353 みどりの悲しみ | プレ介護アドバイザーはまじゅんのおしゃべりサロン

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健太の思いつめた様子に、高橋さんは自宅で

話を聞くほうが良いと判断した。

 

家に着くと、高橋さんはノンアルコールの

ビールを出して、昨日買っておいた唐揚げや

コロッケなどを温めてテーブルに並べた。

 

二人のグラスにビールを注ぐと、高橋さんは

一気に飲み干した。

 

「仕事の後の一杯が美味しんですよ。

健太さんもどうですか」

 

健太も一気に飲み干した。

 

「一体、何があったんですか」

 

高橋さんの問いに、健太は昨夜からのみどり

とのやり取りを話す。高橋さんはじっと

聞いていたが、健太が話し終わると言った。

 

「私には、原因はもっと前からあるように

思えます。最近、みどりさんの様子に何か、

変わったことは無かったですか」

 

健太は、抗がん剤治療が始まった事や、

みどりが急に納骨に行かないと言った事を

話す。

 

「健太さん、その華江おばさんとの間に、

何かありませんでしたか」

 

高橋さんは、君江の事をとても大切に思って

いるみどりが、納骨に行かない理由は、

華江にあるのではないかと感づいていた。

 

「みどりと華江おばさんは、そんなに直接

話していることはないと思います」

 

健太の言葉に、高橋さんは違う角度で

質問する。

 

「健太さん、家族葬でしたよね。

他に誰が参列されたんですか」

 

健太は、浩介夫婦に颯介がフィアンセを

連れてきたことを話す。

 

「それで、健太さんは、みどりさんの事を、

おばさんに何と言って紹介したんですか」

 

「母親が世話になったケアマネジャーの

田中みどりさんと言いました」

 

高橋さんは、そこで大きくうなずいたが、

健太はまだ、気が付いていない。

 

「華江おばさんは、健太さんに何か

これからの事を話しませんでしたか」

 

健太はしばらく考えてから言った。

 

「20歳ぐらい若い嫁をもらって、たくさん

子供を作って、佐藤家を繫栄させるように

って言ってました。

 

最初は冗談だと思っていたら、帰り際にも、

もう一度言ってました」

 

高橋さんは、うんうんとうなずきながら

聞いている。ところが肝心の健太には、

まったく話が見えていない様子だった。

 

それで、高橋さんは、自分たち夫婦の話を

切り出した。

 

「健太さん、前にお話ししましたよね。

うちの俊子も50代の時に乳がんになったと。

その時に、俊子が急に、離婚して欲しいと

言い出したんです」

 

健太は、びっくりして目を見開いた。

 

「どうして俊子さんが離婚なんて、

言い出したんですか」

 

「私もあまりに急なことで、驚きましてね。

理由を聞いても話さない。

ただ、離婚して欲しいの一点張りだった。

 

そこでね、注意深く俊子の周りを観察した

んです。そうしたら、新聞の人生相談の欄の

切り抜きを見つけたんです」

 

「人生相談ですか?」

 

健太は、全く話の展開が分からない。

 

「そこにね、旦那さんに浮気された50歳の

女の人の相談が載っていたんです。

 

子供のいないご夫婦でね。旦那さんの浮気

相手は30代の前半で、20歳も年が違う。

しかも、その相手が妊娠して子供が出来た

ので、離婚して欲しいとご主人に言われて、

悩んでいるという相談でした。

 

それを見て、ハッと気が付きました。

俊子は子供がいないことで親戚中から

ずっと、嫌味を言われ続けてきたんです。

 

その上、乳がんで抗がん剤治療をすることに

なった。

これから、私に迷惑をかける事ばかりだと。

 

でも、今自分が離婚して、私が若い女性と

結婚することが出来れば、子供も授かって、

親戚からも歓迎されて幸せになれるに

違いないと。

 

俊子はそこまで考えて、離婚を言い出して

いたんですよ」

 

健太は、ようやく理解した。

みどりの深い悲しみを。

 

みどりが華江おばさんの言葉に、どれほど

傷ついていたかを。

 

そして、自分がみどりを大切な人だと紹介

しなかったことを、心から後悔した。

 

健太!  やっと分かったね!

 

TO BE CONTINUED・・