190 花火の思い出 | プレ介護アドバイザーはまじゅんのおしゃべりサロン

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社会保険労務士・行政書士・認知症ケア准専門士のはまじゅんが、介護や認知症についておしゃべり。介護にかかわるすべての人に笑顔を届けます。

46歳になった佐藤健太は、76歳の母親

君江とS市内で二人暮らし。

去年の6月頃から母親に認知症の症状が

出始めて、今は要介護1。

 

君江は介護保険を利用して、毎週月・水・金

と週に3回、デイサービスぽかぽかさんに

通っている。

 

隣県のF市に住む姉の榊原楓、その息子の

浩介と颯介、中学・高校の同級生で特別養護

老人ホームHに勤める中村哲也、中学の同級

生で楓のバレー部の後輩でもあるケアマネ

ジャーの田中みどり、君江の元同僚で世話

好きの渡辺さんの協力を得て、健太は何とか

仕事と介護に頑張っている。

 

6月の第3土曜日、颯介が母親の君江の世話

に来てくれたので、健太は哲也と飲みに

出かけた。

 

深夜に帰宅した時には、颯介も君江も眠って

いた。健太は、二人を起こさないように、

静かに自分の部屋に入った。

 

日曜日の朝、二日酔い気味の健太がゆっくり

目覚めると台所から良い匂いがしてくる。

 

台所に行くと、颯介と君江が朝食を

食べていた。

 

「健兄ちゃん、おはよう。

今、健兄ちゃんの分も作るね」

 

颯介は立ち上がると、健太の為にトーストと

スクランブルエッグとベーコンの朝食を

作ってくれた。

 

「健兄ちゃんは、コーヒーだね」

 

健太の前にコーヒーを出すと、颯介は座った。

 

「颯介、お前も良い旦那様になるな」

 

かいがいしく朝食の支度をしてくれた颯介に、

感心しながら健太が言った。

 

「健兄ちゃん、

今時は、料理や家事が出来ないと結婚

出来ないんだよ。夫婦共稼ぎが当たり前だし、

家事の分担も平等が当たり前の時代だよ」

 

颯介の言葉に、健太が言った。

 

「そうか、結婚するのも大変なんだな」

 

健太が美味しそうに食べ始めると、

食べ終えた母親が話しかける。

 

「健太、昨日はお墓参りに行ったのよ」

 

「颯介、東福寺さんに連れて行って

くれたのか。ありがとうな」

 

「それに、花火と夜景とお星さまも見たの」

 

君江の話があまりにも脈絡が無いので、

健太がキョトンとしていると、颯介が

説明してくれる。

 

「健兄ちゃん、昨日は夕方5時少し前に

納骨堂のお参りをして、それから東福寺の

カフェで夕飯を食べたんだ」

 

「東福寺って、そんなに遅くまでやって

いるのか?」

 

驚いて健太が聞く。

 

「あのね、ホームページで調べたら、

6月から9月までは、サマーフェスタで

夜間営業を夜9時までしているんだよ。

公園を開放して、親子連れに花火のできる

エリアが作ってあるんだ。

最近は、近所の公園も花火禁止の所が

多いからだって」

 

さすが、商売上手なご住職の跡取りさんだ!

と健太は思った。

 

「それで、暗くなって子供たちが花火をして

いるのを見ながら、昔、この家で花火した時

のことをおばあちゃんと話したんだ」

 

君江が買ってくれた浴衣を着て、楓と浩介、

颯介が庭で大はしゃぎをしながら花火をした

のを、健太もよく覚えていた。

 

「夏におばあちゃんの家に来ると、スイカと

花火とアイスがあったから、楽しみで仕方

無かったんだ」

 

「浩介も颯介も夏休みの宿題をやらないと、

花火もアイスも無しよ!って

よく楓に叱られていたわねえ」

 

君江も懐かしそうに話す。

 

「その後で、公園の中の展望台に登って、

夜景を見たんだよ」

 

颯介が続きを説明してくれる。

 

「きれいだったわねえ。お空にもお星さまが

いっぱいで、上も下もキラキラしていたね」

 

「でも、颯介。そんなロマンティックな

場所だったら、周りはカップルばっかり

だったろう」

 

健太は容易に想像できた。

 

「うん、そうだね。でも、僕とおばあちゃん

もある意味カップルな訳で、シルエットだけ

なら分かんないよ」

 

颯介の言い方が面白くて、

君江も健太も笑ってしまった。

 

「私の夢は、浩介や颯介の子供と一緒に

花火をすることだね」

 

「うん、おばあちゃん、任せておいて。

その代わりおばあちゃんも長生きして

くれないとダメだよ」

 

颯介の言葉に、君江はニコニコしている。

 

明るい颯介のお陰で、この日は一日

にぎやかだった。

 

健太! 颯介は良い子だね!

 

TO BE CONTINUED・・