寂寥感を募らす雪の日本海。荒波が
岩を打ち砕く景色が5時間近くも続い
た。いつかきっと再訪したいと思い続
けていた「みちのく冬紀行」の一人旅
がかなった。学生時代に友人らと旅し
て以来、46年ぶりだった津軽と秋田の
冬景色。鉄道ファンに人気の「リゾー
トしらかみ4号」(五能線)に乗り込
むと、電車は荒涼としたリンゴ畑を駆
け抜け、海沿いに走ると、眼下に細々
ながらたくましい人の営みがうかがえ
、飽きることなく、見入った。
「冬は北へ、夏は南へ」。旅の通が
そう教えるのは、厳しい季節だからこ
そ、その土地の人々の本来の生活ぶり
が見聞できるからだろう。約半世紀ぶ
りの冬紀行を思い立ったのは、昔と違
って時間と費用をみても格段に出かけ
やすくなったことが大きい。シニア世
代に向けて、JR東日本は4,5日間
を新幹線乗り放題で周遊できる「大人
の休日倶楽部」パス券を年数回発売し
ている。東北、上越、秋田、山形、長
野(今春から北陸)の各新幹線をどれ
だけ乗っても良く、しかもJR西日本
の北陸エリアもOKという断然お得な
乗車券(1万5000円)に魅かれて
、3年前から会員になっていたが、な
かなか利用できなかった。
この周遊券は東海道新幹線は利用で
きず、関西からは使い手が悪かった。
それを格安航空のピーチ便が変えてく
れた。まず関空から仙台に飛び、東北
4県を周遊、東京で半日過ごし、金沢
回りで関西に戻るコースを思い立った
。
ピーチ便で降り立った仙台空港周辺
はまだブルドーザーがあちこちで見え
、まだ復興途上であることを、うかが
わせる。被災地の現状を知りたい気持
ちもわいたが、別の機会ににした。
すぐに東北新幹線で盛岡駅に着くと
、その日の宿泊地八戸まではまだ時間
に余裕があったので、赤いノーズが特
徴の秋田新幹線「こまち」に乗り換え
、乳頭温泉に出向くことにした。
窓から雪の山頂が輝く岩手山(2
037㍍)を見上げる。小岩井農場で
は3日後、まもなく雪まつりが開かれ
るという。「こまち」は約30分で田沢
湖駅に着いた。秋田駒ヶ岳のふもとに
点在する乳頭温泉は白濁の湯で知られ
る名湯。人気NO1は「鶴の湯」は以
前新緑の季節に行ったことがあったの
で、休暇村の源泉にした。2㍍も積も
った雪を見なが温泉気分に浸る。関西
から半日もたたないのに秋田の名湯に
浸れ、心地よい気分になった。
翌日の青森・八甲田山にある酸ヶ湯
も古くから文人が絶賛した名湯だった
。男女混浴の「千人風呂」はヒバ造り
で年輪を感じさせる。近くで女性の声
が聞こえるが、湯けむりと近眼で良く
見えない。乳白色の湯は目に入ると、
少し痛く感じるほど成分が強い。30分
も入れないほどで、出てからも体はず
っとぽかぽかしていた。湯治場という
言葉がふさわしい。酸ヶ湯ではどこで
もブナ林の幹のまだら模様と雪が作り
だす景色が、まるで絵の中にいるよう
な気にさせる。
青森市内に戻り、飛び込んだ居酒屋
では、地元の客に「青森おでん」の由
来を教えてもらう。寒いからこそ、一
層人恋しくなり、話もはずむ。夜が更
けて宿への雪道を歩きながら、「冬は
北へ」という言葉を改めて実感した。
(写真は上から「リゾートしらかみ4号
」、五能線からの日本海、東北新幹
線と接続した秋田新幹線、岩手山、
乳頭温泉、酸ヶ湯温泉、八甲田山
のブナ林)
【2015・2・4】





