313 姉からの相談 | プレ介護アドバイザーはまじゅんのおしゃべりサロン

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4月の「グリーフケアの会」は無事に

終了した。

 

高橋さんが、会員の皆さんの要望を

聞いて、施設でのボランティアやパート勤務

を進めてきたので、皆さん以前より少し活気

があった。

 

新入会員さんも増えて、少しずつ会としての

存在が、市民の間で認知されてきているよう

だった。

 

健太は、世話人の市川さんに、母親の君江が

グループホームに入所したので、これからは

もう少しお手伝い出来ますと伝えた。

 

市川さんは、会員も増えてきたので、もう

一人、世話人を頼めると良いですねと

言っていた。

 

そして、4月20日、颯介から正式に東京

本社への人事異動の辞令が出て、連休明けの

5月8日から本社勤務になるので、連休中に

引っ越す予定だとメールが来た。

 

姉の楓から電話が入ったのは、翌週の

月曜日の夜だった。

 

「健太、実は颯介が東京に転勤になってね」

 

健太は、初めて聞くような素振りで、

楓の話を聞いた。

 

「それでね、健太。ちょっと相談したいこと

があるから、今度の土曜日に泊まりに行って

も良い?」

 

楓が、母親の君江のこと以外で健太に相談

したいとは、珍しい事だった。

 

「もちろん、良いさ。久しぶりに寿司居酒屋

の丸栄に行こうか」

 

健太は、去年君江のバースデーのお祝いを

した丸栄を予約した。

 

土曜日の夕方、楓はやってきて、二人は早速

丸栄に出かけた。

 

「久しぶりね、ここ。去年の5月以来ね」

 

楓も、去年の君江の誕生日祝いの事を

思い出していた。

 

姉と二人っきりで、居酒屋で飲むなんて

ことは、初めての事だった。

 

健太は何だか照れくさい気がしながら、楓が

何を言い出すのかと、ドキドキしていた。

 

少しお酒が回った頃に、楓が切り出した。

 

「健太、私今の会社辞めて、実家に帰っても

良いかな。颯介もいなくなったら、あの

アパートで暮らす理由も、もう無いし」

 

浩介と颯介、二人の小学生を抱えて楓が離婚

した時、楓は子供たちを転校させるのが

可哀想で地元のアパートを探して引っ越し

たのだ。

 

以来、15年近く、子供たちが巣立って

しまった今、確かにそこに居なければ

ならない理由はもう無かった。

 

「俺は全然構わないよ。家だっておふくろが

居なくなって、部屋は空いているんだし」

 

「そう、ありがとう。

健太ならそう言ってくれると思ってた」

 

楓は少しホッとしたような顔をする。

 

「何だよ、姉貴らしくもない。あの家は俺達

家族の家なんだから、いつでも戻って来て

構わないよ。

 

でも、会社辞めて、これからどうするんだよ。

姉貴も50歳だろう」

 

「うん、年末に皆で話していた時に、介護

関係の仕事に興味が湧いてきてね。

 

失業保険は貰えるし、退職金も少し出る

みたいだから、しばらくはゆっくり考え

ようと思って」

 

楓が今の会社を選んだ理由は、子連れの

シングルマザーでも、正社員で雇って

くれたからだ。

 

もちろん経理の経験のあった楓には、

やりがいのある仕事ではあった。

 

「会社の決算申告がね、5月末なの。

だから、それまでに、決算の関係の引継ぎ

をして、5月末で退職するつもりなの」

 

「会社にはもう話したのか?」

 

「前々から、母親の介護が大変だって言って

あったから、それとなく打診したら、引継ぎ

さえしっかりやって行ってくれるなら、って

言われたの」

 

君江の認知症が分かってから、初めの頃は

浩介や颯介と交代で月に1回、子供たちが

来れなくなってからは月に2回は、隣県の

F市から来てもらっていた。

 

それ以外にも、病院受診や訪問調査や施設

探しなど、片道2時間かけて車で来て

もらっていたのだ。

 

「姉貴、今まで本当にありがとう。

いつも急なお願いばかりをしてきたのに、

快く引き受けてくれて、助かったよ。

 

姉貴は、子供達やおふくろの為に、ずっと

頑張ってきてくれたんだから、少しのんびり

して、これからの人生のこと、ゆっくり

考えてくれれば良いよ」

 

健太は、日ごろは面と向かって言えない

ような言葉を、今夜は素直に言った。

 

「健太、ありがとう。

そうよね、人生100年時代だものね。

私なんて、まだ折り返し地点よ。

これから人生楽しまないとね」

 

楓にビールを注ぎながら、健太は自分の人生

も考えなければいけないと感じていた。

 

健太! これからだよ!

 

TO BE CONTINUED・・