「お待たせしました」
健太は、社労士の川崎先生の待つ会議室に
戻った。
「ご存知だとは思いますが、うちは女性社員
が一人しかいなくて、今日はお休みしている
ので、コーヒーしか出せなくてすみません」
健太が、川崎先生の前にコーヒーを出すと、
川崎先生は「ありがとうございます」
と言った。
「何からお話したらいいでしょうか」
健太が聞くと、川崎先生は言った。
「まずは、いつごろからお母様の認知症に
気が付いたのかという所から、お話して
もらえますか」
「あれは、去年の６月のことでした」
健太は、去年の６月に初めてデイサービスに
いきなり訪問したことや、中央包括で説明
されたこと、同級生の哲也やみどりのお陰で、
介護保険のことも認知症のことも全く
知らなかった自分が、こうして母親の介護を
一人でしながら仕事を続けられているという
話をした。
川崎先生は熱心にメモを取りながら聞いて
いて、時々、うなずいたり相槌を打ったり、
「それは大変でしたね」と言ったりした。
健太は、今までに、母親の介護のことを他人
に話す機会は、認知症フェアの時に経験して
いたが、あの時は皆さん介護保険や認知症の
基礎知識のある人たちだった。
全く基礎知識の無い他人に、自分のことを
話したり説明したりするのは初めてだった
ので、うまく伝わっているのか自信が
無かった。
「佐藤さん、貴重な話をありがとうござい
ます。ただ、私自身の知識が無さ過ぎて、
どうしても理解が難しい部分もあります」
川崎先生は、正直に話した。健太は、
この人は誠実な人だなと感じた。
「川崎先生、私も最初は、田中ケアマネの
話すことが、全く理解できませんでしたよ。
一つ一つ説明してもらって、やっと
わかってきたところです」
「その田中ケアマネジャーさんと言うのは、
どこにいらっしゃるのですか？」
健太は、いつも持っているみどりの名刺を、
川崎先生に見せて説明した。
「弥生病院をご存知ですか」
「はい、北部にありますね」
「その弥生病院の敷地の中にある、弥生居宅
介護支援事業所の所長をしているのが、田中
ケアマネジャーです。
知識も経験も豊富で、フットワークも軽い
ので、私はとても助かっています」
川崎先生は、みどりの名刺をジッと見つめた
かと思うと、急に言った。
「佐藤さん、この田中ケアマネジャーさんを
私に紹介していただけないでしょうか。
あいにく私は介護の業界に知り合いが全く
おりません。
佐藤さんが素晴らしいとおっしゃるケアマネ
さんから、ぜひ私も介護保険や認知症に
ついて学ばせていただきたいのです」
健太は驚いた。まさかそんな話になるとは
思ってもみなかった。
みどりは今でも十分忙しいのだ。その上、
こんな話を持ち掛けるのは気が引ける。
しかし、社長の紹介でもあるので、
無下に断ることも出来ない。
「わかりました。しかし、彼女は所長も
していて、とても忙しい立場です。
ご紹介しても、彼女自身がお相手できる
とは限りません。
その時は、誰か別の人を紹介してもらう
という事でも、構いませんか」
健太は、先に予防線を張った。
「もちろんです。どなたかご紹介
いただければありがたいです」
そこで、健太はその場でみどりに
LINEを送った。
富岡社長の紹介で、顧問社労士の川崎
先生と話していること。
介護保険や認知症について学ぶために
みどりを紹介して欲しいと言われて
いること。
みどりは忙しいだろうから、他の人を
推薦してくれれば良いこと。
急がないので、後で返事をくれれば
良いこと、などを書いた。
ところが、みどりからは、
すぐに返事が来た。
しかも、私でお役に立てるなら、ぜひ
協力したいと書いてあって、今なら
事務所にいるから、川崎先生と直接電話
で話したいと書いてあった。
健太は、みどりの返事を川崎先生に伝えた。
川崎先生は大喜びで、早速その場でみどり
に電話をした。
みどりと楽しそうに色々と話して電話を
切った後、川崎先生は健太に言った。
「佐藤さんがおっしゃる通り、フットワーク
の軽い素晴らしい方ですね。
早速、今週の金曜日の夕方に、お会いする
ことになりました。
ありがとうございました」
健太！ びっくりだね！
TO BE CONTINUED・・