289 みんなに感謝! | プレ介護アドバイザーはまじゅんのおしゃべりサロン

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みどりが帰っていった所で、丁度姉の楓と

母親の君江が買い物から戻って来た。

 

久しぶりの買い物で、君江はとても嬉しそう

だった。少し薄手の明るい色のパジャマや

カーディガンを買ったと言って、健太に

見せてくれた。

 

健太が、楓にみどりとの話をかいつまんで

報告すると、楓は納得してくれた。

 

「健太、私もあのグループホーム以外の所に

入れると嬉しいけど、そうも言ってられない

わよね」

 

楓は、ぽかぽかさんでのお泊りが水曜日に

始まると聞いて、前日の火曜日に泊まりに

来てくれて、持ち物の準備を渡辺さんと

してくれると言った。

 

「健太からは言いにくいでしょうから、

健太の仕事が忙しくなって、しばらくは

お泊りをお願いね!って私からお母さん

には説明しておくわね」

 

どうやって母親の君江に説明しようかと

悩んでいた健太の心を見透かすように、

楓は健太に言った。

 

「姉貴、すまない。嫌な役を押し付けて

しまって」

 

「何言ってるの、健太。

お母さんは、健太の為になることなら、

喜んで受け入れてくれるわよ。

 

今日だって、買い物の時に、最近健太に

迷惑かけることが多くなってきたから、

職場で肩身の狭い思いをしていないか心配

だって、言ってたわよ」

 

認知症だからと言って、一気に全てがわから

なくなる訳ではない。君江は、健太に迷惑を

かけていることは、自覚しているようだった。

 

「おふくろ、そんな事言ってたのか・・・」

 

健太は、母親の気持ちを聞いて、一瞬、もう

少し先延ばしできないかと思ってしまう。

でも、現実的に考えれば、今がギリギリの

ところだ。

 

「姉貴、明日会社には、介護休業制度は利用

しないで、母親の施設入所を進めますと、

富岡社長に返事するよ。

 

入所するまで、色々と姉貴にも手伝って

もらうことになるけど、よろしくお願い

します」

 

健太は、楓に頭を下げた。

 

「健太、一人で抱え込まないでね。

私も3月の後半は難しいけど、それまで

なら休みも取れそうだし、職場の皆は経験者

が多いから、みんな協力してくれるからね」

 

翌日の月曜日、健太は出勤するとすぐに

社長室に行って、富岡社長に報告した。

 

「そうか、健太、今まで本当によく

頑張ったな。あのおふくろさんだ。

お前が今まで一人で頑張って、介護をして

きてくれたこと、ちゃんとわかって

いらっしゃるよ。

 

施設に入ったからって、お前のおふくろさん

であることに変わりはない。

親孝行の方法が変わると思えば良いんだよ」

 

昔から君江の事を知っている富岡社長の言葉

に、健太は素直にうなずいた。

 

翌日の火曜日、午後から休みを取ってきた姉

と、毎週火曜日と木曜日に来てくれていた

渡辺さんが、ぽかぽかさんのお泊り用の

準備を色々としてくれていた。

 

健太は、自宅で母親と過ごす最後の日になる

かもしれないと思って、定時で仕事を終えて、

急いで帰宅した。

 

夕食は、渡辺さんも交えて、小さな宴会の

ようになった。

 

楓は既に君江に、明日からのお泊りの件を

説明したようで、君江は健太に優しく言った。

 

「健太、仕事が忙しいそうだね。

私は、ぽかぽかさんでお世話になることに

なったから、安心して仕事を頑張るんだよ。

 

でも、頑張りすぎて、お父さんみたいに

ならないように、ちゃんと体には気を

付けるんだよ」

 

健太は、母親の言葉に涙が出そうになる

のを必死でこらえて言った。

 

「おふくろ、ぽかぽかさんで楽しく過ごす

んだぞ。山崎さんやみんな、おふくろの事を

大切にしてくれるからな」

 

「私も、時々会いに行きますね。君江さんの

顔を見ないとなんだか寂しいから」

 

渡辺さんが言うと、君江はニッコリ笑った。

 

夕飯が終わった頃、高橋さんが訪ねてきた。

 

「君江さん、これは妻が使っていた物なん

ですが、使ってもらえますか」

 

夜は冷えるといけないからと、お洒落な

ひざ掛けを持って来てくれた。君江はとても

嬉しそうに、ひざ掛けに頬ずりをした。

 

「とても気持ちが良いね」

 

その後に、みどりがやって来た。

手には、イチゴのケーキを持っている。

 

「おばさん、今日は、これから仕事が忙しく

なる健太を励ます会だから、健太の好きな

イチゴのケーキ、皆で食べましょう」

 

イチゴのケーキと聞いて、君江は満面の

笑みを浮かべた。

 

高橋さんも一緒に、皆でケーキを食べながら

おしゃべりしていると、まるで家族のようだ。

 

健太は思った。

 

「今まで、俺が一人でおふくろの介護が

やってこれたのも、姉貴やみどり、渡辺さん

や高橋さん、それに哲也やたくさんの人達の

手助けがあったからなんだ。

 

俺一人だったら、とっくに潰れてしまった

ことだろうし、おふくろもこんな風に

楽しく元気に過ごすことはできなかったろう。

 

みんな、ありがとう。本当に、ありがとう。

これからも、よろしくお願いします」

 

健太! 今までよく頑張ったね!

 

TO BE CONTINUED・・