337 母に寄りそう | プレ介護アドバイザーはまじゅんのおしゃべりサロン

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健太と楓は、特養の看取りプログラムの説明

を聞いた後、同意書にサインをした。

 

「こちらのホームには、ご家族様の宿泊施設

もあります。

お母様のお部屋では宿泊いただけませんが、

周囲の入所者様の迷惑にならない範囲で、

付き添っていただくことは構いません。

 

宿泊施設をご利用でしたら、お部屋にご案内

しますが、どうされますか」

 

ケアマネジャーの説明に、楓が言った。

 

「私は近いので、昼間付き添って夜は自宅に

帰ります。

健太はどうするの?仕事もあるでしょう」

 

「僕は、仕事の帰りにこちらに寄って、

そのまま泊めていただきたいです」

 

「わかりました。それでは、寝具の準備を

中村主任にお願いしてきます」

 

看護師が哲也を呼びに行くというので、

楓は君江の側に戻る。哲也が健太を迎えに

来て、宿泊施設へ案内した。

 

君江のいるユニットと隣のユニットの間に、

ゲストルームと書かれた部屋がある。

 

夜間休日用玄関からも近い位置だった。

 

「夜8時以降は、こちらの玄関から入る

ことになるから、受付のインターホンで

指示に従ってくれよ」

 

哲也は、ゲストルームの中に健太と入る。

4畳半ほどの広さの畳の部屋で、

テーブルとテレビがある。

 

押し入れに寝具が入っていて、哲也が

新しいシーツと枕カバーを持って来た。

 

「哲也、正直に答えてくれ。おふくろは後

どれぐらいもつんだろうか」

 

健太は、ゲストルームで二人っきりに

なったので、一番気がかりなことを聞いた。

 

「それは、俺にも分らないよ。

ただ、水分も取れない状態だから、

早いと3日ぐらいかもしれない」

 

「そうか、3日か。でもこんなに早く悪く

なるなんて、思いもしなかったよ」

 

健太は、肩を落としながら言った。

 

「正直、俺も驚いたよ。昨日までは元気で、

普通に食事もとれていたからな。

 

ここにいるといつも思うよ。人の命って

不思議だなって」

 

今まで、たくさんの入所者を看取って来た

哲也だったが、自分の身内となると、

さすがにショックが大きいようだった。

 

「哲也、姉貴の事よろしく頼むな。

あれで、結構繊細なところもあるから」

 

「健太、わかってるよ。お前の方こそ

みどりちゃんの事、大事にしろよ」

 

ゲストルームを出ると、健太は姉の

楓の所に戻った。

 

「健太、昼間は私がついてるから、

夜は健太にお願いするわね」

 

「ああ、わかった。それじゃあ、

俺は一度仕事に戻るな」

 

健太は特養の駐車場で、

みどりにLINEをする。

 

君江の容態が急変したこと、仕事帰りに直接

特養に行って、そのまま寝泊まりするから、

家に戻れない事などを書いた。

 

みどりからは、自分は大丈夫だから、

おばさんの側に付いていてあげてと、

すぐに返事があった。

 

その日、健太は定時に仕事を終えると、

コンビニで食料や飲み物を買い込んで、

そのまま特養に向かった。

 

姉の楓は、健太が来るのを待っていて

交代した。

 

健太は、その夜、食事や水分補給をしに

ゲストルームに戻る以外、

ほとんど君江の側で過ごした。

 

君江のユニットの他の入所者さんは、

おとなしい人ばかりで、特に健太の存在を

気に留める様子もなかった。

 

「おふくろ、おれがまだ小さい頃、夜風が

ビュービュー吹いた日に、怖くて眠れ

なかった時、ずっと俺の手を握って大丈夫

だよって背中をさすってくれたよな」

 

健太は、人は最期まで聴覚は残っている

そうだから、時々話しかけてあげてと

楓から言われていた。

 

目を閉じて、眠っているのか起きている

のかもわからない君江に、健太は小声で

時々話しかける。

 

幼い頃の思い出を、一つ思い出すと、

また一つと、次から次へと様々なシーンが

思い出されてくる。

 

「おふくろ、俺って、おふくろにも親父にも、

本当に愛されていたんだな。今頃になって

良くわかったよ。

 

おふくろ、ありがとう」

 

健太は、君江の手を握ったまま、泣き声で

隣の人が驚かないように、声を殺して泣いた。

 

健太!  愛されてたね!

 

TO BE CONTINUED・・