Journal of the Oriental Numismatic Society の最新刊が最近届きました。No.243/Spring 2021号です。この東洋貨幣学会とでも日本語で呼べると思いますが、ニュースレターの記事内容は非常に専門的で(時には専門的過ぎて)面白いのですが、アドミニがあまりうまくいっておらず、ニュースレターも送られたり送られなかったり、又、今回のように大幅にスケジュールが遅れることもいつものことです。

 

さて、この最新刊の中で、ビルマのテナセリム地方の大型錫銭がインドのアッサム州で大量に出土したとの記事が出ていました。

 

JONSの表紙。(テナセリム大型錫銭は一番左の写真。因みに、真ん中は古代インド北部のYaudheyaの銅貨です。将来古代インドのコインを取り上げるときに紹介します。一番右は、1890年、アフガニスタンで最初にマシンミントにより発行された、Abdur Rahman rupee。これは私の興味の対象外です。)

 

43.07g/66mm

 

これは以前紹介した、一部が鹿・一部がライオンの伝説の動物「ト-」のタイプのものです。(丁度リフォーム工事に来た工務店のビルマ人実習生に聞いたら「トー」と「ド-」の間のような音でした。声調がビルマ語にあるのかは知りませんが、中国語の第四声のような声調)

テナセリム地方 3 | アジア古代コイン (ameblo.jp)

 

記事によると、2020年8月にインドアッサム州のスンダルプール村の水田から、テナセリムの大型錫銭が31枚出土したとの事。すべて「トー」のタイプのものですが、写真で見る限り、同じ型からのものではなく、様々な型から作られた微妙に異なるデザインのものミックスの様です。一か所に固まっており、容器は多分木や布のような腐敗しやすいものだったと思われます。残念ながら完品はなく、殆どが欠け・破片となっています。(欧州博物館収蔵品やオークションで見かける個体の方が状態ははるかに良いです。)

 

アッサム地方には、昔ビルマ軍が侵攻し英東インド軍に敗れて撤退していった時に食料に困り銀貨で米を沢山買い付けたという伝承が残っているそうです。錆びてなければ錫も銀白色をしているので、現地の人は銀貨と思ったのでしょう。その伝承に関連するものかもしれません。

 

テナセリム地方の大型錫銭は、その大きさの為、個人的にはどうやってコインとして機能していたのだろうか?本当は寺院への寄進用の絵馬のようなものだった可能性もあると思っていましたが、今回の出土でやはりコインとして機能していたという事がよりはっきりしたと思います。

 

又、この記事は、ビルマ国外で初めての出土としていますが、オークション情報では過去にマレーシアのクダー州でもホードの発見があるため、実際は国外2例目です。テナセリム地方は、ビルマ最南部でマレーシアのクダー州は近いのですが、今回出土したインドアッサム州はかなり遠いので、ビルマ本土をはるかに超えてインドにまで流通していたとはちょっと意外でした。

 

「トー」タイプのテナセリム地方の大型錫銭は、オークション上では多種多様なタイプが出てきていますが、今回の出土品も様々なタイプが含まれており、当時かなりの数量が発行され、広い地域で流通していたものと思われます。「トー」タイプは人気があるので、なかなか種々なタイプの入手は進んでいませんが…。

 

グワーハーティー大学で金属分析を行った結果、錫96.82%、カルシウム1.5%、銀1.47%。シリコン0.22%だったそうです。錫の純度の高さや鉛が不検出というのが、インドネシアやマレーシアとかなり違います。

 

裏面のインスクリプションは、以前の記事では、図録やオークションでの説明文に従ってパーリ語のビルマ文字表記で「大いなる安らぎ(幸福)の町(city (of) great rest or happiness)」としていましたが、この記事ではパーリ語の文法に基づいて正確に読むと、「偉大で、居心地の良い町(the great and comfortable city)」と書かれているとの事です。パーリ語は元々インドの古代言語ですので、インド人の研究者の解説が正しいと思われます。

 

 

尚、ONSはバックナンバーのPDF化がやっと進んで、一回のニュースレター中の記事の分量は少ないですが、以下のページで会員でなくても閲覧可能です。(まだ全部ではありません。)

Archive :: Oriental Numismatic Society

 

英語ですが、(イギリス人が好んで使う)スエズ以東の古代銭から近世銭迄幅広くカバーしていて、著名な研究者の報告も多くかなり専門的です。最近はインド方面が多いですね。個人的にはインドスキタイコインについての大英博物館の学芸員による珍しいコインの報告・考察の記事が時々収載されていて興味深く読んでいます。東南アジアだけでなく、ペルシア・パルチア・クシャン・バクトリア等も記事が多いはずです。(バックナンバーを入手したいがためにメンバーになったのですが、以前はウェブ上でバックナンバーの閲覧ができるようにはなってなくて、事務局の人が一部のバックナンバーをいちいちPDFにして送ってくれました。今回非メンバーも含めて閲覧可能になり折角読めるようになったのですが、今度は怠け癖が出てまだ一部しか読んでいません。)

 

出典:Journal of the Oriental Numismatic Society No. 243/Spring 2021

     “The First Burmese Coin Hoard Outside Burma”, S.K. Bose and Nirupam Khanikar

 

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