卑屈な笑顔に、不機嫌そうに腕組
みしながらうなずく。東京・両国
国技館で大相撲夏場所を観戦した
安倍晋三首相とトランプ米国大統
領の表情は際立った違いを見せつ
けた。この「改元政治ショー」を
最大限に利用しようという安倍首
相の目論見が思惑通り進んでいな
いことを示している。参院選後ま
で日米貿易交渉の中身を発表しな
いという今回の合意は、既に農業
分野で妥協を強いられていること
を知られたくなく、トランプ大統
領の「お情け」で先延ばしにして
もらっただけだ。「接待漬け」で
どんなに取り入ろうとしても、い
つも取引上手の相手に常に要求だ
けをのまされる「抱きつき外交」
の醜態をこれ以上見たくない。
テレビ映像は一瞬にしてすべての
真実を映しだすのも確かだ。トラ
ンプ大統領のため土俵に近い升席
を椅子席に変え、相撲を中断して
まで入場させたが、大統領は終始
不機嫌そうに腕組みして、勝ち相
撲の力士にほとんど拍手もせず、
口をきつく結んだままだった。大
相撲ファンならずともその態度に
は腹立たしくなった。それを横で
見てひきつりそうになり、、わざ
と笑顔をつくり出そうとする安倍
首相に、自分で招いたといえ、憐
憫の情さえ覚えた。傍らの安倍昭
恵夫人のはしゃぎぶりも異様で、
「恥ずかし気もなく、こんな場に
よく顔を出せたもの」と言いたく
なった人も多かったのではないか
。
それだけ、トランプ大統領の振る
舞いは、長い大相撲の歴史に無知
で無礼でもあった。NHKは朝か
らまるで国家の大行事のように、
そんなトランプ大統領の一挙手一
投足を伝えた。安倍首相の「改元
政治ショー」にメディアが加担し
てしまっている自覚もない。安倍
トランプ会談は既に11回にのぼり
、ゴルフも5回目を数えるが、誇
るべき外交成果は何もなく、ひた
すら押されっぱなしで米の言い分
を聞く一方だけである。
テレビは番組を中断してまでも表
層的に「今ホテルを出た」「大統
領専用ヘリに乗った」など分刻み
で動向だけを伝えた。比較的まと
もなTBSの「サンデーモーニン
グ」が朝からゴルフ場に行くトラ
ンプ大統領の姿を番組コーナーを
何度も中断しながら伝えていた。
司会の関口宏氏がいら立って「も
ういいでしょう」とスタッフに自
制を促すほどだった。他の番組が
どうだったかは、もはや推して知
るべしだろう。
これでは視聴者や有権者が首相の
「やっている感外交」を刷り込ま
でしまっても不思議はない。いつ
の間にかジャーナリズムは消えう
せ、懐疑的思考を促す役割を放棄
しまっているように見える。
今後も来月の大阪でのG20などを
駆使し、「やってる感」を演出し
選挙になだれ込みたい安倍首相の
頭の中が見えるようだ。しかし、
それ以前にまだ国会開会中である
ことを忘れてはならない。「国会
の花形」とされる衆院予算員会は
実に3月1日以来、一度も開かれ
ていないのだ。
与党側が様々追及される姿を見せ
たくないという意図からだろうだ
が、憲政史上例のない異常事態だ
。既に国権の最高機関さえ骨抜き
にしてしまった「専制政治」にス
トップをかけなければ、この国は
もう民主主義国家を名乗る資格は
ない。「トランプ狂騒」の背後に
ある景色をしっかり凝視、それぞ
れの立場で声を上げる時である。
【2019・5・27】