「ていねいに説明していかなければ
ならない」「よく話し合って理解を求
めて」。意見が分かれる政治テーマに
ついて、メディアでは、こんな言葉が
よく使われる。沖縄・辺野古へのヘリ
基地移設、集団的自衛権行使容認など
を進める政府に対し、一見もっともら
しく感じさせる注文だが、実は現状追
認や先送りにつながりやすい危うい言
葉でもある。いずれも対立する論点は
明確に示されているのに、批判される
側が「聞く耳を持たぬ」と強固な姿勢
を貫いた結果、深い亀裂を生じさせて
いることを知るべきだ。メディアが突
くべきは、そんな非民主的な強引な政
治手法ではないか。
ある民放テレビの女性コメンテータ
ーが6日朝、昨日の翁長雄志沖縄県知
事と菅義偉人官房長官について、「官
房長官がわざわざ沖縄に行って説明す
るのだから、知事もよく話を聞かなけ
ればいけない」と意見を述べてた。こ
れまで政府側が何度も対話を拒否して
いた経緯を全然説明しない乱暴な物言
いに、開いた口がふさがらなかった。
今回の菅官房長官の沖縄訪問は、沖
縄の民意を無視し続けた批判の高まり
に抗しきれなかった表れであろう。
翁長知事は県民世論は背景に一挙に
反転攻勢に転じたように映る。「新基
地は絶対に建設できないと確信する」
「上から目線の『粛々と』という言葉
を使えば使うほど県民の心は離れ、怒
りは増幅していく」と強い調子で政府
対応を批判したのは当然かもしれない
。
「政治の堕落」とまで言われた政府
側こそが、追い込まれてしまった会談
になったように映る。この対談で、基
地反対の声は勢いを増し、政府はさら
に窮地に陥るのではないか。日米首脳
会談前のアリバイ作りが、裏目に出る
可能性がさえ出てきた。
これからメディアが提示すべきは、
ボーリング調査の停止や辺野古に代わ
る県外の代替施設の可能性などである
べきだ。「普天間の危険性除去には辺
野古しかありえない」という言説のま
やかしを厳しく論評し続けなければな
らない。
一見もっともらしい「ていねいに説
明する」という言葉は、集団的自衛権
を行使するための安全保障法制につい
ても、ひんぱんに使われる。しかし、
自衛隊による海外での武力行使が現行
憲法の枠内で許されるという論法は、
国民に理解が深まった気配はまったく
ない。
あの政府寄りの読売新聞の世論調査
でさえ、新たな安保法制の成立には57
%の人が反対、賛成はわずか32%にと
どまっている。
自衛隊員がより危険な戦闘に巻き込
まれる可能性が高まるのに、いくら政
府を説明を聞いても、その不安は払し
ょくできない。本質的な問題点を詰め
ないまま、「説明不足」と批判しても
、内容が変わらなければ、そのまま現
状追認の論議につながりやすい。
民意からかけ離れ、暴走する公権力
行使批判するのが、報道機関の最大
使命のはずだ。今こそ、その役割を強
く再認識すべき時である。
【2015・4・6】