前回
初めてのお見合いを覚えていますか?①




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「ご注文お伺いします」




「アイスコーヒー、
 とレモンティーでお願いします」


かしこまりました、
と若い女性の店員はオーダーを持っていく。

「なんかすいません、
 だいぶ予定外になりまして」


「あ、いえ、気になさらないでください。
 今日はとても人、多いですよね」


お相手の背後、ややカジュアルな店内から、
休日の大阪駅を往き交う、
たくさんの人の流れが見えていた。


グランヴィア大阪19Fのラウンジは、予約で満席。
1Fのティーラウンジも、空き待ちの列が伸びていた。

そこで、来る途中に見かけた、
隣の喫茶店に移動を提案。

この喫茶店も満席ではあったが、
それほど待たずに席に案内された。




ただし、満席なので
隣の席の会話は聞こえてくる。



これはつまり、
自分たちのお見合いの会話も、
隣の席には、自然と耳に入るわけで。





「なんだか、緊張しますね・・・」


所在なさげに、やや俯き加減にそう言う。


「あ、自分もです・・・
 なんせこういうの初めてで」


「そうなんですか?
 私も今日が初めてです」


「あ。じゃあ初めて同士なんですね」


少し顔が綻ぶ。

キレイでスタイルが良い女性、
でも丸顔で、笑顔がかわいらしい。

お相手の佐伯さんは、少しだけ歳下の33歳。

相談所のサイトで検索して、
まっさきに「お気に入り」に登録した人だった。

つまり、
関西中の女性会員5000人以上の中で、
もっともお気に入りの女性、
ということになる。

そうしてお見合いを申し込もうとしたら、


まさかの、お相手から申し込みが来た。




これはもう、運命かもしれない--








そんなことを思い出していたら、
また緊張してくる。



(どんな話をしようとしてたっけ・・・)


来る途中に色々会話の流れを考えてきたものの、
時間ギリギリだったり、
ラウンジは満席だったり、
隣の喫茶店に移動したりしてるうちに、
頭からすっかり抜け落ちてしまった。





「・・・」




沈黙が流れる。



背筋を汗が伝っていく。









「佐伯さんのお仕事はなんですか?」







知ってる、フォトグラファーだ。
プロフィール見てないと思われてしまう。
なぜ聞いたのか。






「ええと、私は、」


「レモンティーのお客様」

店員が飲み物を持ってきた。






--つづく