「高橋さん、わかりました。みどりは、
華江おばさんの言葉に傷ついていたんですね。
それなのに、僕は、華江おばさんの言葉を
否定もせずに、へらへらと笑ってごまかして
いたんです」
健太は、涙声になりながら話す。
「健太さん、華江おばさんも悪気があって
言ったわけじゃない。
みどりさんの事を、僕の妻ですとか、
フィアンセですと紹介していれば、華江
おばさんもそんな話はしなかったでしょう。
家族葬なのに、身内でもない人間が一人
混じっている。
ご高齢の方から見れば、それだけでも
違和感があるんですよ。
恐らく、みどりさんは華江おばさんのそんな
視線に、じっと耐えていたんだと思いますよ」
高橋さんの言葉に、健太は葬儀の後から今日
までの日々のみどりの言動を思い返していた。
「そうだ、そうに違いない。
昨日も、カフェでおばさんは、身内でもない
人間と言っていた」
通夜式から初七日の精進落としが終わるまで、
みどりはずっと肩身の狭い思いをし続けてた。
それもこれも、自分が華江おばさんに、
きちんとみどりの事を紹介しなかったからだ。
「健太さん。これから、みどりさんの事を
どうしようと思っていたのですか」
高橋さんが鋭く切り込む。
「もちろん、ずっと一緒に暮らしたいと
思っています」
「今の立場のままで?どうして、一歩踏み
出さないんですか?
何も障害は無いじゃないですか」
高橋さんの言葉に、健太は返答できない。
「おそらくみどりさんは、今度華江おばさん
が来る時までに、健太さんが行動に出て
くれると期待して、ずっと待っていた。
でも、結局何も進展は無かった。
もうこれ以上、待っていても仕方ないのだと、
みどりさんは自分で決意を固めたのですよ」
健太は、どうして昨日急にみどりが言いだし
たのか、その理由がやっと理解できた。
自分がずっと、結論を先送りにしていた間中、
みどりはずっと悩んで苦しんでいたのだ。
「俺は、なんて馬鹿な人間だったんだ!」
健太は頭を抱え込んで、拳でテーブルを叩く。
「健太さん、もし今日が最後の日だったら、
何をしますか。人生を後悔しないために、
何をしますか。
私たちの年代はね。戦争をくぐり抜けてきた
親たちからいつも言われていたんですよ。
明日が来るって保証はどこにもないぞ。
今日が最後の日かもしれない。そう思って
毎日、後悔が無いように生きろって」
健太は目を閉じた。そして、両手を胸に
当てて、じっと考える。
「今日が最後の日だったら、俺はみどりの
為に何をしてあげられるのか」
しばらくして、健太はすっと立ち上がった。
「高橋さん、ありがとうございました。
僕、今から指輪を買いに行ってきます」
健太! がんばれ!
TO BE CONTINUED・・