引き続きテナセリム地方の大型錫銭の紹介です。

 

 

表がトー(tò)と呼ばれる一部が鹿一部がライオンの伝説上の動物(発音が「トー」かどうかはビルマ語のアルファベット表記が日本人が通常考えている発音とは違うようなので、実際の音は分かりません。)。裏面は、6ないし8スポークのダルマチャクラ(法輪)と思われるシンボルの周りに、パーリ語のビルマ文字表記で、「Maha Sukhan Ga Nagaran/ City of Great Rest (or) Happiness」。大いなる安らぎ(幸福)の町とでも訳せばいいのでしょうか。

 

これもいくつかのバラエティーがあります。(Robinsonの本や、マーケットに出てきたものを見ると、ここに載せているもの以外にかなりたくさんのバラエティーがあると思われます。)

 

Ref. Robinson 6.3、Robinson-70 (Plate 12.3)

 

一行目左から:① 39.51g/66mm、② 43.07g/66mm

二行目左から:③ 41.46g/64mm、④ 38.22g/65mm

 

表:右向きのトー(tò)と呼ばれる一部が鹿一部がライオンの伝説上の動物。(どこがライオンなのかはよく分かりません。足や尾に棘が生えているようですし。)

裏:6スポーク(①②)ないし8スポーク(③④)のダルマチャクラ(法輪)と思われるシンボルの周りに、パーリ語のビルマ文字表記で「大いなる安らぎ(幸福)の町」。但し、③は文字の内側に二か所ドット、④はダルマチャクラのスポーク間にドット。

材質;主として錫と思われる。

 

尚、①と②は異なるオークショナーから全く違う時期に購入したものですが、同じ型から作られたと思われます。

 

発行地:ダウェイと思われる。

発行時期:17-18世紀

 

パーリ語は東南アジアでは仏典の記述によく使用されていますし(注)、裏の模様が法輪だとすると、かなり仏教的な要素の強いもので、寺院への願掛け(絵馬のようなもの?)か寄進の用途に使われていたのではないかとも考えられますが、1776年から1785年にダウェイで布教活動を行っていた宣教師による、錫製のこのデザインのコインがダウェイだけで使用され、市場での日用雑貨の購入に使われていたとの記録があります。‘

 

一枚でどのくらいの価値があったのかは分かりませんが、こんな大きなコインを使って市場で日用品を買うのは大変だったのではないかと思います。(以前紹介したマルタバン湾沿岸での極小銀銭の真逆ですね。)

 

この記事を書きながら、ほんの2-300年前に大いなる安らぎの町と称していたダウェイを含むミャンマー各地で、軍の弾圧による死傷者が多数出ているというニュースに触れると、複雑な心境になります。

 

 

(注);

ミャンマーでよく見られる、確かバナナか何かの葉に漆・金を使って描いた経典です。

文字は多分ビルマ語だと思います。使用言語がパーリ語かどうかは分かりませんが、雰囲気はコインの裏面の文字に似ています。

 

装飾部分にhinthaと思われる鳥も描かれています。

 

参考:

「The Coins and Banknotes of Burma」M. Robinson and L.A. Shaw

 

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