たまった小銭の硬貨を口座に入金
しよう郵便局に行ったら、「アフ
ラックのがん保険」の販促アナウ
ンスが絶え間なく局内に流れてい
た。うるさく感じたほどで、改め
て米国アメリカンファーミリー社
だけの商品販売が可能になった郵
政民営化の不公平さを思わされた
。TPP(環太平洋経済連携協定
)交渉では、かんぽ生命のがん保
険非参入をダメ押し譲歩もさせら
れた。さらに、全国2万もの郵便
窓口で米国保険会社の一般生命保
険販売を認めさせられている。そ
れなのに、米国大統領選でTPP
を認めないトランプ氏が勝利した
翌日のきょう10日午後、衆院本会
議でTPP承認法案を採決すると
いう。米国の言いなりに譲歩に譲
歩を重ねる安倍政権の交渉力のな
さに絶句するほどである。
「本当に間抜け。ピントがずれて
ているとしか言いようがない」「
新大統領にけんかを売るようなも
の」と民進党幹部がため息をつく
ような談話を出すのは当然だろう
(朝日10日朝刊)。したたかに国
益をはかり、経済交渉をすべき政
府が、もう発効の見込みがなくな
った多国間交渉にすがる姿はあま
りに見苦しく、無思考ぶりをさら
け出す。今取り組むべきは、この
機会を幸いと、これまでに譲歩を
重ねたTPP交渉の中身を日本も
ご破算にして、通商戦略を練り直
すことである。
TPPは農産物関税や食の安全で
の譲歩は農家や消費者の不信感を
高めた。さらに、米国の医薬業界
に巨額の利益をもたらす自由診療
の拡大、米国の進出企業が日本政
府に損害賠償の請求権を認めるI
SD条項の撤廃などが大きな問題
点と指摘されたのに、政府は正面
からそれに答えてこなかった。世
論調査では約6割の人が時期尚早
と反対している。
トランプ氏の当選で、唯一胸をな
でおろすことがあるとすれば、そ
れはTPPの崩壊である。これま
で政府が合意した中身は、明らか
に米国の言いなりになって、真の
意味での国益を損ねることばかり
だった。
昨年、東京・品川での政府による
交渉経過報告会を取材したことが
あるが、疑問ばかりが募った。そ
の後の政府の承認案では不安が払
しょくできなかった。その報告会
で、内閣府のS担当者は「ISD
条項は都市伝説にすぎない」と質
問者の不安が誤りであることを強
調していた。しかし、その後の政
府の発表資料でも何らその言を裏
付けるものは見当たらない。その
場しのぎの釈明だった疑いが高い
。メディア相手の報告会で虚偽答
弁するようでは、ほかにも国民に
明らかにできないような合意があ
ると疑われても仕方がないはずだ
。
したたかなビジネスマンだった次
期トランプ大統領はTPPを崩壊
させても、二国間の自由貿易協定
交渉で最大限、米国の国益を主張
する合意を求めるだろう。その主
な狙いは350兆円にものぼる郵
貯マネーであり、高齢化が著しい
医療分野への自由診療拡大にある
。日本の市場を売り渡さない覚悟
を持って、タフな交渉をしないと
、米国の会社の「食い物」にされ
かねない。郵便局で日本のがん保
険が売れずに米国系の会社だけを
認めるような状況が拡大するのを
許してはならない。
【2016・11・10】
(写真は郵便局に置かれたアメリ
カンファミリー社のがん保険パン
フレット)