目の前にフラフラ状態の相手がい
るのに、パンチを繰り出さないボ
クサーのいる、情けない場面が目
に浮かんでしまった民進党の代表
選だった。前原誠司新代表による
新執行部がきょう誕生する。護憲
リベラルを口にすることなく「保
守の真ん中を狙う」と目論見を語
る前原氏に確たる政治理念はうか
がえない。枝野幸男氏を代表代行
、長妻昭氏を選対委員長に起用す
るのは党内融和に過ぎず、幹事長
に当選2回の山尾志桜里氏を抜擢
しようとして右往左往した。政治
を格闘技に見立てたら、倒すか倒
されるかである。野党第1党なら
もっと政権に対峙する覚悟を見せ
なければならない局面であろう。
政策の旗幟を鮮明にして戦う姿勢
を見せなければ、リングの外の観
客である有権者から拍手はわき起
こらない。
実は山尾氏は国会で待機児童対策
での無策ぶりを批判して「ニッポ
ン死ね」のネット上の悲鳴を紹介
、安倍首相に検事出身らしく舌鋒
鋭く詰め寄ったころから、気鋭の
政治家と評価していた。それが見
事に裏切られたのが、先の横浜市
長選である。与党候補の林文子氏
の選挙カーの上に立ったのである
。民進党は自主投票を決め込み、
山尾氏はこともあろうに、原発再
稼働反対と学校の給食再開を掲げ
た野党候補に敵対する行動をとっ
てしまった。選挙区からだけでな
く、山尾氏に期待していた全国の
女性有権者から強い批判がわきあ
がった。中には裏切られた思いか
ら罵倒に近い声もあったほどだ。
山尾氏がどう釈明するのか、ずっ
と注目していたが、それに応えず
無視する状態が続いていた。背景
を調べると、原発推進の連合が支
持母体であることが判明して、山
尾氏の疑問行動の訳が分かった。
幹事長人事の混乱は山尾氏自身の
この時の立場をわきまえない行動
も一因だったのではないか。
「敵に塩を送る」ような横浜市長
選と同じような背信行為を、前原
新執行部がまた繰り返す恐れは否
定できない。そうなれば、民進党
は完全に支持者から見放されるだ
ろう。
そうならないために、政権が最も
嫌がる術策を展開する必要がある
のではないか。それには、自民党
執行部の幹部が口にして最も懸念
している共産党を含む野党共闘し
かないとみるべきだろう。共産党
の肩をもつつもりはことはないが
、この党を排除して今後の国政選
挙に民進党が勝利し、政局転換を
図ることはまず考えられない。特
定秘密保護法、集団的自衛権容認
の安保法、言論弾圧につながる共
謀罪法……次々とこの国の民主主
義社会の根本を崩壊させ全体主義
に向かう安倍政権の延命阻止の一
点だけでも共闘を組んだらよい。
小沢一郎元民主党幹事長が提唱し
ているイタリアで成功した「この
指とまれ」の「オリーブの木」方
式による選挙協力が説得力がある
。
唯一救いを感じるのは前原氏が最
近頻繁に小沢氏と会食、助言に耳
を傾けていることだ。権謀術策を
めぐらし、何度も政権打倒を果た
した実績のある小沢氏のいわば「
悪知恵」を活かさない手はない。
臨時国会さえ開こうとしない悪知
恵が働く相手には、したたかな戦
術が大事なのである。鋭くテーマ
に切り込む質問力のある山尾氏を
評価する声はまだ高い。過去の
失敗を猛省、負のしがらみを断ち
、妥協なき政治家を目指してもら
いたい。今、民進党が掲げるべき
旗幟は「公正な社会の実現」でな
いのか。
たまたま昨日の朝日新聞の投書欄
に同じ思いが寄稿されていて目を
引いた。「首相 一件落着してい
ません」の見出しがあり、「森友
・加計学園、日報の問題がいまだ
に何も解明できていないとし、公
正、公平であるべき政治が私物化
されたと私は思う。国民を甘く見
ないで欲しい」と短い文で多くの
有権者の思いを代弁していた。
冒頭に「フラフラ状態の相手」と
書いたが、政権は一連の疑惑逃れ
だけに心奪われているかのように
見える。そして「外敵」を誇張す
ることしか延命手段がないかのよ
うだ。
北朝鮮からいくらミサイルが上空
を通過しようと、止めることはで
きない。「圧力」を口にするばか
りの安倍政権は危機を過剰に演出
するだけで無為無策に変わりない
。発射が判明した時には、すでに
通過しており、Jアラートなど役
立たない。住民避難を伝える画像
が、戦時中のバケツによる水防訓
練にもみえる。4日の毎日新聞に
柳沢協二元内閣官房副長官補が日
本のとるべき道を「ミサイル発射
に備えることでなく撃たせないこ
と」と指摘している通りだろう。
トランプ米国大統領に追随して強
硬姿勢をとるだけでは、日本が巻
き添えをくらう危険性が高まるこ
とを知っておきたい。
明日からいよいよ今治市議会が始
まり、加計学園問題が取り上げら
れる。加計学園の新設獣医学部の
実験計画に、わずか48頭しかおら
ず絶滅危惧種の市指定文化財の馬
「野間馬(のまうま)を実験に使
うという新たな疑惑まで浮上した
。市民グループは文科省に経緯を
明らかにするよう求めている。疑
惑がとどまるところをしらない加
計学園。民進党新執行部がまず取
り組むべきは、他の野党一体とな
った現地調査である。事実解明抜
きに、月末からの臨時国会で、不
当な権力行使を続ける政権を追い
詰めることはできない。来月の三
つの衆院補選も加計疑惑究明に成
否がかかっている。
【2017・9・5】