195 姉からの電話 | プレ介護アドバイザーはまじゅんのおしゃべりサロン

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「いつ急に休んで、皆に迷惑かけるか

わからないからな」

 

健太は、お盆休み中の電話番は、自分が

出勤しようと思った。

 

7月に入って、最初の週末、隣県のF市に

住む姉の楓が、母親の君江の世話をしに

来てくれた。

 

楓は、君江を連れて、夏物の服を見に行くと

言って出かけたので、健太は本屋で車の雑誌

を買うと、いつものカフェでのんびり本を

読んでいた。

 

道行く人たちは、すっかり夏服で、

雑誌には夏の旅行やドライブの特集記事が

載っている。

 

「そう言えば、去年おふくろを連れて温泉

旅行に行ったのは、10月だったな。

その後、4月にはおふくろの学校の跡地に

出来たグランピングに出かけたな。

暑い間は大変だから、やっぱり今年も

10月頃に旅行に行こうかな」

 

そんなことを考えながら、ふと外を見ると、

ちょうど部下の鳥居が彼女と歩いている

のを見かけた。

 

「あの人が、先週のハッピーレポートで

話していた彼女だな」

 

とびっきりの笑顔で話しながら歩く二人を

見て、健太も幸せな気分になった。

 

その日の夜、母親の君江が眠ってから、

健太は姉と二人でグループホームの件を

話し合った。

 

「私もそろそろ考えないといけないと

思っていたのよ」

 

毎週火曜日と木曜日に君江の世話をして

くれる渡辺さんとも情報交換しているので、

健太よりも楓の方が母親の実態を良く

把握している。

 

その上、毎日接している健太には気付き

にくい母親の変化も、2週間ごとに来て

くれる楓の方が、敏感に感じ取ることが多い。

 

「それで、姉貴。見学とか施設選びは、

姉貴にお願いして良いかな。

男の俺だと、箱モノばかりに目が行くけど、

女同士の方が、細かい所まで目が行き届く

だろうから」

 

「健太がそう言ってくれるなら、

私もありがたいわ。

みどりちゃん達も、見た目より中身を重視

したほうが良いって言ってたから」

 

楓の言葉に、健太はちょっとだけ引っかかる。

 

「みどりちゃん達って?」

 

「ああ、哲也君にも、色々と相談しているの。

施設のことは、哲也君の方が詳しいと思って。

浩介がいつも哲也君の話をするから、私も

色々と話すようになったのよ」

 

確かに、浩介が来るときは、哲也もよく来て

いて、一緒に母親の君江の世話をしてくれて

いる。浩介と哲也は、気が合うんだなあ

と健太は思っていた。

 

自分も特別養護老人ホームに勤める同級生の

中村哲也に相談したぐらいだから、姉が直接

哲也に相談していても何の不思議も無かった。

 

「それじゃあ、姉貴。費用のことはあまり

気にせずに、おふくろが一番楽しく過ごせ

そうなところを見つけてくれよ」

 

そう言うと、健太は楓に母親の君江の通帳を

見せた。

定期預金を解約した信用金庫の通帳には、

お墓の移設費用や毎月のデイサービスの

利用料を引いても、まだかなりの額が

残っている。

 

「そうね。このお金はお母さんが一生懸命

働いて貯めたお金だもの、お母さんのため

に全部使おうね」

 

楓の言葉を聞いて、健太は安心した。

 

「姉貴は、今はこう言ってくれてるけど、

変な男と再婚でもしたら、コロッと話が

変わるのかなあ」

 

健太は、先月みどりが言っていたことを

思い出していた。

 

翌日、楓は母親の君江の洋服をすっかり

夏物に入れ替えて、健太に、どこに何が

入っているかを説明してから、F市へ

帰って行った。

 

それから約2週間、健太は職場でのハッピー

レポートが思わぬ効果を生み出して、皆の

仲が急速に良くなって、チームワークが向上

しているのを感じていた。

 

母親の様子も、目立った変化はなく、

このまま平和な日々が続くものと

思っていた。

 

「明日は第3土日だから、浩介が来てくれる」

と母親が眠る前に話し合った後、健太が自分

の部屋で秋の旅行の行先を考えていると、

姉からの電話だった。

 

「健太、ちょっと聞いてくれる」

 

楓は相当な剣幕だった。

 

「どうしたんだよ。姉貴」

 

「浩介が、浩介がいきなり結婚するって

言いだしたのよ」

 

「それは、めでたい話じゃないか」

 

「何がめでたいもんですか。

私は絶対に許さないからね!」

 

健太!  何がどうなった?

 

TO BE CONTINUED・・