「疑わば用うるなかれ、用いては
疑うなかれ」。リーダーの心得を
説いた中国・清代の名著「通俗
編」の言葉である。信頼のおけ
ない人物は初めから登用するな
との戒めだが、岸田文雄首相は
新型コロナウィルス対策の雇用
調整助成金を自身の自民党支
部が受け取っていた大塚敏孝副
環境相の辞任を否定した。首相
と本人共に「国民感情に照らして
理解を得られるものでない」」と不
適当な受給を認めながらも辞任
せずに逃げ切る構えだ。同じ雇
調金を受け取り、辞任に追い込
まれた石原伸晃内閣官房参与の
ケースとどう違うのか、説明がな
い。困窮者を横目に国家財政に
巣くう白アリの如く「もらえるものは
もらう」と卑しい判断しかできない
政治家は早く退場させなければな
らない。
首相は「それぞれの立場、経歴、
影響力を勘案してどう身を処する
かを考えていくべきだ」と本人判
断に任す答弁しかできなかった。
任命責任は首相にあることを自
覚していない。人物評価ができず
登用、その結果不正が分かって
も辞任させられない優柔不断ぶ
りが際立つ。18歳以下への10万
円相当給付でも、「原則現金とク
ーポン」と言っていたのを「現金で
一括で給付することを選択肢の一
つとしてぜひ加えたい」と豹変した
。唐突な給付の変更に追い込まれ
たのは、世論の反発がすぐに読め
なかった政治センスのなさが原因
だ。
風向きが変わったら、ころころスタ
ンスを変えるのは確固たる政治理
念がないからだ。まるで野党に抱き
ついて、「言うことを聞くから、このく
らいで勘弁してくれ」とでもいうような
節操のなさである。「聞く耳がある」
と言うのが取得だけのこんなリー
ダーに国の舵取りを任していいは
ずがない。
自身が率いる派閥「宏池会」はずっ
と党内で「ハト派路線」を標榜してき
たのに、首相は最近「敵基地攻撃」
容認を口にし始めた。党内のタカ派
「安倍派」にすり寄った。一貫して見
えてくるのは、強い相手にはけっし
て刃向かわないという政治姿勢だ。
首相になれば、少しは宏池会の平
和路線を維持するのかと注視した
いるが、その兆しもない。
政府のコロナ対策の予算執行では
他にも「白アリ」のように、予算をむ
さぼる不祥事が多発している。「Go
Toトラベル」の補助金でも、旅行会
社HISの子会社が1万8000万泊
分以上も不正に受給していた。「不
正は許さない」という姿勢に欠けるリ
ーダーの下では、果敢な更迭人事
や真相究明が行なわれない恐れが
あり、悪事がのさばる土壌を生みや
すい。
岸田首相には同じ中国の古典「礼記
」の一節を聞かしたい。
「難に臨んでは、いやしくも免れんと
するなかれ」
正しいと信じた道はどんな困難が待
ち構えていても避けて通ってはなら
ないという意味だ。「聞く耳」ばかりを
強調する首相にはそんな気概は期
待できない。
【2021・12・15】