30分前に着くつもりが、15分前になってしまった。


エレベーターに乗り込む。

奥の鏡面に映るのは、普段見慣れない
買ったばかりのスーツに身を包む自分。
美容院で「大人の男性」にしてもらったが、
急いできたせいか、少し乱れている。
もうお手洗いで、髪を整える時間はない。

エレベーターを降りる。


フロアの中央から店の様子をうかがうと、
席は全て埋まっているように見えた。




(これは、もしかしてかなり待つかも・・・)



再びエレベーターで地上に戻る。




グランヴィア大阪。

大阪駅直通、というより広大な駅とほぼ一体化しているホテルだ。
土曜の夕方ということもあって、老若男女さまざまな人で溢れていた。

エレベーターを降りると、
スーツやドレスに身を包む男女が、
そこかしこにいる。
おそらく、自分と同じお見合いだ。



ふと、ホテルの入り口に目を向けると、
和服の老婦人と連れ立って、
淡い白のドレスの女性がいた。

老婦人と目が合うと、
2人はこちらへ歩み寄ってくる。



「HiM様でいらっしゃいますか?」

歳を感じさせない、
はっきりとした声で尋ねられた。

「・・・あ、はい、そうです」

やや雰囲気に飲まれ、反応が遅れる。


「わたくし仲人の大原と申します」

深々とお辞儀をし、少し下がると、
隣の女性に目をやる。


「佐伯です。はじめまして」

微笑を浮かべている。
背の低い老婦人と並ぶと、
スラッとした女性が一層際立つ。


「HiMです。よろしくお願いします」


笑顔--のつもりだが、
おそらく、
自身の表情はぎこちなかった。






「この上でございますね、
 参りましょうか」


仲人さんを先頭に、
エレベーターに3人で乗り込む。


「本日はどちらから来られましたか?」


「ええと、○○駅というところからでして
 ここからですと30分ほどですかね」

「それは遠くから、ありがとうございます」

ごく簡単な質問だったが、
少しつっかえてしまう。
自分が思っているより、
よほど緊張しているようだ。









「あちらのラウンジでございますね」

フロアの中央に目を向ける。

「ではわたくしはこのあたりで」

恭しく頭を下げ、仲人の老婦人は
エレベーターで降りていった。




「参りましょうか」


「あ、はい」


参りましょうなどと、
普段使わない言い回しが出てくる。

お相手の方も、まばたきが多い。
やや緊張しているように見える。





ラウンジの受付は無人。
2人で中の様子を覗き込む。


それに気づいた男性店員が受付に入る。


「ご予約はされてますか?」


「え、と。予約はしていないのですが・・・」








なんとなく嫌な予感が、した。









「申し訳ございません。
 本日はご予約のお客様でいっぱいでして」






--つづく