛だった。
達海は顔を一瞬こちらに向けたものの、すぐにボールに集中を戻してリフティングを続けた。
普通、大の大人が公園で遊ぶ姿は目立つ。
だけど達海の周りには子供たちが嬉しそうに集まっていたからか、不思議と風景に溶け込んでいる気がした。
俺もその一人になって、夢中で彼を見た。

子供たちの掛け声によれば、もうリフティングは290を超えていた。
達海は歩くような柔らかさで、ボールを操っている。
表情は子供みたいに、楽しさで溢れていた。
俺は不意に気付いた。
そうか、この風景に溶け込んでいるのは周囲の子供達のせいじゃない。彼もまた子供だからだ。
子供みたいにサッカーを楽しめる人間だからなんだ。

「298、299、-300!」

300でポーンと高くボールをキックして、頭上でキャッチする。
彼はキーパーの才能もあるんだろうか、なんて馬鹿を考えた。
そして思わず拍手をしていた。

「すごい、すごい!!」

子供たちよりも大きな拍手と歓声に、子供も達海もドン引きだ。
俺はハッとして手を止め、頭を掻いた。

「す、スミマセン…」
「サッカー好きなの」
「はっ、はい。なんで分かるんですか」
「俺みたいな新人の名前、世間で知ってるヤツのが少ねえと思うけど。あ、もしかしてうちのチームのファンとか」
「ち、違います」

達海はゲラゲラ大笑いした。
正直なヤツーと、腹を抱えている。
俺はその時、夢の中にいたんだと思う。だってあんなに現実味のないことなんて滅多にない。
だから思い切って、普段なら口にできないようなことを口にした。

「でもあなたのファンなんです」
「へえ?やるじゃん俺」
「それで…この間試合を見て、考えてそれで-俺、プロサッカーの監督になろうと思ったんです」
「見かけない顔だけど、どっかの選手だっけ」
「サッカー部には所属してません」

達海は目を丸く見開いた。
当然だ。サッカー選手としての実績もまるで無い人間の言うセリフじゃない。
だけど止まらなかった。

「だけど、俺、絶対なりたいんです。いや、-なるんです」

最後は殆ど叫びみたいになって、涙まで溢れた。
なにやってんだ、俺とは思った。今でも思う。
達海は茫然としたように俺の方を見ていた。
こんな短時間に二度もドン引きさせるなんて、俺も相当な人間だ。
高揚感が急速に後悔に変わり始めた瞬間、状況は一変した。

「じゃあ、ライバルじゃん」

達海は挑戦的に笑った。
馬鹿にした様子は無い。
後悔で暗くなった視界は、あっという間に晴れて行った。

「あんたが率いるチームとうちが対決するってことだろ」
「そ…そう、です」
「上等-」

達海は左手を、差し出した。

「絶対負けねえかんな」

左手の拍手は、侮辱というより挑戦って意味だろう。
全然根拠は無いけれど、俺は達海の表情に確信した。

「俺も、負けません」

力を込めて、左手で握り返した。
達海の指は意外と細く、だけど温かくて安心できた。

「-あっ!」
「え?」
「でもあんたが俺の監督になることもあるってことだよな。ヤベぇ」

達海は慌てたように右手も差し出した。
俺は大笑いして、断った。
左手で十分だった。
右手で握手するのは、俺が監督になって達海が対戦相手になった時だ。

結局その日、ETUの練習には行かなかった。
夢を現実にすべく、すぐにコーチを募集している地域のチームをしらみつぶしに探し始めたのだ。小学校から社会人チームまで幅広く。そして勿論、協会の資格を受験すべく講習を申し込まなければいけない。
やりたい事は沢山あった。

しばらくの間に、達海はドンドンとすごい選手になっていった。
その躍進と自分を比べて焦りも感じたが、そんなすごい選手になった達海と戦う姿を想像すると胸が躍った。
なにより達海んプレイは見ている観客をワクワクさせた。
一見不真面目。
だけど、サッカーに対する姿勢は、最初に見たままにまっすぐなままだ。

達海の引退には複雑な感情があったが、どこかで信じていた。
あんなにサッカーを楽しんで愛する彼が、サッカーから離れるわけがない。
監督になってスタジアムに戻ってきた彼を見た時は、こっそりと涙した。
対戦相手になった時、彼はすっかり俺の事を忘れていたけれど、残念には思わなかった。

「そういやさ、サックラーって選手経験無いんだって?」
「ありますよ。ただ、すごく下手くそだったんです」
「ああ…」

素直に納得されるのも、複雑な心境だった。
タッツミーこと達海猛は、縁があって今一緒に暮らしている。
一人称が俺から私に変わる位の年月が過ぎると、不思議なことが起こるものだなと我ながら感心する。
ソファでゴロゴロしている達海を横目に、私は梨を切っていた。
食後のデザートだ。

「タッツミーは、どうして監督になろうと思ったんです」
「んー?そりゃ俺フットボール以外に出来ることがなさそうっていうか…」
「ああ…」

納得する私に、達海は眉をひそめてブーブー言い始めた。
そこで納得するなよなあ、とさも私の納得が心外だと言っている。

「んでさ、どうしようかなって考えた時に、ちょっと思い出したんだよね」
「何をです」
「昔、選手でもないヤツが俺は監督になるって宣言してさ…そう言うのも有りかなって…サックラー?」
「なっ、なんでもありません!!」

危うくナイフで指を切ろうとする危機を避け、深呼吸をひとつする。
あのエピソードを覚えているなんて、予想外だ。

「そ、その人どんな人だったんですか」
「や、全然覚えてない。そういう事を言ってたなってことしか。しっかし、何の時だったんかなー…」
「梨が切れましたよ。食べますか」
「食べるよ、サンキュー」

目の前にフルーツを盛ったガラス皿を差し出して、さりげなく話題を変える。
達海が覚えていないということに、密かに安堵した。

だってあの時、達海と公園で出会った時、私は夢を見たと思ったんだから。
そこに居た達海が、そして他のだれもが現実だと思わないのなら、それはやっぱり夢なのだ。それでいい。
だって私は夢を見たい訳じゃない。現実にしたいんだ。これまでも、これからも。

目の前のタッツミーという現実は、梨の甘みが少ないと文句を言った。
そういうこともあります、と笑える現実を、私は心から愛しいと思っている。