恥ずかしながら、今までその存在
をまったく知らなかった絵師に魅
了された。閉展間際の「没後13
0年 河鍋暁斎」展(兵庫県立美
術館、19日まで)を観覧、作品の
の数々に圧倒され今も余韻がさめ
ない。幕末から明治にかけての大
転換期に描いた絵はどれも写実的
でいながら「おかしみ」のあるユ
ーモアにあふれる。世界の画家に
多大な影響を与えた葛飾北斎、歌
川広重らの画業に勝るともとも劣
らない評価をもっと得られてよい
奇才ではなかろうか。「Kyos
ai」が放つ時代や社会を風刺す
る精神をズシッと受け止めたい。
ずっと浮世絵ファンで、この数十
年間、評判の展覧会に出かけ有名
浮世絵師の肉筆画に接してきたが
、暁斎が肉筆で描いた世界の豊饒
さや時代の精神性をこれほど感じ
たことはなかった。暁斎は幕末期
、茨城県古河市に生まれ明治前半
まで活躍した。若くして歌川国芳
に入門、自然、人間、社会のあら
ゆる対象を豊かな表現方法で描き
続けた。国芳の弟子だけあって、
作品にはどれも時代風刺がにじみ
出る。が膨大な作品群の中から、
今回はドイツのビーティヒハイム
・ビッシンゲン市立美術館が収蔵
していた「九相図」などの名作ば
かり200点を展示している。
中でも印象深かったのは「小よく
大を制す」を「蛇を捕まえる蛙」
の絵が精神性を表していた。小さ
な何匹もの蛙が凶暴な目をした蛇
を手分けして抑えつけて動けなく
させている図に見入った。少々う
がった見方かもしれないが、今の
政治の世界に重ねて観た。暴れ回
る蛇は現政権に例えられ、小さな
蛙は弱小野党や有権者ではないか
。現実はそんな妄想は通じない別
弱肉強食の世界だが、絵にはどこ
か「おかしみ」があって観る人を
心穏やかにさせる。
他の猫、虎、烏、鶏、鷹などの動
物の目はどれも鋭く、心の中まで
うかがえるような筆致で描かれる
。「北斎漫画」が今ブームでもあ
るが、「暁斎漫画」も負けず、ユ
ーモラスな世界に引き込んでくれ
る。特に発想の突飛さが抜きん出
て、明治中期に描いた「ロンドン
大宴会」は東海道中膝栗毛の弥次
さん喜多さんがイギリスで現地人
と酒盛りする図で、思わず吹き出
したるなる面白さがあった。
他にも見どころ満載で、とても半
日ぐらいで絵をじっくり観覧する
のは無理だった。もっと暁斎の作
品にふれたく、今度は埼玉県蕨市
にある「河鍋暁斎記念美術館」(
048・441・9780)を訪
れたくなった。関西在住の人には
必見と思われる残り2日間での観
覧をお薦めしたい。
【2019・5・18】
(次回は都合により、27日に掲載
します。写真は河鍋暁斎展のポス
ターから)


