どうしてこんなにレアな古代貨がオークションに?

 

先週のSimo-Auctionは驚きでした。

 

自分の興味がある分野のグレコバクトリア・インドグリーク、クシャン、そしてその周辺(後代)のグプタ朝等の金貨・銀貨がまとまって出品されていて、特に数種、海外のオークションでもなかなか見ない珍しいタイプがありました。状態は全体的には今一つですが。

 

しかも、恥ずかしながらSimo-Auctionすら過去に全く知らなかったオークションです。主催者を調べてみると、岐阜県可児市の株式会社シモセキという、ストリートビューで見る限りは町の骨董屋さんなのか、単なる個人の住居に見えるところです。骨董界隈では著名な会社なのでしょうね。骨董業界のつながりで、たまたまコレクター品がどこかから出品されたのかもしれません。

 

今回はじめて気が付いた時には、スタート価格も・入札価格も低く、「日本ではあまり人気のない古代貨で、状態の悪い裸コインなので、もしかしたら海外オークションより安く取れるかも!自分には高嶺の花と思っていたものが、今回手が届くかもしれない!円安でもあるし。」と、色めき立ったのですが、結果は全般的にプレミアム価格となっていました。

 

特に珍しいと思われ個人的に注目したものをピックアップします(写真はオークションよりお借りしました)。

 

 

Lot 380 古代インド・クシャン朝・カニシカI世(AD130-158)、約7.8g(オークションの説明原文抜粋というか、殆どこれだけ!)開始価格15万。

 

 

これは、以前自分のブログで取り上げたことがあるカニシカI世の金貨で裏面がManaobagoという神で、多分、現存数6枚?(少なくとも一桁?)のものです。これよりグレードの良いEFが昨年の海外オークションでUS$15,000、一昨年choice VF がUS$7,500で落札されています。

 

多分VF程度と思われますが、今回落札価格は手数料含まずに85万円です。

 

この価格が高かったのか安かったのかは判断できません。レアな古代貨はそもそも市場に出ることが極めて少ないので、たまたま出た時の落札価格はサンプル数が少なすぎて判断できないからです。コンディションの差がどの程度価格に反映されるのかもわかりません。

 

大英博物館が2枚、世界中でもあまり現存数がないような金貨が何故日本のオークションに、しかも一見町の骨董屋さん風の主催オークションで出るのか?頭がクラクラしました。

 

 

Lot 386 古代インド・グプタ朝、7.9g 開始価格6万。

 

 

これも、2019年の海外オークションで、EFながらUS$17,000 で落札されたものと同じタイプと思われます。クマラグプタI世。但し、この個体はひびが入っていて状態はかなり悪いのでは?

 

INDIA, Gupta Empire. First Dynasty. Kumaragupta I Mahendraditya. Circa AD 413-455. AV Dinar (20mm, 8.25 g, 12h). Tiger-Slayer type. Kumaragupta, standing facing, head left, drawing bow on tiger to left, falling backward; ku in Brahmi below arm / The goddess Gānga standing left on mākara, presenting diadem to peacock standing before and holding lotus; tamgha to left; ajitamahendra in Brahmi to right. Bayana 1708 = BKB 181; Kumar Variety A.2 = BMC Guptas 1 = BM Inv. 1910, 0403.54 (same dies); Altekar Variety A; Triton IX, lot 1196 (same dies). EF, toned. Rare.

 

表面は虎(左下縁沿いの7時から9時付近)に矢を射かける王で、裏はマカラに乗るガンガー神。このタイプはデータベースでもほとんど出てきません(裏がガンガーでなくラクシュミもあるがこちらはそこまで高くない)。今回の落札価格は、44万円。

 

状態が悪いので価格は伸びなかったのですが、タイプ自体はかなり珍しく、お目にかかるチャンスは殆どないものだと思います。グプタ朝のコインは良く分からないので素人の推測ですが。

 

個人的には、南ビルマ・マルタバン湾のライオンに襲い掛かる象・マカラに乗るガンガー神の銀貨(↓)にデザイン上通じるものがあるので興味はありましたが、かなりひびが入っているものに、珍しいコインとは言え、ここまでの価格は厳しいです。

 

マルタバン湾沿岸 2 | アジア古代コイン (ameblo.jp)

 

 

 

Lot 389 クシャン朝2g(これだけの説明!)開始価格6万。

 

 

これは、クシャン朝ヴィマ・カドフィセスの1/4ディナール金貨。これも比較的珍しいタイプですが、表の王の顔が摩耗で潰れています。それでも、落札価格48万円!

 

 

 

 

Lot 392 クシャン朝2g。開始価格6万円。

 

 

これは、カニシカI世で、裏が火の神Athoshoの1/4ディナール金貨。たまに海外オークションでも出ています。これは多分状態は良さそうですが、落札価格30万でした。ちょっと高いような?

 

 

レアではないクシャン・フビシュカやバスデバの金貨も、国際市況と比べると非常に高く落札されていました。

 

 

よくあるパターンで説明の間違いも:

 

Lot 398 古代ギリシャ 17.9gとの説明

 

 

これは、大月氏/クシャン朝のへライオス銘のテトラドラクマ銀貨です。発行者はクシャンの初代クジュラ・カドフィセスと考えられています。肖像が摩耗で不明瞭ですが、落札価格46万円。こんなに高かったかな~?

 

これ(↓)は私のコレクションのものですが:

 

 

 

 

Lot 411 バクトリア バクトラ? アテネの模倣貨 開始価格1万円。

 

 

 

これは違うと思うのですが。私も以前バクトリアのアテネ模倣貨は記事にしましたが、このようなタイプは知る限りでは見たことないですし、全体的な印象は古代ギリシャのルカニアかどこかのような気がします。表面アテナ神?のヘルメットが同じような特徴のものが古代ギリシャのどこかの都市であったような? ギリシャ文字銘も何か不自然ですので、若しかしたら当時の模倣貨かもしれません。さすがにこれは落札価格1万7千円でした。

 

後はインドグリークのアポロドトスのドラクマ銀貨で状態が良いものがありました。これだけは価格的にはリーゾナブルな結果だったと思います。

 

更に、ササン朝ペルシャ、セレウコス朝、プトレマイオス朝、共和制ローマ等の古代貨が、状態は玉石混交で出品されていました。

 

 

 

小耳にはさんだ情報では、どうも、ある日本の著名なコレクターの図録の現品らしいとの事。そのような理由で、見慣れないレアなコインがまとまって出品され、由来を知っていた人がかなりのプレミアムを覚悟で入札したのかもしれません。自分の相場観がアップデートされていないのかもしれませんが。

 

ただ、著名なコレクターの図録現品であれば、もう少しちゃんとした説明を載せればよいのにと思いますが、間違いまであるのは不思議です。主催者がこの分野は全くの素人であるのは見ただけで分かってしまいます。日本の古金銀や骨董はそれなりにいいものがちゃんとした説明付きで出ていたようですので、図録の説明を参考に体裁は整えられたはずだとは思いますが…。

 

説明に問題がある場合は、落札価格が抑えられることもあるので、必ずしも悪い事ではないですが、今回はそうはなりませんでした。日本もこの分野のコレクターは意外に少なくないのかもしれませんね。

 

 

CNG Triton XXVの結果 | アジア古代コイン (ameblo.jp)

 

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