古代インド 21+1 パンチャラ その4+1 スリヤミトラ(Suryamitra)の補足

 

以前、中期(紀元前50-紀元前1年頃)のミトラのつく王で、ファルグニミトラ・ブミミトラ・スリヤミトラの三人の王の銅貨を紹介していますが、このうちスリヤミトラの新たなタイプを入手したので、補足します。

 

 

7.スリヤミトラ(Suryamitra)補足

 

AE 3/4 Karshapana(?), 6.10g/19.3mm

 

表:両側に柱のある台座の上に、インドラ神の戦旗の頭部があり、その上に太陽が表現されている。太陽神スーリヤにちなむ王名スリヤミトラのコインに太陽のモチーフを用いている。王名の由来となる神をコインのデザインとするこの時期の原則に従ったもの。

 

裏:凹みの中、上段に三つのシンボルからなるパンチャラの紋章、下にブラフミ文字銘「Suyamitrasa」。(二文字目に特徴がある。)

 

重量単位は、1 Karshapanaが妥当なはずですが、重量的にはその3/4程しかありません。この時期のパンチャラコインは、ダブルカルシャパナ、1/2カルパシャナ、1/4カルパシャナと、何故か1カルパシャナのものが少なく不思議に思っていたのですが、今回のコインは、本来は1カルパシャナのはずが、かなり軽い為、わざと軽量化して1カルパシャナを避けたのではないかと想像が膨らみます。何らかのタブーだったのかもしれません。

 

元々、太陽神スリヤを象徴する太陽のモチーフが明瞭な個体が欲しい(できればダブルカルシャパナ)と思っていたので、小さいもののデザイン的には欲しいと思っていたものが入手できました。

 

この個体を加えて、スリヤミトラのコインは、ダブルカルシャパナ(セカンダリーシリーズ)、3/4(?)、1/2、1/4カルパシャナ(メインシリーズ)と以下のようになりました。

 

 

まだ不十分ですが、こうやって並べて見ると、1/2カルパシャナは今回の個体と同じデザインだと思われます。そうなると、1/8カルパシャナとしている個体は、これだけデザインが異なることになるため、王銘をスリヤミトラと読ませたのが誤りだったかもしれません。コンディションの良い個体が入手できないと確認できないので、とりあえずこのままとしておきます。

 

 

以下は、参考までに各コインの説明で、前回記事のコピーです。

 

 

① (参考)ダブルカルシャパナ・メインシリーズ

 

未保有ですが、入手したいコインですので、備忘録として参考までに、CoinIndiaより画像をお借りしました。

Suryamitra, AE Double Karshapana (main series), 16g/25mm (from CoinIndia HP)

 

表:両側に柱のある台座の上に、シンボル又は更に台があり、その上に太陽が表現されている。スーリヤは太陽神。

 

裏:凹みの中、上段に三つのシンボルからなるパンチャラの紋章、下にブラフミ文字銘「Suyamitrasa」。(二文字目に特徴がある。)

 

太陽は古代世界各地で神として崇められていたので、偶然の一致だと思いますが、この表のデザインは日本の神社のご神体・鏡をどうしても思い起こさせます。(神棚の両側に榊があり、中心に台の上に載った鏡のようです。)

 

スーリヤ神(ウィキより・PB)

 

 

こちらは日本の神社とは似ても似つかない神様です。因みに、このインドのスーリヤ神は、どう考えても西方由来ですね。バクトリア・プラトンのコインを思い出しました。

 

グレコバクトリア プラトンのテトラドラクマ銀貨の太陽神

 

 

② 1/2カルパシャナ・メインシリーズ

 

Suryamitra, AE 1/2 Karshapana (main series), 3.30g/14.7mm, ref. Mitchiner 4547 var.

 

表:両側に柱のある台座の上に、シンボルか何かが描かれている。(状態が悪すぎて判別不可。図録や資料も皆無。)

 

裏:凹みの中、上段に三つのシンボルからなるパンチャラの紋章、下にブラフミ文字銘「Suyamitrasa」(「Surya]ではなく「Suya」となっている)。二文字目の「ya」が漢字の「山」のようで特徴的(但し、ミッチナーの図録では真ん中の縦線は長くはない)。

 

 

③ 1/4カルパシャナ・メインシリーズ

 

Suryamitra, AE 1/4 Karshapana (main series)?, 2.45g/12.9mm, ref. Mitchiner n/a

 

表:両掌からフレアを出すスーリヤ神? 頭部からもフレアのようなものが二條出ているよう。

 

裏:凹みの中、上段に三つのシンボルからなるパンチャラの紋章、下にブラフミ文字銘「Suyamitrasa」? (銘が鋳潰れており判別しがたい。2文字目が「山」の鋳潰れた形状に見えるが、全体が5文字ではなく6文字のようにも見える。スリヤミトラサと読むのはちょっと強引かもしれない。)

 

 

⑤ ダブルカルシャパナ・セカンダリーシリーズ

 

Suryamitra, AE Double Karshapana(2nd series), 14.02g/22.9mm, ref. Mitchiner 4548

 

表:右に、柵に囲まれた木。左に丘のシンボル。

 

裏:凹みの中、上段に三つのシンボルからなるメインシリーズと異なるパンチャラの紋章、下にブラフミ文字銘「Suyamitrasa」。

 

 

スリヤミトラのコインに、1/2、1/4カルパシャナがあるとすると、この王を中期に分類したミッチナー図録の前提が崩れてしまいます。資料を調べても、スリヤミトラのダブルカルシャパナ以外の重量単位は確認できないので、間違って分類している可能性はありますが、少なくとも1/2カルパシャナの銘はスリヤミトラで間違いないと思います。

 

出典:Oriental Coins and Their Values, The Ancient & Classical World, 600 B.C. – A.D. 650, by Michael Mitchiner, 1978年 p. 562

 

注)過去の記事で、「メインミント」・「2番目のミント」という表現を使いましたが、ミントが異なるかははっきりしていないので、「メインシリーズ」・「セカンダリーシリーズ」という表現に変更します。

 

セカンダリーシリーズが何故登場したのか?一番可能性が高いのは、流通地域が異なっていたのではないかという推測です。パンチャラについては、首都のAhichhatraのある北パンチャラと南パンチャラとういう言い方をすることもあるので、メインシリーズが北パンチャラ、セカンダリーシリーズが南パンチャラと言いたくなるのですが、そのような具体的な地域に当てはめる説は唱えられてないようです。これは出土分布がこの考え方をサポートしてないからだと考えられます。

 

ただ、メインシリーズとは異なるパンチャラの紋章のようなものが刻まれているので、同じパンチャラ王を戴く、パンチャラ本国とは異なる親戚関係にあるような地域があったと考えるのが自然のような気がします。ジャナパダ時代も、クルとパンチャラの2国を近い関係なのでクル・パンチャラと呼んでいたので、この考え方も机上ではしっくりくるのですが、同じように実地での出土状況でサポートできてないのだと思います。

 

一方、セカンダリーシリーズはダブルカルシャパナしかないという事の理由が良く分かりません。地域によって分けていたなら当然、少額貨幣も異なるデザインで作ったはずです。

 

ただ、ダブルカルシャパナしか確認されていない王もいるので、これも考えると、更に謎が深まります。

 

セカンダリーシリーズやダブルカルシャパナは記念貨的な発行だったという事もあり得るかもしれません。

 

又、メインシリーズ及び王名はヒンズー教又は地場の伝統的信仰に基づいていると思われるので、非ヒンズー教徒、多分仏教徒、に配慮したデザインのコインも並行して流通させた、又は仏教に関わる何らかの記念に発行されたという事もあるかも知れません。

 

この考え方の弱い点は、柵に囲まれた木や丘のシンボルは仏教的なものかはっきりしない事です。これらのシンボルはポストマウリヤ朝時代の古代インドコインでは地域を問わず広範囲に使用されていますが、必ずしも仏教的なものとは限らないと思われます。もちろん、柵に囲まれた木は菩提樹、丘は仏塔という解釈もできなくはないですが、そうだとすると、ポストマウリヤ朝時代の古代インドのコインのかなりが仏教の影響を強く受けたデザインになっていることになり、それは違うような気がします。

 

ついでに、パンチャラのコインで不思議なのは、1カルパシャナ単位のコインがあまり多くない事です。1/2カルパシャナが最も多く、次が1/4カルパシャナ、そして、ダブルカルシャパナや1/8カルパシャナがあるのに、1カルパシャナ単位のコインは後期のバヌミトラ、アグニミトラ、及び前期のミトラのつかない王等、発行した王の数が限られています。

 

古代インドのコインは、一般的には、あるはっきりしたルールに基づいて発行されてないように思われカオスを感じるものが多いのですが、パンチャラのコインはある決まった規格・ルールが長い期間守られ続けているようで、珍しくカオスを感じないのですが、それでも謎多きコイン群です。

 

 

 

参考:

古代インド 21 パンチャラ その4 中期ミトラ王~ダブルカルシャパナ銅貨の登場 | アジア古代コイン (ameblo.jp)

Oriental Coins and Their Values, The Ancient & Classical World, 600 B.C. – A.D. 650, by Michael Mitchiner, 1978年

The COININDIA Coin Galleries: Panchala Kingdom

Exciting facts about Panchala Rulers and their Ancient Coins | Mintage World

Ancient Panchala Pre Kushana Phalgunimitra Copper Unit | Virasat Auctions

Bhumi (goddess) - Wikipedia Sudarshana Chakra - Wikipedia

スーリヤ - Wikipedia

 

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