「えー、私の頭脳というんでしょ
うか、ちょっと対応できなくて申
し訳ありません」。国会答弁で、
これほどお粗末な答弁をした大臣
はかつていなかったのではないか
。共謀罪審議の拙速さを、野党に
追及された金田勝年法相の答弁だ
ったが、「自分はバカだから中身
は理解できていない」と言ったも
同然だ。有権者への冒涜であり、
まともな内閣なら即刻更迭だろう
。国家統制によって人権が踏みに
じられる危うさについて、政府が
どんな未然防止策を説明するのか
注目していたら、なんと金田法相
を答弁に立たせない愚挙に出て、
驚愕した。このままでは、空疎な
審議が続き強行採決される恐れが
強い。言論の自由を脅かされ民主
主義社会の根幹が大きく揺らぐ事
態に、有権者の関心があまりに薄
すぎて、気持ちが落ち込んで仕方
ない。
法案提出の責任者がその中身を知
らず、説明できない事態に野党は
もっと強い姿勢で抗議すべきだ。
審議を空転させても、非は政府側
にあるのは明らかなのだから、多
くの有権者から支持されるだろう
。
それにしても、安倍内閣の閣僚ら
の資質のなさに、改めてあきれ返
る。今年に入ってからだけでも、
虚偽答弁を繰り返した稲田朋美防
衛相、原発事故被害者切り捨て発
言の今村雅弘復興相、学芸員一掃
と暴言を吐いた山本幸三地方創生
相、重婚疑惑で辞任した中川俊直
経産政務官……と不祥事はとどま
る気配もない。任命責任がある安
倍晋三首相自身も森友、加計学園
疑惑が払しょくできず、真相解明
に逃げまくっている。
過去3度も廃案になった共謀罪は
今回「テロ等準備罪」と名前を変
え対象犯罪が676から277に
減ったが、一般市民を捜査対象と
する危険性が消えないままだ。表
現に関わる人たちでつくる「日本
ペンクラブ」は今月初め、市民生
活に及ぼす危険性を訴えた。自分
も会員の一人でもあるが、法案が
成立すれば、こんなブログ執筆に
さえ委縮作用をもたらしかねず、
空恐ろしくなる。
一般市民が対象でないと政府は説
明するが、組織犯罪集団を摘発す
るとしているが、事前にそのメン
バーであることを、どうして確認
できるのか。通信傍受、密告など
によって、一般市民が知らないう
ちに捜査対象にされる危険性が高
い。同じペンクラブ会員でもある
作家の中島京子さんはこう指摘す
る。
「誰かが取り締まろうと思った時
に、どの罪になるのかを探すよう
な法律ではないか」「心の中を取
り締まるというが、人は本当に思
っていることを書いたり、言った
りするかどうか分からない。人の
心は複雑なものだ」(毎日13日朝
刊)。
中島さんは、森友学園疑惑の本質
をこうシンプルに見破って、多く
の共感をよんだ。
「政権の中枢にある政治家、官僚
、民間企業(学校法人)が、ある
偏ったイデオロギーに染まり、国
民も共有財産の使い方を勝手に決
めて、「彼ら」の信奉するイデオ
ロギー教育を実践する施設を作ろ
うとした」(同4月2日朝刊)。
二つの事柄に共通するのは、かつ
てなかったほどの政権の独善的振
る舞いである。そして、どちらも
戦前の国家統制賛美が見えてくる
。戦前回帰への疑念は近代史に詳
しい作家の半藤一利さんもこう警
鐘を鳴らす。
「歴史を研究してきた経験から言
えるのは、戦争をする国家は反戦
を訴える人物を押さえてけようと
することだ。昔は治安維持法が使
われたが、今は『共謀罪』がそれ
にとって代わろうとしている。心
の自由を侵害するという点ではよ
く似ている」
「歴史には後戻りできなくなる『
ノー・リターン・ポイント』があ
るが、今の日本はかなり危険なと
ころまで来てしまっていると思う
」(朝日20日朝刊)
どちらも深く胸に刻み込みたい言
葉である。一連の批判に推進派の
議員らは、「日本は法治国家で警
察も令状至上主義。一般人が疑惑
だけで拘束されたり、逮捕される
ことはない」と反論する。だが、
令状を発する裁判官が政権のコン
トロール下に入って司法の独立が
脅かされているような現状をみれ
ば、余計、信用できなくなる。
既に治安維持法に似た法執行が事
実上進んでいるのかもしれない。
辺野古の基地建設に抗議した平和
運動のリーダー、微罪に威力業務
妨害罪を適用され、身柄拘束が実
に5カ月にも及んだのはその証左
の一つともいえよう。国策に従わ
ないとみなした人物には、徹底し
て過酷な刑事罰を与えてしまおう
という苛政がまかり通っている。
不当な警察権力の執行が見過ごさ
、じわじわ暗雲のように市民を覆
い始めている。
元警察庁長官の国松孝次氏は警察
官僚の中でも、良識派で知られ今
回の共謀罪について「警察だけが
暴走することはあり得ない」と言
い切る。そして「日本の民主主義
の成熟度に自信を持つべきだ」と
述べている。(毎日4月7日朝刊
)
その言葉を信じたいが、沖縄のケ
ースはそんな楽観的な見方をはね
飛ばす。現場では、想像以上の政
権による警察への介入強化が進む
。国家統制を強化する政権は「総
監視社会」を作り上げる共謀罪を
安保法制同様しゃにむに成立させ
るはずだ。阻止には野党とメディ
アのよほどの覚悟が不可欠で、有
権者の支えなしでは、無理と心す
べきだろう。
【2017・4・21】