343 母の出発 | プレ介護アドバイザーはまじゅんのおしゃべりサロン

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母親の君江の亡くなった夜、健太は一旦

自宅に戻った。

 

特養を出る前に連絡してあったので、玄関に

みどりが迎えに出ていた。健太はみどりを

見るなり、みどりの胸に抱きついた。

 

「健太、お疲れ様。本当によく頑張ったわね。

お風呂入れてあるからね」

 

みどりは、幼子を諭すように、健太の背中を

さすりながら言った。

 

一方、自宅マンションに戻った楓は、土曜日

のお通夜から来る浩介夫婦と颯介の為に、

駅前のホテルの予約を入れていた。

 

T葬儀会館には、親族が泊まれる部屋が用意

されているが、こちらは華江おばさんの為に

残しておいた。遠方から来る高齢者に、夜間

に移動してもらうのは難しいと考えたからだ。

 

土曜日の夜の事なのでホテルの空室があるか

心配だったが、幸いシーズンオフでビジネス

客もいないとあって、確保することが出来た。

 

次に楓は、哲也と自分の喪服の準備を

しながら、渡辺さんに連絡を入れた。

 

土曜日のお通夜と日曜日の葬儀は家族葬に

するけれど、金曜日は一日葬儀会館に居る

ので、君江に会いに来ても大丈夫だと伝えた。

 

木曜日の夜は、健太が霊安室に付き添うこと

にして、楓は金曜日の朝、特養に向かうこと

にしてある。

 

事前にT葬儀会館で貰ったパンフレット

を見ながら、おそらく明日聞かれるであろう

事を、あれこれと段取りしながら、楓の木曜

の夜は更けていく。

 

翌朝8時に楓が特養に着くと、イベント

スペースの中央に花が飾られて、母親の君江

のベッドが置かれていた。

 

朝食を済ませた入所者さんやスタッフが、

代わる代わる君江に最後の別れの言葉を

かけに来ていた。

 

9時少し前になると、T葬儀会館の車が

イベントスペースの横に到着した。

葬儀会館のスタッフが車からベッドを出して、

特養のスタッフと一緒に君江を移動させる。

 

施設長がマイクでイベントスペースに

集まった入所者やスタッフに話し始めた。

 

「皆さん、いつも優しい笑顔で穏やかだった

佐藤君江さんとの最後のお別れです。

皆さんで、ありがとうとさようならを言い

ながらお見送りしましょう」

 

集まった人々が口々に「ありがとう」

「さようなら」と言う言葉を聞きながら、

葬儀会館のスタッフが君江を車に納める。

 

その光景を見ながら、健太も楓も、この特養

で看取ってもらって本当に良かったと

思っていた。

 

入所者、スタッフ、君江の家族、その場に

いる人たち全員の優しさと思いやりに満ちた

送り出しだった。

 

健太は、施設長からマイクをもらって、

皆にお礼を言った。

 

「皆さん、短い間でしたが母と一緒に

過ごしていただきありがとうございました。

このように温かくお見送りしていただき、

母もとても喜んでいると思います。

 

皆様も、どうかお元気でお過ごしください。

本当にありがとうございました」

 

健太!  良かったね!

 

TO BE CONTINUED・・