前回の続き。


話がそれてしまいましたが、では、舞台の話を! 一年前にこまつ座「日の浦姫物語」の舞台に出演し、今年も10月から開幕する、こまつ座「私はだれでしょう」に出演されるということで、もう、すっかりこまつ座メンバーって感じですね!


ーーーいやいやいや! そういうことを軽々しく言わないで(笑) 自分でも驚いています。こまつ座さんの舞台に2年連続で立てるって本当に凄いことなんですよ。だから、そんな、こまつ座メンバーだなんて・・・嬉しいけど。フフ。そして、今回は3年前に初めて立たせて頂いた作品の再演なので。凄いなあ。


こまつ座には2作品、3回目の出演ということですね?


ーーーですね。まだ稽古前なので、稽古場の空気を伝えることは出来ないのですが、井上ひさしさんの作品に触れると、なんか、人生のことだけじゃなくて、演劇というか舞台のこと、文化のことまで考えさせられるんです。


というと?


ーーーまあ、観て下されば(笑)、なにか分かるかも。でも、井上作品に限らず、秋本松代さんの「常陸坊海尊」を演った時も感じたのですが、僕は知らないことが多すぎるんです。

 戦争のことも高度成長のことも安保闘争のことも知らない。オウム、阪神大震災だって知らないですし、911ですらうろ覚え。そんな人間なんです。ちびっ子はコロナのことだって知らない、忘れていってしまう未来が来るはずですよね。

 だから、こうして出演出来たことをキッカケに、描かれる豊かな時代を旅していると、歴史や文化に触れることが出来ると同時に、忘れ去られていくことの恐ろしさのようなことを感じるんです。

 何も知らない不勉強なヤツが、舞台に立つんじゃねえと言われてしまえば、もう、僕は「すみません」としか言えないのですが・・・(笑)。

 でも、舞台がキッカケで出会えた。歴史を、文化を、生活を教えてくれた。僕にとっての舞台って、そういう場所なんです。すこし喋りすぎましたね。喉痛くなっちゃう。












なんだか、お話を聞いていると舞台に人生振り回されているようですが。


ーーー凄い言い方ですね。でも、まあ、そんなところですかね(笑)。みっともない人間の典型って感じですかね。


いやいや、凄いことだと思います。私なんて絶対役者さんなんて出来ませんから。


ーーー僕は、親からずうっと「役者なんて水商売なんだから」と言われ続けてきたので、そんな持ち上げないでよと思っちゃいます。あ、持ち上げてない? そんな恥ずかしい仕事出来ないよって意味でした? そうかそうか(笑) 正しいご意見!


ん? 何を一人で完結してるんですか?


ーーーえ、あ、すみません。でも、まあ、僕としてはそんな心持ちです。コツコツと頑張ります!


急に殊勝な感じになってしまいましたが(笑)、話題を戻しまして、今回の「私はだれでしょう」はどんなお話でしょうか。


ーーー昭和21年から物語は始まるのですが、戦後の日本放送協会、今のNHKを舞台にした物語です。まだ当時はテレビなどが普及していませんから、人々にとっての娯楽メディアが「ラジオ」だった時代です。ラジオに勤める人々と、ラジオの力に救いを求めた人たちの物語です。


どういった役柄なんですか?


ーーー僕は記憶喪失になってしまった復員兵の役です。当時、戦争の傷を負って記憶障害、精神疾患を患ってしまった方々が大勢いたそうです。そんな中、ラジオでは「尋ね人」という番組が始まり(実話)、戦争で引き裂かれてしまった家族などを、全国の視聴者とともに探していたそうです。僕の役はまさしく、そのラジオを聞いて、自分にも探している人がいたはずだと、自分は何者なのかを知るために日本放送協会を訪ねるという役です。


とてもリアルで、考えさせられそうですね。


ーーーちょっと文字で読むと堅苦しく感じそうですが、そんなことは全くなくて、記憶を探す過程でのドタバタがふんだんに盛り込まれているんです。歌あり踊りありドンデン返しありの喜劇です! 戯曲を読んでいるだけで爆笑してしまいます。


今回は再演ということで、3年前のキャストも全員同じ座組ですね。


ーーー全員が同じメンバーでの再演は奇跡だと思います。再演自体、僕は体験したことがなかったので、不安もありますが、楽しみですね。


前回と同じ事をされるんですか?


ーーー変な言い方ですね(笑)、そうですね、基本的には前回と同じ事をすると思います。分からないけど。


それは、どういった感覚なんでしょうか?


ーーー稽古前なので分からないですけど、今、僕の中で色々考えていることがあって、その中でこの再演というのは本当に本当に良いタイミングなんです。


どういうことでしょうか?


ーーー再演でキャストも同じということは、前回公演で作り上げた型のようなモノがある気がしているんです。もちろんゴールはありませんから、正解とは違うのですが、なんとなく人物造形なども含めた型という意味で。それをまず取り戻す作業から始まるのかなあと思っています。そして、その型を壊す作業、再構築していくのかなあなんて、頭の中だけで思っています。型があるから型破りになれるなんて言いますしね。

 だから、そんな型をゼロにして、型無しにするのではなくて、まずは前回公演と同じ事をしてみる。近づけてみることから始めたいなと思っています。


なるほど! そう考えると、さらに視野が広くなりそうですね。


ーーー分からないけど(笑)、まあ、同じ事をしてみるってのも悪くないんじゃないかなって、今は思っていますよ。


なんだか失礼しました。純粋に同じ事して飽きないのかなって思ってしまって(汗)


ーーーいやいや、本当にその通りだと思いますよ(笑)。飽きますよね。普通。


今回はこの未曾有の事件と言いますか、未知なるウィルスがどうしてもお客さんの頭をよぎってしまう公演になってしまうかなと思うのですが。


ーーー劇場に来ることがリスクという意見もありますが、僕の性格的には、日常生活には常に危険が潜んでいると昔から思ってまして。


どういうことですか?


ーーー僕は、極度のビビりなんですよ。小心者ってやつです。急に車が飛び出してきたらどうしよう。階段で後ろから誰かに押されたらどうしよう。電車が脱線したら、飛行機が・・って考えてしまう性質。こんな思考はよくないんでしょうけど(笑)。だから、もちろん今回のウィルスは心配ではありますが、僕としては、もっと怖いことがそこら中に転がっている(笑)。歩きスマホで階段を上り下りしてる人とかの方がよっぽど怖い! イヤホンしながら自転車に乗ってる人の方がよっぽど怖い! だから、そういった意味で劇場はこんな状況ですから、徹底した対策もされてますし、換気も含めて安全だと思っちゃう。劇場に来るまでの方が怖い(笑)。


確かにその通りですね。ついつい、今はウィルスに目がいきがちですが。


ーーー僕も、もう何度か劇場に行ってますが、なんなら、隣の席が空いてたりするので、超快適なんです! 落ち着いたら「コロナの時は快適だったな」なんてことを言う人が出てくるなと思うほど(笑)。


あはは(笑)、でも舞台好きの私からしてみたら、やっぱり劇場でやってくれるのは嬉しいですよ。


ーーーそれは僕も同じ気持ちです! でも、やっぱりいいなあと思うのは、あれだけ「再開待ってました!」的なことを言いながら、舞台の最前列でイビキをかいてるお客さんがいるということですねよね(笑)。


まあ、生理現象ですからね。


ーーーいやいや、全く責めてるワケじゃなくて、いいなあって思うんです! これが舞台だよなあって(笑)。


すみません、もう少しお話を伺いたかったのですが、お時間がきてしまいまして(汗)、申し訳ありません。


ーーー色々と、話したいことが溜まってたんですねえ。


ええ、なんたって、自作自演の一人二役ですからねえ。


ーーー写真的にも、とてもリアリティがありましたね。


すみません、最後に一言お願いします。


ーーー大きな声で、舞台来て下さい! なんてことを言うのは難しい世の中になってしまったのですが、先ほども言った通り、劇場、制作サイドは万全の状態でお客様を受け入れる体制は出来ています。僕的には、産まれたときから危険だらけの世の中なのですが、危険と隣り合わせの道の先にユートピアはあると思っているので、なんとか、毎日を生きていくことが出来ています(笑)。無理せずに、今は、頑張って生きていきましょうね。お稽古、コツコツ、頑張ります!





こまつ座「私はだれでしょう」