インドグリーク 10:ディオメデス (Diomedes在位紀元前115-105年頃、又は、紀元前95-90年頃))

 

ディオメデスは、前回ご紹介したフィロキセノスの後継者で、パロパミソス地方(注)とアラコシアの一部を主たる領土としていたようです。

 

ディオメデスの治世前後に、インドグリーク王国はインダス川をはさんで東西に分裂します。

 

また、彼の治世の終わり又はその後、スキタイ族がアフガニスタン南部を東進し、アラコシア地方に侵入してきます。

 

インド重量単位のバイリンガル銅貨

 

 

Diomedes. Circa 115-105 BC. Æ Quadruple Unit(?) (20.8 x 18.2 mm, 8.85 g, 12h). The Dioskouroi standing facing, each holding spear / Zebu bull standing right; monogram below. Bopearachchi A; Bopearachchi & Rahman 487-8; SNG ANS 1232-5, Mitchiner 1970.

 

左の個体:

 

表:槍を持つディオスクーロイ。ギリシャ語銘「BAΣIΛEΩΣ ΣΩΤΗΡΟΣ ΔIOMHΔOY」。

裏:コブウシ。カローシューティ語銘「Maharajasa tratarasa Diyumetasa」。下にモノグラム(プシュカラバーティミント)。

 

右の個体は同じデザインのものですが、モノグラムが不明瞭。Panjhir Mint?  (20.3 x 19.3 mm, 8.38 g, 12h)

 

 

自分のコレクションはこのタイプのみなので、以下アーカイブより代表的なものを紹介します。

 

 

インド重量単位のバイリンガルテトラドラクマ銀貨(ディアデムタイプ)

 

Diomedes Soter. Circa 115-105 BC. AR Tetradrachm (19mm, 9.88 g, 12h). BAΣIΛEΩΣ ΣΩTHPOΣ ΔIOMHΔOY, diademed and draped bust right / Maharajasa tratarasa Diyumitasa in Kharosthi, the Dioskouroi on rearing horses right, holding palm fronds and spears; monogram to lower right. Bopearachchi 3A; Bopearachchi & Rahman –; SNG ANS 1215; MIG Type 347a; HGC 12, 279, Mitchiner 1962. In NGC encapsulation 2051085-002, graded AU, Strike: 5/5, Surface: 4/5.

CNG Triton XXV (Jan 11, 2022) Sold For $ 7,000.

 

表:ディアデムを巻く王の胸像。ギリシャ語銘「BAΣIΛEΩΣ ΣΩΤΗΡΟΣ ΔIOMHΔOY」。

裏:馬上で槍を持つディオスクーロイ。カローシューティ語銘「Maharajasa tratarasa Diyumetasa」。右下にモノグラム(Demetrias in Arachosia・現在のアフタにスタン南東部ガズニー。)。

 

(同じデザインのドラクマ銀貨もあります。)

 

 

インド重量単位のバイリンガルテトラドラクマ銀貨(ヘルメットタイプ)

 

Diomedes Soter. Circa 115-105 BC. AR Tetradrachm (26mm, 9.75 g, 12h). BAΣIΛEΩΣ ΣΩΤΗΡΟΣ ΔIOMHΔOY, diademed, draped, and cuirassed bust right, wearing crested helmet adorned with bull's horn and ear / “Maharajasa tratarasa Diyamitasa” in Kharosthi, the Dioskouroi, holding palm fronds and spears, on horses rearing right; monogram to lower right. Bopearachchi 5A; Bopearachchi & Rahman –; SNG ANS 1220, Mitchiner not listed. 

CNG 94, Lot: 843( Sept. 18, 2013), Sold for $3,000

 

王の胸像がヘルメット以外は同上。

 

(同じデザインのドラクマ銀貨もあります。)

 

 

 

インド重量単位のバイリンガルテトラドラクマ銀貨(槍を持つタイプ)

 

Diomedes Soter. Circa 115-105 BC. AR Tetradrachm (27mm, 8.66 g, 12h). Diademed heroic bust left, seen from behind, wearing crested helmet adorned with bull's horn and ear, aegis on shoulder, brandishing spear / The Dioskouroi, holding palm fronds and spears, on horses rearing right; monogram to lower right. Bopearachchi 7A; Bopearachchi & Rahman 485 (same obv. die); SNG ANS 1227 (same dies), Mitchiner 1967.

CNG 94, Lot: 844 (Sept 18, 2013) Sold for $1,800

 

王の胸像が槍を持つ以外は同上。

 

 

インド重量単位のバイリンガルドラクマ銀貨(ディアデムタイプ)

 

Diomedes Soter. Circa 115-105 BC. AR Drachm (16mm, 2.46 g, 12h). Diademed and draped bust right / The Dioskouroi standing facing, each holding spear and scepter; monogram to inner left. Bopearachchi Série 8A; Bopearachchi & Rahman –; SNG ANS 1228 (same rev. die).

 

表:ディアデムを巻く王の胸像。ギリシャ語銘「BAΣIΛEΩΣ ΣΩΤΗΡΟΣ ΔIOMHΔOY」。

裏:槍と笏(しゃく:王権の象徴)を持つディオスクーロイ。カローシューティ語銘「Maharajasa tratarasa Diyumetasa」。右下にモノグラム(Panjhir mint)。Panjhirミントのものは少ない。

 

 

インド重量単位のバイリンガルドラクマ銀貨(ヘルメットタイプ)

 


Diomedes Soter. Circa 115-105 BC. AR Drachm (18mm, 2.34 g, 12h). Diademed, draped, and cuirassed bust right, wearing helmet adorned with bull's horn and ear / The Dioskouroi standing facing, each holding spear and scepter; monogram to inner left. Bopearachchi 9A; Bopearachchi & Rahman 486 var. (monogram to inner right); SNG ANS 1230; HGC 12, 280, Mitchiner1969.

 

王の胸像がヘルメット、モノグラムがKapisa mint以外は同上。

 

 

槍を持つ胸像のドラクマ銀貨はアーカイブで見つかりませんでした。(Mitichinerの図録にも該当なし。)

 

 

ディオメデスのコインのミントは、Panjhir、Kapisa、Demetrias in Arachosia、Pushkalavatiが知られています。

 

 

ディオメデスは、王の胸像のデザインの定番3セット(ディアデム、ヘルメット、槍)及びディオスクーロイのモチーフ(特に騎乗で槍を持つディオスクーロイ)と言ったコインのデザインの特徴から、グレコバクトリアのエウクラティデスの血統であることが強く示唆されているように感じます。もちろん、直接の子孫ではなくても大王であったエウクラティデスの威光を自身の権威付けに利用したという事も考えられますが…。 他の王のコインでもエウクラティデスを意識したと思われるものもいくつかありますが、ディオメデスは特にその傾向が顕著です。

 

バクトリアのコイン10(エウクラティデスI世・II世) | アジア古代コイン (ameblo.jp)

 

インドグリークのコインは、過去の王のものを参考にしたデザインが多く、コレクターから見るとどれも似たようなデザインのもので面白みに欠ける面もありますが、逆に、コインのデザインから王統や相互関係を推測できるという面もあります。

 

コイン上のモノグラムによって支配地域の変遷がトレースできる点も併せて、文献記録や遺跡等の考古学的資料が少ない中で、コインが歴史の生き証人となっている点は面白いと常々思っています。ミントの分布についてMitchinerは以下のように分かりやすい表を示しています。

 

インドグリーク西部諸王(フィロキセノス~ディオメデス~アルケビオス等~ヘルマイオス)のミント分布(諸王の順序については諸説あり)

出典:Oriental Coins and Their Values, The Ancient & Classical World, 600 B.C. – A.D. 650, by Michael Mitchiner, 1978年

 

 

(注)パロパミソスは元々アケメネス朝の東端の州の名称で、ガンダーラ地方(現在のカブール・ペシャワル・タキシラ)、バンヌー、スワート渓谷等の地方を指します。時代によって範囲は若干動くようです。尚、タキシラはインダス川の東で現在でもパンジャブ州内に位置し、通常はガンダーラ地方には含めないと思いますが、時代によっては含む場合もあるとの事。

 

カブール以外はパキスタンの北西部になります。以下の地図で、タキシラ(Taxila)はイスラマバードの西、バンヌー(Banu)はペシャワル(Peshawar)の南西、スワート渓谷はペシャワルの北方のマルダン(Mardan)が中心都市です。尚、ミント名で良く出てくるプシュカラバーティはペシャワルの東郊外で現在のチャルサダ(Charsadda)でガンダーラ地方の首都であった当時の遺跡が残っています。スワート渓谷もガンダーラ時代の仏教遺跡が多く、クシャン朝のコインが、インドグリーク・インドスキタイ・インドパルチアコインと共に沢山出土するところです。

 

ついでに、ミント名で出てくるKapisaはカブールの北方に位置します。Panjhirはさらに北で、ヒンズークシ山脈中の東部です(バクトリアの南隣)。

 

パキスタンの地図(出典:WallpaperCave.com)

 

 

参考:Oriental Coins and Their Values, The Ancient & Classical World, 600 B.C. – A.D. 650, by Michael Mitchiner, 1978年

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(続く)

 

 

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