インドグリーク3:メナンドロスI(在位紀元前155-130年)1

 

メナンドロスI世については、「インドグリーク1:概説 インドグリーク1:概説 | アジア古代コイン (ameblo.jp)」で既に紹介していますので詳細は省きます。

 

仏典「ミリンダ王の問い」のくだりで、「ミリンダ」とは「メナンドロス」がインド風に訛ったものとの解説がされています。

 

余談ですが、私は「ミリンダ」と聞くと昔ペプシコが売っていた炭酸飲料「ミリンダ」を思い出します(コカ・コーラのファンタみたいなものです)。アメリカの大手飲料メーカーが、メナンドロスI世にちなんで、しかもそのインド訛をブランド名に採用していたのか!と驚きましたが、ググるとやはり勘違いで、「ミリンダ」とはエスペラント語(この言語も最近聞くことはなくなりました。はるか昔はエスペラント語の国際放送を行っていた欧州のラジオ局がありましたが…。)で、「不思議な・素晴らしい」という意味だそうです。

 

彼のコインは種類も現存数もグレコバクトリア王国エウクラティデスと並ぶ、というより凌ぐ規模で、グレコバクトリア・インドグリーク諸王国の中で最大だと思われます。出土地も広範囲に及んでいて、ローマコインと共にイギリスでも出土したとの情報もあります。

 

自分のコレクションは力不足ですので、アーカイブからのものも含めていくつかを紹介します。

 

 

(参考1)スタテル金貨


Menander I Soter. Circa 155-130 BC. AV Stater (20mm, 8.57 g, 1h). Draped bust of Athena right, wearing crested helmet adorned with wing; all within bead-and-reel border / Owl standing right on ground line, head facing; A to left; all within bead-and-reel border. Bopearachchi 1A; MIG Type 211a (same obv. die as top example); SNG ANS 682; Boston MFA Supp. 312; Treasures of Ancient Bactria (Miho Museum), 46a (same dies); HGC 12, 494. EF, lightly toned, area of weak strike on obverse at periphery. Extremely rare, one of 13 specimens known.

CNG 102, Lot: 706. May 18, 2016. Sold for $60,000. This amount does not include the buyer’s fee.

 

表:ヘルメット姿のアテナ。王銘無し

裏:フクロウ。王銘無し。

 

現在存在が知られているのは13枚で、型は表4種類・裏5種類が知られているものの、そのうちのいくつかは贋物の可能性があるとの事です。

 

滋賀県甲賀市のMiho美術館にはこのコインも含めて、メナンドロスのコインが収蔵されているそうですが、真贋については確認が必要との事。

 

上記以外にも小型の金貨が知られています。

 

 

以下、自分のコレクションより:

 

 

 

①    テトラドラクマ銀貨

 

Menander I Soter. Circa 155-130 BC. AR Tetradrachm (27.2mm, 9.82 g, 12h). Diademed and draped bust right / Athena Alkidemos advancing left; Σ and monogram flanking. Bopearachchi 12A; HGC 12, 181, Mitchiner 1765.

 

表:ディアデムを巻く王の胸像。ギリシャ語銘「BΑΣΙΛΕΩΣ ΣΩΤΗΡΟΣ ΜΕΝΑΝΔΡΟΥ」。

裏:イージスとサンダーボルトを持つアテナ神。Σとモノグラム(プシュカラバーティミント)。カロシュティ語銘「Maharajasa tratarasa Menadrasa」。

 

裏面のアテナ神は、民の救世主としてのアテナ神(Athena Alkidemos)で、メナンドロス以降のインドグリークコインでは好んで用いられるデザインです。

 

メナンドロスのインド重量単位のバイリンガルテトラドラクマ銀貨は三種ありますが、そのうちの一つです。他の二タイプの一つは、ヘルメットを被った王の胸像のもの(参考2)と投げ槍を構える王の胸像(参考3)のものです。王の顔の向きは異なりますが、丁度、グレコバクトリア王国のエウクラティデスのテトラドラクマ銀貨3種類と同じパターンです。

 

尚、アポロドトスI世のところでも触れましたが、メナンドロスもバクトリア地方は版図外ですが、何故かアテネ重量単位のモノリンガルテトラドラクマ銀貨(参考4)も発行しています。

 

 

(参考2)インド重量単位バイリンガルテトラドラクマ銀貨 ヘルメットタイプ

 

出典:CNG eAuction 436, Lot: 287. (ref. Bopearachchi 15B; HGC 12, 182., Mitchiner 1776)

 

表面の王がヘルメット姿の肖像になっている以外は上記と同じです。

 

 

 

(参考3)同テトラドラクマ銀貨 投げ槍タイプ

 

出典:CNG eAuction 443, Lot: 206 (ref. Bopearachchi 8C; HGC 12, 180, Mitchiner 1783)

 

表面の王が盾を肩に・投げ槍を構える姿の肖像になっている以外は上記と同じです。

 

 

3種類共に入手は容易でテトラドラクマ銀貨としては価格も高くないコインです。

 

 

(参考4)アテネ重量単位のモノリンガルテトラドラクマ銀貨

 

出典: CNG 72, Lot: 1042 (14 June 2006. Sold For $2300.)

BAKTRIA, Indo-Greek Kingdom. Menander I. Circa 165/55-130 BC. AR Tetradrachm (13.28 g, 11h). Attic standard. Diademed and draped bust right / Athena Alkidemos left; monogram in inner left field. Bopearachchi Série 11A = MIG Type 212b var. (monogram; same obv. die); SNG ANS -. VF, eroded surfaces. Apparently an unpublished variety of an extremely rare type.

 

アテネ重量単位のテトラドラクマ銀貨としてはやや軽い13g強です。このタイプは非常に希少です。

 

 

②  バイリンガル16チャルコイ銅貨(16単位銅貨)

 

Menander I Soter. Circa 155-130 BC. Æ Sixteen Unit (29.5x27.2mm, 46.29 g, 12h). Draped bust of Athena right, wearing crested Boiotian helmet / Horse rearing right; monogram below. Bopearachchi 24A; HGC 12, 199. Mitchiner 1796.

 

40gを超える大型銅貨です。

 

表:ヘルメットを被るアテナパラス。ギリシャ語銘「BΑΣΙΛΕΩΣ ΣΩΤΗΡΟΣ ΜΕΝΑΝΔΡΟΥ」。

裏:後脚立ちする馬。カロシュティ語銘「Maharajasa tratarasa Menadrasa」。モノグラム(プシュカラバーティミント)

 

 

③  バイリンガルドラクマ銀貨 

 

Menander I Soter. Circa 155-130 BC. AR Drachm (16.7mm, 2.34 g, 12h). Diademed and draped bust right / Athena Alkidemos advancing left; monogram to left; gorgoneion on shield. Bopearachchi 13H; HGC 12, 191, Mitchiner 1769.

 

表:ディアデムを巻く王の胸像。ギリシャ語銘「BΑΣΙΛΕΩΣ ΣΩΤΗΡΟΣ ΜΕΝΑΝΔΡΟΥ」。

裏:イージスとサンダーボルトを持つアテナ神。モノグラム(プシュカラバーティミント)。カロシュティ語銘「Maharajasa tratarasa Menadrasa」。

 

上記①(テトラドラクマ銀貨ディアデムタイプ)と同タイプのドラクマ銀貨です。

 

 

Menander I Soter. Circa 155-130 BC. AR Drachm (16.6mm, 1.56 g, 12h). Diademed, draped, and cuirassed bust right, wearing crested helmet covered with pelt of scales and adorned with wing / Athena Alkidemos advancing left; monogram to right. Bopearachchi 16E; HGC 12, 193, Mitchiner 1779 var. (Panjhir mint).

 

モノグラム以外は、上記(参考2:テトラドラクマ銀貨ヘルメットタイプ)のドラクマ銀貨。

 

 

Menander I Soter. Circa 155-130 BC. AR Drachm (18.1mm, 2.14 g, 12h). Diademed heroic bust left, seen from behind, wearing aegis and brandishing spear / Athena Alkedimos advancing left, holding shield and thunderbolt; monogram to right. Bopearachchi 7E; HGC 12, 187, Mitchiner 1789 (Pushkalavati mint). 

 

上記(参考3:テトラドラクマ銀貨投げ槍タイプ)のドラクマ銀貨。

 

 

ドラクマ銀貨は発行数・現存数とも非常に多く、各ミントのモノグラムのものの入手が可能です。私のコレクションの状態は良くありませんが、状態のかなり良いものも市場で比較的容易に入手できます。小さいので見栄えは今一つですが。

 

ミッチナーの資料では、メナンドロスのミントは、Bamian, Panjhir, Kapisa, Demetrias in Arachosia(以上現在のアフガニスタンヒンズークシ山脈以南)、Pushkalavati, Kohat, North Chach, South Chach, Taxila,(以上現在のパキスタン)及びJammu(現在のカシミール地方)が記録されています。

 

今回はここまで。次回は、メナンドロスの銅貨を中心に紹介します。

 

 

(続く)

 

 

参考:Oriental Coins and Their Values, The Ancient & Classical World, 600 B.C. – A.D. 650, by Michael Mitchiner, 1978年

CNG

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