198 浩介の幸せ | プレ介護アドバイザーはまじゅんのおしゃべりサロン

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健太は、浩介の話を聞いて、浩介が決して

浮ついた気持ではないこと、千春さんだけで

なく、弟の海斗君のことまで考えて行動して

いることに感心した。

 

「浩介、千春さんのご両親は

どう言っているんだ?」

 

「お母さんは、若年性認知症を発症して6年

経っているけれど、要介護1で、まだまだ

話がわかるレベルなんだ。

だから、僕が千春と結婚したいと言ったら、

とても喜んでくれた。

 

お父さんは、仕事一筋の人で、介護にも

あまり携わって来なかったから、僕が千春と

一緒にお母さんの介護をしたいと言ったら、

とても驚いていたよ。

もちろん、結婚には賛成してくれている」

 

浩介の話を聞く限り、関門は姉の楓だけの

ようだった。

 

「お母さんは要介護1なんだ。それじゃあ、

おふくろと同じぐらいなんだな」

 

「うん、そうなんだ。

むしろ若いからもう少し積極的で、今は週に

3回デイサービスに行っているけれど、週に

2回は就労支援施設で仕事もしているんだよ」

 

健太が昼間読んだ本の中にも、就労支援施設

で働いている人のことが書いてあった。

 

一般的なデイサービスは、高齢者を対象と

しているので、介護保険が利用できる40歳

以上の若年性認知症の人でもなじみにくい。

 

かといって、障碍者向けのデイサービスは、

高齢者向けのように数が多くないので、

なかなか地元にない場合もある。

 

また、若くして発症した人の場合は、自分が

仕事をしたいという意欲の強い人も多いので、

就労支援施設で働く人も多いという話も

書いてあった。

 

「そうか、千春さんのお母さんは、うちの

おふくろよりも元気そうなんだな」

 

健太の言葉に、浩介は嬉しそうに言った。

 

「健兄ちゃんみたいに、ちゃんと千春の

お母さんの状況を冷静に受け止めてくれれば

良いんだけど、母さんは認知症という言葉

だけにとらわれ過ぎなんだ」

 

浩介の口ぶりには、母親の楓に対する

失望が感じられた。

 

「浩介、姉貴は浩介が自分を見捨てて養子に

行ってしまうと思っているようだけど、

本当の所はどうなんだ?」

 

「健兄ちゃん、僕は養子に行くなんて一言も

言ってないんだよ。

 

ただ、千春のお母さんが在宅で過ごせる間は、

なるべく千春の負担を軽くしてあげたいから、

一緒に暮らしたいと言っただけだよ。

 

もう少し症状が進めば、施設入所も仕方ない

と千春も他の家族も考えているんだ。

 

だから、今が一番大切な時期なんだ」

 

浩介の言う事は、健太には痛いほどわかる。

自分も、母親の君江が一日でも長く自宅で

平穏に過ごして欲しいと考えながら、

施設入所の覚悟もしている。

 

「今が一番大切な時期なんだ」という浩介の

想いを、叶えてやりたいと健太は思った。

 

「でも、浩介、伊藤さんの家に、お前たちが

住むスペースはあるのか?」

 

健太は、現実的なことを考える。

 

「うん、以前、千春の祖父母が寝起きして

いた離れがあるから、そこを片付ければ、

なんとか二人の生活はできそうなんだ」

 

最後に健太は、浩介に究極の質問をしてみた。

 

「浩介、姉貴は浩介が県庁で出世することが

幸せだと思っているんだ。もちろん、普通の

親ならそう思うのが当たり前だと俺も思う。

 

浩介にとっての幸せは何だ?」

 

浩介は、頬を紅潮させながらも、

キッパリと言った。

 

「健兄ちゃん、僕は、自分の愛する人が

大切にしている家族を一緒に支えていく

ことが出来れば幸せだよ。

苦労だなんてちっとも思わない。

千春を笑顔にすることが、僕の幸せなんだ」

 

健太!  浩介を褒めようぜ!

 

TO BE CONTINUED・・